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第64話 それぞれの考え
しおりを挟む俺とクレハがクレハの家に帰ると、クレハの婆さんが優しい顔で「おかえり」と出迎えてくれた。
そして、それに対し「お婆ちゃん、ただいま!」と、心から嬉しそうにクレハは答える。
それと、どうやら婆さんが夕食を用意してくれていたようで、帰宅すると直ぐに三人で食事を取る。
メインはシチューのような料理だが、異世界独自の食材だろうか? 見た事無い野菜や肉が入っている。
(てか、今日は、俺、食ってばっかだな……)
クレハの婆さんの料理は〝家庭の味〟と言った味付だ。クレハの婆さんの料理を食べたのは、これで数回目の筈なのだが……何故か懐かしさを感じる。
この料理も俺は食べた事は無い筈なのにな。
「ど、どうしたの……?」
「ごめんなさい。お口に合わなかったかしらね?」
そんな事を考えていて、少し食事の手が止まっていた俺に、クレハとクレハの婆さんが声をかけて来る。
「いや、何でもない……悪いな。食事中なのに少し考え事をしてた。それに食事も美味い、まだあるなら、おかわりを頼みたいぐらいだ」
そう言い俺は婆さんの作った料理を綺麗に平げる。
「悩み事? 相談ならいつでも聞くよ?」
「大丈夫だ。ありがとう」
「うん……ならいいんだけど」
心配してくれたクレハは、空気を読んでくれたのか、それ以上は特には追求しては来なかった。
「まだ、沢山あるからいっぱい食べておくれ!」
と、クレハの婆さんが言ってくれたので、俺は、一皿おかわりをすると、クレハも「あ、私もおかわり!」と続けておかわりをする。
直ぐ様クレハの婆さんが持ってきてくれたおかわりを、三人で他愛の無い会話をしながら、これまたペロリと平らげ「ご馳走様でした」と皆で食事を終える。
食事を食べ終わった後に、どうしてだか分からないが、俺はこのメンバーに、エメレアやミリアやシスティア……
そして、今は〝元の世界〟にいるであろう──理沙も加えて(いつか皆で食事でもしてみたいな……)なんて、実際問題山積み何てレベルじゃない、そんな事を考えながら、空になった食器を片付けるのだった。
*
食事の後はシャワーを浴び、歯を磨き、後は寝るだけ……の筈なのだが──まあ、いつも通り? と言っていいのか、まだ分からない日数だが、俺がいつも通り、シャワーを浴びクレハの部屋に入ると……
ベッドに腰掛けたパジャマ姿のクレハが──
「じゃあ、今日の事を聞かせてもらうからね?」
俺が部屋に入るなり、怖ーい笑顔の尋問モードだ。
「悪い。その前に1つ聞いて言いか? 真剣な話だ」
俺はその前に──クレハやクレハの婆さんの善意で、この家に居候させてもらい、剰さえ、美味しい食事や、温か過ぎるぐらいの寝床を用意してくれてるクレハに、俺は聞いておかなきゃならない事がある。
「えーと、うん、何かな……?」
逆に質問されると思わなかったのか、クレハは少し戸惑った様子の後に「どうしたの?」と首を傾げる。
「単純な話だ。昼間の〝魔王信仰〟の禁術者を、俺が倒したのは知ってるよな?」
「……え? うん、知ってるよ」
「そうか。理由はどうであれ、結果的に俺は人を一人殺している事になる──この世界ではどうだかは知らんが、俺が〝元いた世界〟では、殺人は、まずどんな正当な理由があろうと、基本ご法度なんだ。普通の人間は、そんなご法度に触れた人間は、怖がられ、気味悪がられ、そして、少なからず距離を置く──」
〝禁術〟だか何だかはよくは知らんし、正直もう人間としての原型は留めていなかったが、それでも結果的に、俺は人を一人殺した事になる。
善意でクレハの家に居候になってる身としては、それをハッキリさせて伝えておかなければならない。
「そうなんだ……ユキマサ君はそれをどう思うの?」
「〝元いた世界〟の時からの個人的な意見だが……確かに俺は人を殺すことは正しいとは言わない。むしろ、間違っている事のが多いと思う──でも、それでも俺は、人を殺すという事が、間違ってはいない時はあると思っている」
大切な誰かが傷ついたり……それこそ大切な誰かが死ぬぐらいなら……人だろうが、魔王だろうが、何だろうが俺は躊躇無く殺す。
〝──人を殺してはいけない──〟
そんな当たり前のルールは〝元いた世界〟では幼稚園児でも知っている。
だけど、いくらそれがルールだろうと……
自身の大切な人──例えば、友人や家族や恋人が危険に晒された時に、大切な人の事では無く、その禁忌を守る事にどれ程の意味があるのだろうか?
もし己が敵を殺さなかった事で、誰か大切な人が殺されたとする。そしてその大切な人を殺した奴は意気揚々と生きている。
勿論。犯人が裁かれる、裁かれないは関係なくだ。
一度、死んでしまった人は生き返らない。
死んだ人は本当に生き返らないのだ。
これは神様にまで確認した。
もし、そうなった時に……
その時の己は本当に正しかったのだろうか?
それは本当に間違ってなかったのだろうか?
──その答えは人によって違うだろう。
この考えにも賛同してくれる者や、反対する者、どうでもいいと考える者、話し自体を馬鹿にする者──その受け取り方や、考え方は人により様々だ。
だから、俺は俺の考えで行動する。
俺がクレハに伝えておきたいのは──
〝俺は人を殺す事を、場合によっては間違ってはいない時もある〟という考えの人間だと事だ。
……でも、人によっては考え方が違う。
だから、俺はクレハに確認したいのだ。
〝そんな俺をどう思うのか?〟
〝そんな俺をここに置いておいていいのか?〟
──と。
「──そっか……私はユキマサ君を信じるよ。それに今回の事も何か理由……もしくは何か考えがあったんだよね?」
「……ああ。俺はあのまま、アリスが危険に晒されるぐらいなら〝魔王信仰〟の禁術者だろうが何だろうが迷わずに殺した。──クレハ。理由はどうであれ、俺は、場合によっては殺人すら厭わない考え方の人間だ。そんな居候の俺を追い出すなら今だぞ?」
俺はここを出て行く覚悟でクレハに質問するが……
「──えい! 喰らえ!」
ビシ! バシ!
『喰らえ!』と言う言葉の通り、俺はクレハのチョップを、脳天に2発ほど喰らった……特に痛みは無い。
俺は「!?」と驚いた表情をしているだろう。俺はそんな自覚がある程に、驚いた感覚が全身に響く。
「私だってそうだよ。もし私の大切な人がピンチなら私だって相手に一切容赦何てしない──それに言ったよね? 私はユキマサ君を信じてるって! 一々そんな事は聞かなくていいから。だから、ユキマサ君は……私に信じられてるって自覚をちゃんと持ってよね!」
クレハは、俺にぴしゃりと言い放つ。
少し顔が赤いのは怒っているのだろうか……
「分かった……ありがとう……」
クレハに叱られてるというのに、何故か、俺はクレハにこうやって叱られた事が、嬉しかった。
それが自分でも凄く不思議な感覚だった。
俺はこうも思ってしまった。
もし、全く同じ言葉を他の誰かに言われたとしても、俺は、こんな不思議な気持ちには、多分ならないだろうなと──。
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