64 / 378
第63話 懸賞金
しおりを挟むクレハからの助言もあり、俺はフォルタニアから〝魔王信仰〟の禁術者の討伐報酬として〝金貨100枚〟を、これまたありがたく受け取る。
……にしても、日本円に換算すると1000万だぞ?
あぶく銭にしても、中々の額だ。
勿論、凄くありがたいんだが──
1日に、こんな風にポーンと一気に大金が入って来ると、何か金銭感覚がおかしくなってくるな。
(昔から、しっかり貯金する派の母さんや理沙には、親父共々『金銭感覚は大事に持ちなさい』とかよく言われたしな……)
「これでギルドマスターに怒られずに済みそうです。……ですが、本音を言えば、不思議と、少し残念な気持ちの自分がいる事に、私自身驚いています」
聞き取りやすい綺麗な声で、淡々と話すフォルタニアだが、本当に少し残念そうな空気を出している。
「そうか、じゃあ、返そうか?」
「む、ユキマサ様、意外と意地悪ですね……?」
もちろん俺は冗談半分で言ったのだが……
フォルタニアが『そうですね、じゃあ、返してください』と言って来たら本気で返す気でもいた。
俺にからかわれた形になったフォルタニアは、いつもの丁寧な対応なのだが……
業務的な対応では無い、新鮮な反応をしてくるので、俺は少し面白くなって来てしまう。
意外に、からかい甲斐のある奴なのかも知れない。
「悪かったよ……それにしても〝懸賞金〟とはいえ、金貨100枚とは──随分と羽振りがいいな?」
「万が一にも〝アーデルハイト王国〟のお姫様が、この〝大都市エルクステン〟で……それも白昼堂々と町中で襲撃に合い、怪我──下手をすれば、最悪の場合、殺されてしまっていた可能性も十分にありますからね……そんなことになれば、ギルドは愚か、この都市自体の警備責任や面目丸潰れ所の話しではありませんから……むしろ、少ないぐらいですよ?」
まあ、アリスは半家出中みたいなものだったから、もしそうなったとしても……半分はジャン達の責任もあるとは思うが。
それでも〝魔王信仰〟の侵入を気づけなかった事はギルドもだが、特に〝エルクステン〟の都市にも責任問題はあっただろう。
「それとお恥ずかしい話なのですが……実は〝禁術者〟が誰なのか──まだ名前すら分からないのです。勿論ですが、名乗った訳でも無いので、分かっていることは〝魔王信仰〟の者という事と〝禁術〟が使えるぐらいには実力者という事だけです……」
「いや、それでこんな懸賞金が出るのかよ?」
「そうですね。元々〝魔王信仰〟の者は、下っぱの者でも、各国から最低限の懸賞金が出ますから。第3騎士隊の報告から見ても、最低でもこれぐらいの額は付いてもおかしくないと言う、私共ギルドの判断です」
うーん。そう言う事かよ……
「それに〝禁術者〟ともなれば、レベル70越えである〝二つ名持ち〟クラスと考えて良いでしょうからね……ユキマサ様、何か知ってる事はございませんか?」
「レベルは知らんが……確か、名前は──ガルロ・ウィスベントとか言う奴だ」
俺は、あの〝魔王信仰〟の奴の名前を、スキル〝見聞〟で見ていたので、それをフォルタニアに伝える。
「ガルロ・ウィスベント? いつ、その名を知ったのですか?」
俺が言った事が、嘘では無い事がフォルタニアには直ぐに分かるので『それは本当ですか?』では無く『いつそれを知ったのですか?』と問いかけて来る。
「知ったと言うよりは見たって感じだな。俺のスキルに〝天眼〟ってのがあるんだが、そのスキルを使えば相手の〝ステータス画面〟ぐらいなら……まあ、何と言うか、覗き見れる……」
「〝天眼〟……そんなスキルもお持ちでしたか。確か〝聖教会〟の〝大聖女様〟も、それと似たようなスキルをお持ちだったと記憶しております」
(〝聖教会〟の〝大聖女〟──エメレアやフィップも、その〝大聖女〟とか言う人物を話に出していたな?)
「それに確か──ガルロ・ウェスベントと言うと、数年前に壊滅した筈の、大規模な盗賊団の頭の名前と一致しますね。二つ名は〝王族狩り〟……しかも、その人物は盗賊団の壊滅後、他の盗賊団の者を囮にして、逃亡し、未だに行方知らず……これは偶然でしょうか?」
「さあな? そこまでは知らん……」
「……の、覗き魔……ユキマサ……変態……黒い……」
勿論だが、そう呟くのはエメレアだ。
てか、オイ、待てコラッ! 黒いは別に悪口じゃないだろ! ──と、俺は抗議しようとしたが……
その前に「エメレアちゃん、静かにだよ」と、クレハにお叱りを受け「う……はい……」とエメレアは静かになったので、俺は開こうとしていた口を閉じる。
「もし、本当にその〝王族狩り〟だったとしたら〝魔王信仰〟ということ以前に〝イリス皇国〟やエルフの国──〝シルフディート王国〟等からも指名手配されてる人物です。少なくとも、懸賞金を合わせれば金貨100枚では到底足りませんね……」
「取り合えず保留で頼む。それに名前は一致したとしても100%の確証は無いだろ?」
「…………そうですね、分かりました」
少しの間の後に、フォルタニアは納得してくれる。
「そーいや、アトラはどうした? 帰ったか?」
──すると、ちょうど、そのタイミングで「あ、ユキマサさん! 見つけました!」と、今しがた俺が行方を探していたアトラが手を振り、鳩のハトラを肩に乗せてこちらに走ってくる。
「今、店主に確認を取ったら調理の件、全然大丈夫らしいです。むしろ喜んでましたよ! それと明日の夜からお店を貸し切りにしてくれるそうなので、孤児院の子達全員で、その時間に来てくれとの事です。あ、それと──調理料金は要らないそうです!」
「何だ? わざわざ聞きに行ってくれてたのか? 調理料金もだが、貸し切りなんていいのか?」
「はい、以前の〝大猪〟のお礼らしいです! お陰様でここ2日で何か数ヵ月分の売上があったらしいですよ! 女将さんも機嫌が良くて、ハトラの件も許可を貰いました!」
「そうなのか? ありがとう、クシェリにもそう伝えて置く。肉は俺が明日にでも店に届けると言って置いてくれ。あと、ハトラの件、良かったな?」
「はい、分かりました! それにハトラはもう私の家族です! あ、これからお店に戻らなきゃなので、これで失礼しますね! クレハさん達もそれでは!」
ぶんぶん! と、手を振るアトラは颯爽と去っていく。
そしてよく見ると、鳩のハトラも片方の翼をパタパタと振っている。
「あのハト賢いわね?」
手を振り返す鳩のハトラを見て、エメレアがボソッと感想を呟いている。
ちなみに、嵐のように来て、嵐のように帰って行ったアトラについては、クレハ達は慣れっこみたいで、特に何も言わず手を振り返している。
「……えーと、それじゃ私達も帰ろっか?」
──と、言うクレハの言葉に反論する意見も特に無く、俺達はフォルタニアに軽く挨拶し、ギルドを後にする。
ちなみにエメレアとミリアは寮に帰るらしい。
俺とクレハはクレハの家に帰るので、ギルドを出た所で、軽く言葉を交わし、それぞれ帰路に着く。
「じゃあ、ユキマサ君、私達も帰ろっか?」
「そうだな」
「で、帰ったら、今日の事を、じっくりとお話聞かせて貰うからね?」
そう言いながら、表情は穏やかだが、何やら迫力のある笑みに俺は「あ、ああ……」と少し言葉に詰まりながら、何とも曖昧な返事を返すのだった──。
108
お気に入りに追加
539
あなたにおすすめの小説
初期ステータスが0!かと思ったら、よく見るとΩ(オメガ)ってなってたんですけどこれは最強ってことでいいんでしょうか?
夜ふかし
ファンタジー
気がついたらよくわからない所でよくわからない死を司る神と対面した須木透(スキトオル)。
1人目は美味しいとの話につられて、ある世界の初転生者となることに。
転生先で期待して初期ステータスを確認すると0!
かと思いきや、よく見ると下が開いていたΩ(オメガ)だった。
Ωといえば、なんか強そうな気がする!
この世界での冒険の幕が開いた。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
ファンタジー
秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした
服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜
大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。
目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!
そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。
まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!
魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる