生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ

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第44話 桃色の鬼

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「ぐふッ……まだだ……まだ私は倒れる事は無い……」

「ふむ、まだ立ち上がりますかな?」
「当たり前だ! この世界に守るべき幼女がいる限り私が倒れることはない!」

 剣を支えにしながらクシェラは立ち上がる。

 だが、クシェラの身体はもう限界だ。

 クシェラは〝千撃せんげき〟にとはいえ、身体のあちらこちらに確実なダメージがある。顎にも一発喰らっていて、脳震盪を起こしており、立つ事もやっとだ。

 相手はアーデルハイト王国の執事長。二つ名は〝千撃せんげき〟──レベルは90を越える古強者ふるつわものだ。

 そして、勝負の行方は圧倒的であった。

 ──クシェラの完敗だ。

 力、スピード、技、経験、魔力、魔法、レベルの全てがクシェラよりも遥かに〝千撃〟が上回っていた。

 でも、クシェラは立ち上がる。

「はて、おかしいですな? もう2回程、意識を狩り取ったつもりでしたが?」

「ふん……幼女のいる世界で、意識を失うなど笑止千万! そんな無駄な時間を過ごすつもりは無い!」

「何か強い決意を感じますが、そろそろ決着を付けさせて貰いますぞ?」

「まあ、待て。これを見ろッ!」

 クシェラは胸ポケットからある物を取り出す。

「ただのポーションに見えますな?」

「──愚か者めッ! これはただのポーションでは無い! 我が孤児院にいる幼女の皆に貰った、大切なポーションだ! これがあれば、まだ私は貴様とだって戦える。私は一人では無いのだ! この世界に守るべき幼女がいる限り、私は永久に不滅だ!」

「……70年という年月を生きて来ましたが、貴殿のようなお方は初めて見ましたぞ? ならば、私も少し本気で参りましょう。引くのでしたら今でございますが……どうなされますかな?」

 〝千撃〟は今までに無い殺気を込める。

 その瞬間、辺りの空気が変わるような、ゾクッとする感覚をクシェラは感じる。

 ──でも、クシェラは下がらない。

 この世界に守るべき幼女がいる限り……
 クシェラの頭に撤退と言う文字は無い!!

「言った筈だ! 幼女は永久に不滅だとな!」

 と、その時──

 そう改めて宣言するクシェラの上空から、クシェラの聞きなれた女性の声が聞こえてきた。

「《走れ・水の波・数多の龍》──〝水龍の波ドラコ・ウーダ〟」

 ──ドバン! ズドン!

 魔法で作られた二匹の水の龍がクシェラを襲う。

 そして、この攻撃は上空からのであった。

「ぐふぁ!」

 既に、千撃との戦いで意識が朦朧としていたクシェラは、この攻撃をまともに喰らってしまう。

 ──シュタ……と、

 この攻撃の放った張本人が地面に降りてくる。

「き、貴様ッ! 何故だッ!?」

 クシェラはその人物を睨むが、そんな事はお構い無しに、その奇襲を仕掛けた女性は口を開く。

「すまない、私の愚兄ぐけいが迷惑をかけたな!」

 と、奇襲を仕掛けた犯人こと──クシェリ・ドラグライトは〝千撃〟に向け謝罪する。

「──愚兄と申されますと、ご兄弟ですかな?」
「ああ、不本意ながらこれは双子の兄だ。──ん? まだ息があったのか? 喰らえ! トドメだ!!」

 魔力を込めた踵落としを、クシェリはクシェラの鳩尾みぞおちへ容赦無く叩き込む!

「ゴファッ!! き、貴様、な、何をする……」
「く、まだ息があるか。仕方ない《響け──》」

 と、クシェリは魔法の詠唱を始めるが……

「待ちなされ、お嬢さん。トドメは必要ないですぞ」

 それを〝千撃〟により止められる。

「ん? そうか? 別に私は構わんが?」
「失礼……本当にご兄弟ですかな?」

「残念ながらな。それにこれは、私が責任を持って回収する──後、貴様に伝言だ『ちゃんとギルドに送るから心配すんな』だそうだぞ?」

「その伝言はの彼からですかな?」

「他に誰がいる? それとお姫様も元気そうだったぞ? 誘拐だなんてはなはだしい」

「……かも、知れませんな? ですが、私は立場上、お嬢様を保護しなければなりませんので、先を急がせてもらいますぞ?」

「勝手にしろ。場所は言えんが、追う者の足止めをする約束はしていない」

「……? ちなみに、そちらのご兄弟を倒す事は、お約束されていたのですかな?」

「いいや。私は基本、この愚兄が騒いでいたら止めるようにしている。やかましいからな?」

 そう、あっけらかんな態度で言うクシェリに、
「さ、左様でございますか……では、失礼致します」
 と、これまでは優雅に話していた言葉を少し詰まらせながら〝千撃せんげき〟は、音も無くその場を去る。



「──へぇ、あれが吸血鬼か?」

 先程、いきなり上空から魔法をぶっ放して来た、桃色の長めな髪をサイドテールにした女を観察する。

(〝桃色の鬼ロサラルフ〟……これもシスティアが少し話していた奴だな──それとコイツはアリスが言うには〝妖怪世話焼き爺〟よりも実力が上らしい)

「何故、まずなのですか? フィップは、レベルは90越えのウチの国のなのですッ!」

 いつの間にか、両手で〝リッチ熊のぬいぐるみ〟を持っているアリスは、少し慌てている様子だ。

「おい、そこのスイセン服の男? 早速だが、お嬢を返して貰うぞ? あたしはまだ眠いんだ……早く帰りたい」

 そういうと桃色吸血鬼は、一瞬で間を詰めて、

 ──ビュンッ!!

 と、ごっつい大鎌を縦に振りかざしてくる。

 俺は、アリスを片手で抱え、──バン! と、バックステップで後ろに下がり、その攻撃を避ける。

 ──ドガンッ!!!!
 
 桃色吸血鬼の大鎌が、俺が今さっきまで居た場所の地面を、粉々に割る。

「お、避けたな?」

 すると、直ぐに桃色吸血鬼は、ドンッ! と、地面を蹴り、大鎌を持ち直して、追撃してくる。

「そりゃ避けるだろ? てか、最初の魔法……アリスもいたんだぞ、躊躇無く打ってきたよな?」

 ──キンッ! ガキン! キン!

 俺は〝月夜〟で──桃色吸血鬼の攻撃を捌きながら、問いかける。

「何を言うかと思えば、そんな事か? ──お前、あの程度の魔法でどうにかなるような奴じゃないだろ? こないだのヒュドラの〝変異種ヴァルタリス〟を倒したってのはお前だな?」

 ニヤリと桃色吸血鬼は交戦的な笑みを浮かべる。

「な、お前がそうだったのですか!?」

 と、驚くのは、熊ぬいぐるみのリッチを両手に抱えた状態で、更に俺に抱えられてるアリスだ。

 さっき、チラッとクシェリも言ってたんだがな? アリスはその話しはよく聞いてなかったみたいだ。

「……」
 と、無言の俺に……
「沈黙はなりだぞ? 少年ッ! ──まあ、吹っ飛びなッ! ──〝爆鎌ブラスト〟!」

 ──ッ!?

 ドカァーンッ!!!!

 桃色吸血鬼が大鎌を横薙ぎに振るい、それに合わせて、発動して来た魔法により、俺はアリスを抱えたまま吹っ飛ばされる! 

「──たくッ、服が破れちまうじゃねぇか!? 寝間着以外は、これしか着るもん無いんだぞッ!」

 魔力を込め、俺はアリスを守るようにしながら、受け身を取るが……思いのほか、後方へと吹っ飛ばされる。

「まったくなのです。アイツは減給なのです!」

 俺に抱えられたまま、ぷんすこ怒るアリスも、どうやらゴスロリ服が、切れたり、汚れるのはお気に召さないらしい。

「まだまだ本気じゃねぇな? 少し遊ぼうぜ?」
 
 好戦的な笑みのまま『遊ぼうぜ?』と言いながら、桃色吸血鬼が──パチンッ! と軽く指を鳴らすと……

「──ッ!?」

 上空、正面、左右の、あちらこちらに──まあ、如何いかにも『魔法を撃ちますが、何か?』と言わんばかりの、沢山のが俺とアリスを取り囲んでいた。
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