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第54話 ゴゴゴゴ……
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ギルド直属〝第3騎士隊〟と〝第8騎士隊〟の2隊の本隊は〝魔王信仰〟が現れ、その内の一人に〝禁術〟を使った者が現れたと言う場所に到着すると……
──既に、戦いは終わった後であった。
到着した場所の地面には、一部が大きく〝円状〟に黒く焼け焦げたような形跡がある。
そして〝アーデルハイト王国〟の兵士によって、全身を如何にもという、怪しげなマントに身を包み、顔は目元以外を黒い布で覆い隠した〝魔王信仰〟の者が、拘束されている。
その〝魔王信仰〟の者達は全員が気絶しており、その誰もが魔法を使う気配は愚か、指一本とて動かす気配は無かった。
「──何よこれ! あの馬鹿はどこに行ったのよ!」
そう不機嫌な様子で呟くエメレアは、
「しっ、エメレアちゃん、任務中だよ?」
と、クレハに言われ、
「う、ごめんなさい……」
と、直ぐにショボンと静かになる。
そのエメレアの後ろからはミリアが、とことこと辺りを警戒しながら、少し駆け足でついてくる。
すると音も無く、先頭を歩く第3騎士隊長のヴィエラと第8騎士隊長のシスティアの目の前に、一人の執事服を着た年配の男性が現れる。
「これはこれはお忙しい中、駆け付けて頂き、感謝申し上げます。申し遅れましたが、私は〝アーデルハイト家〟の執事長を勤めております──ジャン・ウィリアムと申します。以後、頭の片隅にでも留めておいて頂けたら幸いでございます」
その男性は〝老紳士〟と言う言葉がとても似合う姿や立ち振舞いで、手本のように綺麗なお辞儀をする。
「遅れてしまい申し訳ありません。この都市のギルドから参りました。ギルド第3騎士隊長のヴィエラ・フローリアと申します!」
「同じくギルド第8騎士隊長のシスティア・エリザパルシィと申します!」
現れたジャンに、二人はビシッと敬礼をする。
「ほほ。こんな老いぼれに、そんなお気を使う必要はございませんぞ。皆様、お気軽に接してくだされ」
「いやはや……彼の〝千撃〟殿を頭の片隅にとは、流石に恐れ多いのですが……んッ、ん、失礼、申し訳ありません」
まだ〝魔王信仰〟が潜む可能性がある、この状況下での返答としては、気を抜き過ぎというか、少し失言だったかと思い、システィアは軽く咳払いをし謝罪する。
「いえいえ、何も謝ることはございません。ですが、お越しいただいた所を申し訳ありませんが──奇襲を仕掛けて来た〝魔王信仰〟の者共は、既に無力化済みでございます〝禁術者〟もこちらの都市の冒険者様により討伐済みでございます」
ジャンが話し終わった。
丁度、その時。
空から、バサリ! と音を立てながら──
「お話中、失礼します、ヴィエラ隊長!」
上空から辺りを監視していた〝鳥人族〟の緑髪に〝短髪〟の第3騎士隊所属の少女──フィオレ・フローリアが降りてくる。
「ご苦労様、フィオレ、状況はどう?」
「〝禁術者〟は〝千撃〟殿の言う通り、冒険者の──ユキマサ殿によりに討伐されました。それと、付近の住民への被害も最小限に抑えられたかと思われます。少なくとも現在、住民や兵士の方々の負傷者並びに死者は確認されておりません」
「そう、分かったわ。ご苦労様。引き続き、空から監視をお願いできるかしら?」
「了解しました」
と、返答し一礼した後、バサリと翼を広げ再びフィオレは上空からの監視へ戻る。
「ジャン殿。捕らえた者はどうなさるおつもりですか? 差し支えなければ、ギルドで聴取を行った後、私共から、この都市の憲兵に引き渡しますが?」
捕らえられた〝魔王信仰〟の者を横目に見ながら、システィアがジャンに問いかける。
「それはありがたい申し出ですが……もしよろしければ、その場に私も立ち会わせていただいても、よろしいですかな? 少し聞いてみたい事がございますので……」
「勿論構いません。それと、つかぬ事をお伺いしますが、その〝冒険者〟──ユキマサは、今どこにいるのでしょうか?」
「ユキマサ殿でしたら、アリスお嬢様とフィップ先輩を連れて、街の方へ向かったみたいですぞ?」
「お、王女様と〝桃色の鬼〟殿とですか……!?」
「ええ、アリスお嬢様もですが──あの、フィップ先輩まで彼を気に入った様子で私も驚きました」
──その話を、システィアの後ろで聞いていた、エメレアが……
「あの、変態スカっ誑し男……今度は王女様と、一部では──殺戮美人とか呼ばれてる〝桃色の鬼〟と何やってんのよ!?」
と、呆れたエメレアが、ふと、隣を見ると……
「ひゃッ!? く、クレハ? ど、どうしたの?」
エメレアの隣にいるクレハが目を細めながら、
「ふーん……ユキマサ君、また他の美人の女の人と仲良くなってるみたいだね……そうなんだ……ふーん」
と、表情は微かに笑ってはいるが、目が全く笑っていなかった。そして、クレハから誰に向けてかは分からないが、全身からゴゴゴゴ……! という効果音が似合う、凄まじい圧が感じられる。
「エメレアちゃん……ミリア……?」
「ひゃい、じゃなくて、はい、な、何かしら?」
「く、クレハどうしたの!? 何か、ゴゴゴゴ……! ってしてるよ……!?」
クレハがそのままの表情で二人の方を振り向くと、この二人でも見た事の無い、心底不機嫌そうなクレハを見て、エメレアとミリアは珍しく慌てている。
そしてミリアよりもエメレアの方が、言葉を噛むというのも、これはこれでまた珍しい出来事だ。
「ユキマサ君には『夕御飯までには帰って来てね』って伝えておいたから、恐らくそれまでには帰って来ると思うから、急いでお仕事片付けないとだね!」
にっこりと笑ってはいるが、怖いぐらい顔の筋肉だけで笑っており、誰がどう見ても作り笑いである。
「そ、そうね、頑張りましょ……!」
「わ、私も頑張るよ……!」
二人は半ば気圧される形で、首を必死に縦に振り、目の前の静かに怒るクレハを、これ以上怒らせてはいけないと察し、仕事に勤しみ始める。
「でも……こういうクレハも……私的には、これはこれで……あ、いえ、クレハは素直な笑顔が一番よね!」
そんな事を小さく呟き、何やら考え込む様子のエメレアの言葉は、誰の耳にも届かず、辺りの騒音に掻き消されるのだった──。
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