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第37話 ありがとう
しおりを挟む「──え、エメレアちゃん!?」
「クレハだって気になるでしょ? それとも、もう聞いてるの?」
「う……気になる……! それとそれは聞いてないよ。私が聞いたのは、ユキマサ君の〝出身〟や〝目的〟とか〝フルネーム〟だよ」
軽く説明するクレハだが、しっかりと伏せるべき所は伏せてくれている。
「分かった〝ユニークスキル〟だな? でも、あんま口外はすんなよ? 能力とか、戦い方の情報ってのは、知られてるのと知られてないのじゃ、天と地の差があるんだからな?」
まあ、これは〝元いた世界〟で、牧野に聞いた話の受け売りなんだがな……
『情報は時に矛にも盾にもなる。人は情報を武器に、あらゆる物事に対処し不可能を可能にして来た──』
とか、何とか……朝っぱらから、孤児院の様子を見に来た牧野が、理沙に淹れて貰ったコーヒー片手に〝六法全書〟を読みながら、そんな事を言ってた。
後、六法全書を読んでる牧野に話しかけた理沙が、
『──悪い。今いい所なんだ。すまないが、火急でなければ後にしてくれ』……って言われたって……
真剣に悩んだような様子で『私、もしかしなくても牧野さんに嫌われてる……?』とか、俺に割りと本気で相談して来たこともあったな。
まあ、それはそうと、牧野は『だが、情報を得たからと言って過信は良くない』とも言ってた。
どっちだよ。って、言いたくもなるが……
まあ、牧野の言う通りだ。そりゃそうだ、そこら辺は、臨機応変に対応しなきゃいけない難しい所だ。
「──は? 嘘ッ!? 話すの?」
聞いた本人のエメレアがビックリしている。
(こいつダメ元で聞いてきてたのか?)
「わ、私も聞いててもいい……?」
「今さらこの状況で、クレハには教えないだとか、そんな嫌がらせ染みた事はしないから安心しろ」
「うん、ありがとう」
というか。今現在もクレハは俺の左腕に抱きついてる形なので、嫌でも聞こえるだろうしな。
「話すなら早く話なさいよ。じれったいじゃない……」
既にご立腹の様子のエメレアだが、先程から『クレハと間接ハグ……』だとか言って、俺の右腕に抱きついている形の状況になってから、何となく、いつもよりエメレアの言葉にあまりトゲを感じない。
「──俺の〝ユニークスキル〟に〝異能〟ってやつがある。色々と効果はあるが、その1つに魔法とかを使った時に独自の追加効果が発動されるらしい。俺の〝回復魔法〟で病気が治ったのもそれのせいだな。まあ、俺の〝回復魔法〟でも死人は生き返らないし、生まれつきの病気や、何故か風邪は治せないけどな?」
これは俺のスキルの〝天眼〟で自分で調べた。
もう1つのユニークスキルの〝不明〟も調べたが、こっちは〝天眼〟で調べても分からなかった。
「あ、だからお婆ちゃんの『病気は生まれつきか?』って聞いたんだね?」
「そういうことだ」
「〝異能〟ね……というか、追加効果って……しかも只の追加効果じゃなくて、あり得ないレベルの追加効果が追加されてるじゃない……つくづく、あり得ない事ばかりね……後、その〝魔力量〟は何なの?」
「さあな。聞いた話だと、俺の〝魔力量〟は結構高めらしいな」
(確かアルテナには『トップクラスで高いですよ♪』って言われたっけな?)
「た……高めってレベルじゃないわよ? ハッキリ言って格が違うわ。私は一度〝聖教会〟の〝大聖女〟を遠目に見たことがあるけど、恐らく貴方はその〝大聖女〟よりも高いわ……」
(何だ、珍しくエメレアが随分と誉めてくれるな? また酔っぱらってるんじゃないだろうな……?)
「エメレアちゃんもだけど、エルフの人達は種族的にも〝魔力感知〟とか得意なんだよ」
俺が知らないだろうと思っての事か、クレハが分かりやすく、少し補足をしてくれる。
「そんなのあるんだな?」
それに個人的なイメージだったが……エルフは〝魔力〟とかに博識なイメージは、正しかったみたいだ。
「というか『聞いた話だと』って、貴方の魔力量の話は誰に聞いたのよ? フォルタニアさん? ギルドマスター? それとも、クレハかしら?」
「いや、違う」
「じゃあ誰よ……?」
……仕方ない。遠回しに言うか。
「〝あまり聞かない職業〟をやってる奴だ」
アルテナは『職業は神様です♪』とか言ってたからな。どう考えても、あまり聞かない職業だ。
「……ユキマサ君……スゴい誤魔化し方したね……」
俺はクレハに、この世界からみて〝異世界〟から来た事とかの話しをした時に、チラッとそのアルテナの『職業は神様です♪』の話をしてたので……
──〝あまり聞かない職業〟=〝神様〟で、それがアルテナの事を指しているのを、理解した様子のクレハが「うー……まあ……間違っては無いけど……」と可愛く首を捻っている。
「……ユキマサのことだから、どうせ女でしょ? このキザの女誑しの黒い変態は……」
男か女の二択の回答なのだが、普通に当てられてしまった。それとエメレアの中で、俺は女誑しで確定しているらしい……いや、今更か。
「そういえば、昨日は聞かなかったけど……その〝あまり聞かない職業〟の方もどうせ美人だったんでしょ?」
じーっと、目を細めて俺を見ながら、質問してくるクレハは、少し不機嫌だ。
「……どうせって何だよ? 確かに美人だったけどさ」
「……ふーん……ふーん……まあ、そうだよね……」
最初はムスり顔だったが、はぁ……。と、息を吐き、クレハは何処か納得するような様子になる。
「クレハ、こんな〝スカした変態〟は放っておいて、もう寝ましょ?」
少し上体を起こしながら、エメレアは優しくクレハの顔を見ながら話す。
「お前の俺への呼び名はいくつあるんだよ?」
「自分の胸に手を当てて考えてみなさい」
この……分かるわけねぇだろ……?
「だから二人とも喧嘩しないの、それに夜は静かにしなきゃダメだよ? ミリア達だって寝てるんだから」
「う……ごめんなさい」
普通に正論で怒られ、ションボリと謝ると、再び横になるエメレアは、再び俺の右腕に抱きついてくる。つーか、まだ続けるんだな? 間接ハグ……
いや正直、エメレア程の美少女に抱きつかれれば、嬉しいけどさ。それに、超が付くほどの美少女の、クレハまで抱き付いて来てくれてるし……
(それに何度も思うが、何か色々と柔らかいし、めちゃくちゃイイ匂いがする……てか、色々とやばい、落ち着け……まあ、勿論、クレハの信用を裏切るようなことは絶対しないが……)
「じゃあ、そろそろ、私たちも寝よっか?」
「……そ、そうだな」
「ええ、お休みなさい」
「後……ユキマサ君……寝る時……このままの体制でもいい…? ほ、ほら、やっぱ3人だと少し狭いし……!」
あいからわず、俺の左腕に抱きつく形のクレハが、少しそわそわとした感じで聞いてくる。
「俺は構わない。というか大歓迎だ」
もうここまで来てダメ何て言うわけがない。
「うん、ありがとう……/// 大歓迎……よかった……」
と、言いながら、ぎゅっと腕を掴む力がまた少し強くなる。
「じゃあ、エメレアちゃん。ユキマサ君。お休みなさい」
と、クレハが言うと、
「……お休みなさい。クレハ、ゆっくり休むのよ?」
「ああ、お休み」
エメレアと俺もお休みの返事をする。
「エメレアもな。お休み」
俺はエメレアにもお休みを言っておく。
「ユキマサ……クレハをもし悲しませたら、本気で許さないから、それだけは覚悟しておきなさい。いいわね?」
エメレアは俺の耳元でいつもより、少し低いトーンで、尚且つ、クレハには聞こえないぐらいの声で囁く。
「……分かってるよ」
そもそも、俺はクレハを悲しませる気なんて毛ほども無い……てか、やっぱり、俺はエメレアからは、あまり信頼無いみたいだな。
エメレアが俺のこの腕を掴んで寝てるのも……〝俺の見張り〟と〝クレハへの間接ハグ〟とかいう、クレハ大好き100%の行動だからな。
「そ、ならいいわ。お休み……」
と、言い目を閉じるエメレアは、数秒後には、すやすやと寝息を立て始める。
(お前寝るの早いな!?)
まあ、何はともあれ、クレハと俺とエメレアの3人は、月明かりが射し込む、どこか心地のよい夜の静けさの中で、ゆっくりと眠り落ちていくのだった。
*
──パタン……
と、優しく扉を開ける音が聞こえる。
(んッ……エメレアか? それにまだ夜中だな……)
少し目が覚めると、右腕を掴んで寝ていたエメレアの姿がない──恐らくは、トイレか、喉が乾いて水でも飲みに行ったのだろう。
数分立つと……
パタン……
優しく扉を開けたエメレアが入ってくる。
「……!!」
帰ってきたエメレアは、寝ていた筈の俺と目が合い、ビクッと身体を震わせる。
「な、何よ……起きるなら、起きるって言ってから起きなさい。ビックリするじゃない……」
時間も時間だし。クレハもぐっすりと寝ているので、かなり小さめの声で言ってくる。
つーか、起きるって言ってから起きなさいって、実現したらシュールを越えて軽いホラーだぞ、それ。
「まあ、丁度いいわ……」
と、そのまま歩いて来て、ベッドに腰をかける。
「どうした? 寝れないのか?」
俺も、熟睡中のクレハを起こさないように、小さめの声で話す。
「別に……そうじゃないわ。う、でも、やっぱ無理かも……」
むむむ……と何かを少し悩んだ後にエメレアは、すすっとベッドに入って来て。
そして寝転がり、また俺の右腕に抱きついてくる。
(クレハとの間接ハグとか言うやつ…… 取り敢えず、それは、まだ継続なのな?)
そして更にもぞもぞと移動し、エメレアは互いの吐いた息が、かかってしまいそうなぐらいの距離まで近づいてくる。
「黙って聞きなさい……」
「……」
「そ、その……ユキマサ……ありがとう……。私の大切な人達を助けてくれて……救ってくれて……!」
「──ッ……!?」
いつもの、俺への態度らしく無い感じの表情と、声で、エメレアが俺に礼を言ってくる。
だが、やはり少し恥ずかしがっているのか、全身をそわそわとし、月明かりで見えたエメレアの顔は、赤く赤面しているが、その目は真剣だ。
「ヒュドラの時も貴方がいなければ……クレハもシスティアさんも……そして助けに入った私やミリアも多分……死んでいたと思う……」
すると……エメレアは、今度は俺の腕に顔を埋めるような形になり話すので、表情は見えなくなるが、その声と身体がブルブルと震えている。
「……それに、もし撤退が成功していても、システィアさんは毒も喰らってたし、かなり危なかったと思う」
確かにあの中で、一番に重体な奴は誰かと聞かれたら、即答でシスティアだったな。怪我も酷かった。
「お婆ちゃんの病気の件も……クレハは凄く凄く辛そうに心配してたの。私にとっても凄く大切な人で〝本当の家族のような存在のお婆ちゃん〟だけど……」
エメレアは少し唇を噛み締める。
「……でも、クレハは、生まれてからずっとお婆ちゃんと一緒にいたから。その分、私達よりもずっと『もうお婆ちゃんの病気の完治は難しい』って診断された時は、本当に、本当にショックだったと思う……」
エメレアの声が少しずつ小さくなっていく。
「……だから……だから……」
そしてその声がだんだんと涙声へと変わる。
「……ユキマサ……本当に……本当にありがとう……!」
白く綺麗な顔を赤く泣き腫らし、エメレアは嗚咽を漏らしながら、普段の俺へのエメレアの態度からは想像ができないような、優しい声でお礼を言って来る。
「どういたしまして。よかったな、エメレア」
「うん……よかった……後……本当に怖かった……」
エメレアは年相応の、一人の女の子といった感じで『怖かった……』と何度も何度も繰り返し、俺の服の裾を強く握る。
そして、これがエメレアの本心なのだろう……
『また、私の大切な人が居なくなるかと思った……本当に……本当に怖かった……』とエメレアは俺の腕にしがみ付き、嗚咽を漏らしながら、今まで我慢していた物を、全て吐き出すかのように泣いている。
「ったく、いつもこれぐらい素直ならいいのにな?」
「う、うるさい……後、クレハの事を悪い意味で泣かせたら、本当に許さないから覚えておきなさい!」
「分かった。覚えとくよ」
そう返すとエメレアは、こくんと頷き……
その後に、また一頻り泣くと、そのまま泣き疲れて寝てしまい、今は可愛らしく寝息を立てている。
「──で、どこから聞いてたんだ?」
「……う、やっぱ気づいてた?」
何も言わずに聞いていたが……
実は途中からクレハは起きていた。
(まあ、最初は小さい声で話していたとはいえ……最後はあれだけ大泣きすればそりゃ起きるか)
「この距離で気づかれてないと思ったか?」
「……あはは。だよね? エメレアちゃんがベッドに座った辺りかな?」
「全部聞いてたんじゃねぇか……!」
「う……出るに出れなくて」
(まあ、確かに。クレハが起きてたらエメレアはどう考えても、あんな話をしなかっただろうからな……)
「それにしても……ユキマサ君……毎日、女の子を泣かせてるね?」
「人聞きの悪いことを言うなよ……」
「そうだね……それにありがとう。ヒュドラの時もお婆ちゃんの事も……ユキマサ君……本当にありがとう……あと……大好きだよ……!」
「──……ッ……ど、どういたしまして……」
最後の『大好きだよ』に不意を突かれ、言葉が少し詰まってしまった……多分、ヒュドラの時の話や、婆さんの話の後の、今の流れだと、多分友達としてとか、そういう意味だろうが、流石に少し驚いたな。
「……///……私……も、もう少し……ね、寝るね……」
耳まで真っ赤にした顔を俺の左腕に埋める。
「……あっ……やっぱ温かい……お休みなさい……」
クレハは優しい声で呟き、ゆっくりと目を閉じる。
「お休み」
俺は小さく返事を返すと、俺も目を閉じる。
(ん、本当だ、温かいな……)
それと……少しだけ……懐かしい感じがする……
その懐かしいと言う感覚が、何に対して俺は懐かしいと感じたのかと、少し頭の中で考えてる内に、俺はいつの間にか眠ってしまった。
いつの間にか、自分が眠ってしまっていた事に俺が気づく頃には……もうこの〝異世界〟の広い空を〝元いた世界〟と同じく、明るく大地を照らす、真っ赤な〝異世界の太陽〟が空に昇った朝の事だろう──。
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