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第34話 ご馳走さまでした
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皆が夕飯を食べ終わる。
……息ピッタリだな。
「ご馳走さまでした」
その波に乗れなかった俺は、4人に少し遅れながら食事を終える。
すると、店の出入口の方からは……
『いらっしゃいませ! 列に並んでくださーい!』
と、大変忙しそうなアトラの声が聞こえる。
無事に女将さんに許しを貰い、グレずに仕事に戻ったようだ。
そして俺は近くを通りかかった、
赤い髪のエルフのウェイトレスに──
「悪い、その皿を借りれるか?」
と、カウンター近くに並べられてた大皿を指さす。
「あ、はい。これですか? どうぞ?」
一瞬『何に使うんだろ?』みたいな視線を向けられたが、特に問題無く貸してくれる。
そして、先程の件もあり……何かアトラが可哀想になってきたので、まだ〝アイテムストレージ〟にあった〝大猪の肉〟を大皿一杯に取り出し──
「クレハ、エメレア。まだ肉はあるから、アトラに持ってってやってくれ……従業員への賄い用にってな?」
と、先程から罪悪感がありそうな様子の二人に、従業員の賄い用に大猪肉を渡して来るように頼む。
「い、いいの……? 何か私もさっきから申し訳ない気持ちが絶えなくて」
「た、助かるわ……」
これには俺もビックリな事に、あのエメレアまでが、俺に礼に近いことを言ってくる。
──帰りに雨とか降らないよな?
今、傘持ってないんだぞ。勘弁してくれよ?
「まあ、お裾分けの言い出しっぺは俺だからな?」
「ふふ。やはり、ユキマサは優しいのだな?」
その様子を見て、楽しそうに笑うシスティア。
俺から肉を受け取り、クレハとエメレアがアトラの元へと大猪の肉を持って行くと……
「い、いいんですかッ!」
さっきの事も忘れ、
アトラのテンションはMAXになる。
アトラは騙されやすそうだな?
色々気を付けろよ? 絵とか壺とか。
クレハとエメレアは『『さっきはごめんなさい!』』と謝っている。そしてアトラはというと、パタパタと手を降り『き、気にしないでください!』と言っている。
そんなこんだでアトラへの罪悪感も片付いた所で、
「──店も混んできたしそろそろ帰るか?」
と、システィアとミリアに声をかける。
「そうだな。ごちそうさまでした」
「ふぁ、ふぁい。ごちそうさまでした!」
二人は、俺の言葉に頷きながら、席から立ち上がり、クレハとエメレアの元へ向かう。
すると店の厨房から、女将さんと眼鏡をかけた黒髪の30代ぐらいの男性が出てくる。
「君があの〝大猪の肉〟を持ってくれた人だね! 素晴らしい肉だった、感激したよ! あんなに素晴らしい鮮度の肉は今まで見たことが無い! ありがとう、楽しい料理だった!」
様子を見るに、かなりの職人気質の料理人ようだ。
ここまで言われると食事も気持ちいいな。
勿論、料理も世辞無しで絶品だったしな。
「こちらこそ、最高の料理だった。ご馳走様でした」
「それに、昨日も色々と店の方もかなり世話になったみたいで本当にありがとう! ──〝腹拵えなら、料理屋ハラゴシラエへ!〟またいつでも来てくれ! 歓迎する!」
「お互い様だ。昨日も今日も、食事は無料にしてもらちまってるしな──また、是非に寄らせてもらうよ。改めて楽しい食事だった、ありがとう」
てか〝腹拵えなら、料理屋ハラゴシラエへ!〟
……って、そういうキャッチフレーズなんだな。
いいんじゃないか? 分かりやすくて。
少なくとも──〝ハラゴシラエ〟って名前の店に『武器ください』とか言って来る奴はあまりいなさそうだからな。
「そこはもう少し損得勘定を入れてほしいわね? こっちが申し訳なくなるわ。でも、ありがとう。それとこれが約束のお肉の代金よ」
女将さんに金貨の入った袋を渡される。
飲食店で肉を食べた後に『お肉の代金よ』と金貨を渡されるというのも、中々に珍しい体験だな。
「ん? 5枚も多いぞ?」
中を確認すると、金貨が10枚ではなく──15枚入ってる事に気づく。1枚ならともかく、10枚の物を5枚も間違えて入れるとは流石に考えにくい。
「最後にアトラが肉を貰っていたでしょう? 『従業員の賄い』とかで──それはそれの分よ。気持ちはありがたいけど、せめて賄いぐらいは経営者としてカッコつけさせてほしいわね」
「そう言われたら返す言葉も無いな? 毎度あり。後、ご馳走さま」
ここで遠慮するのも、断るのも失礼だろうと思い、俺はありがたく金貨を受け取ると──クレハ、エメレア、ミリア、システィアと共に店を後にする。
*
店から出ると、外はすっかり日が落ち夜であった。
──空を見上げてみると月も出ている。
これで〝異世界〟にも太陽も月もあるのが確認できたな。数も一緒で太陽も1つで月も1つだ。
だが、月は日本で見るより大きいし明るいな?
(〝異世界〟だとこれが普通なのか? これ〝スーパームーン〟とかよりも全然明るいんじゃないか?)
まあ、あれが本当に月なのかは知らないけどさ。
「ユキマサ、改めてご馳走様。本当は私が君たちに〝大猪の肉〟を買っていこうかと思っていたのだが……いやはや、その肉を持ち込んだのが、君だったとは、世界は狭いというか何というか……」
そういや、システィアと偶然に店であった時に、そんな話しを女将さんとしてたな?
「どういたしまして……で、いいのか? 正確には奢ったのは女将さんだぞ? 礼ならそっちに言っとけよ」
「まったく本当に君は……勿論、女将さんにも礼は言ったが……私は君に礼が言いたいし、礼をしたいのだが……」
「私もご馳走様でした。後、凄く美味しかったね!」
と、満足そうなクレハと、
「ご、ご馳走さまです!」
こちらも満足そうなミリアと、
「そうね。お礼は言っておくわ。感謝しなさい!」
礼を言っているのか、礼を言わせたいのか、良く分からない文脈のエメレア。
前者だとしたら、雨が降らないことを祈ろう。
雪とかも勘弁だぞ?
「システィアさん、この後は予定とかありますか?」
「いや、特に無いな。寮に戻るつもりだったよ」
「本当ですか、よければ家に来ませんか? ユキマサ君のお陰で、お婆ちゃんの病気が治ったんです!」
「──はッ……!? ……? ……どういう意味だ? ユキマサのお陰でマリア殿の病気が治った!?」
へぇ、婆さんの名前マリアって言うのか?
初めて聞いたな。クレハも『お婆ちゃん』としか呼んでなかったからな。恐らく本名は──マリア・アートハイムで合ってるのだろう。
と、俺は話の推測にもならない推測をする。
「何か……黒いへんた……ユキマサの〝回復魔法〟だと病気も治せるらしいです……」
「う……嘘だろ……そんなの〝聖教会〟の〝大聖女〟でも無理なことだぞ?」
「わ、私もお婆ちゃんに会いたいからクレハの家に行く予定なの。システィアお姉ちゃんも行かない?」
無邪気に喜ぶミリアは、システィアも一緒に連れていきたいらしく、システィアの腕をくいくいと頑張って引っ張っている。
つーか、エメレア。今、黒い変態って言いかけたよな?
「ああ。是非私も会いたい! あれ程お世話になったのに病気の時も二人程……顔も出せなかったからな」
「じゃあ、決まりだね。システィアさん……あ、後ね……ユキマサ君……私の家に一緒に住むことになったんだ!」
何か親に秘密を打ち明けるような感じで、少しそわそわとしながら、恥ずかしがる様子のクレハが、システィアに俺の居候の件を伝える。
「そ、そうなのかッ!? というか私は何処から驚けばいいんだ!?」
「あー。その事なんだが……クレハ? それは確かにありがたいが。よく考えたら、婆さんにも許可取らなきゃだろ?」
婆さんには『またいつでも来てくださいな』的な事は言われたが──その日に〝じゃあ、今日からお世話になります〟は流石に過ぎやしないか?
「大丈夫だよ! お婆ちゃんから許可貰ってるから」
「まじか!? いつ聞いたんだよ?」
「昨日、ユキマサ君がシャワー浴びてる時かな?」
あぁ……確かにあの時間なら聞いていてもおかしくないが──というか、あの時点で、クレハは俺を家に住ませてくれるつもりだったのか?
クレハは『ユキマサ君だからだよ!』とか言ってくれたが、多分ヒュドラの件や、婆さんの病気の件で、恩的な物を感じてくれてる部分もあるだろう。
(俺は気にしなくていいって言ったんだがな……)
エメレアじゃないが、年頃の女の子……しかもクレハ程の美少女が、いくら命を助けられたからって異性を家に泊まらせて、尚且つ、昨日は同じベッドで寝るって言うのは……エメレアの言っていた意味でも、普通にかなり危ない気がするぞ。
変な男なんて沢山いるからな。
まあ、クレハなら〝空間移動〟もあるし、万が一の逃走に関しては、あまり心配ないだろうが。
それこそ、そこそこ訓練すればエルルカ……〝剣斎〟相手でも──〝空間移動〟があれば、逃走ぐらいは可能なんじゃないか?
確かにエルルカのスピードはかなり早かったが……それはあくまでも〝超高速移動〟の範囲とかで留まる。
だが、クレハの〝空間移動〟は同じ移動は移動でも、所謂〝瞬間移動〟だ。
完全に〝超高速移動〟の上位互換にあたるだろう。
後は、使い方や魔力次第なんだろうが──〝空間移動〟は、間違いなく優秀で、使いやすい物だと思う。
「ユキマサ君? また何か変なこと考えて無い?」
クレハは二コりと、笑ってはいるが……
何やら、全身からは、怒りオーラが漂っている。
「……」
「ユキマサ君?」
「……ヒュドラの件も婆さんの件もそうだが、そんなに恩的な物を感じる必要は無いぞと思ってな?」
「──やっぱりッ! だから、ユキマサ君だからいいの! 確かに恩もあるけど……それとこれは別だよ! ヒュドラの事もお婆ちゃんの事があったとしても──ユキマサ君じゃないと〝お家に泊めたり〟とか、ましてや〝一緒のベッドで寝たり〟何てしないよ!」
不機嫌そうに、ムスっとなるクレハ。
「というか、私を何だと思ってるのッ! ……ていうかこれじゃ告……ッ……/// と、とにかくユキマサ君だから家に住んで貰うんだからね!!」
更に顔を真っ赤にしながら怒る、クレハの迫力に、また少し俺は気圧される。
「あ、ああ。分かった……ありがとう……」
──ッ……。ホントずいぶん信頼されたな……
いや、もちろん嬉しいけどさ……?
「クレハ……なるほど。多分そういうことかな? ちなみにだが、クレハとユキマサはまだ……その男女交際とかをしてるわけでは無いのか?」
んッ、ん! と咳払いをしシスティアがそんな事を聞いてくる。
「ち、違いますよ! まだそんなんじゃないです!」
慌てるクレハ。
「そ、そうなのか!? ん、んッ! ──それにユキマサに念のため聞いておくが……他に恋人とかいるわけではあるまいな? 君はモテるであろう?」
「何でそうなる? 他にも何も、そもそも俺は恋人とかはいた事は無いぞ?」
「私だって恋人とかいたこと無いよ!」
何故、クレハは対抗した? まあ、これで〝私は恋人いたことあるよ〟って言われたら何か複雑……
……いや、むしろ嫌だな。
(──ッ……? 何だこれ? 食い過ぎたか?)
何か、頭も胸も痛い──慣れない〝異世界〟に来て、自分でも気づかない内に、身体が少し疲れていたのか?
(……俺が? あり得ん……自分で言うのも何だが、体力にも自信がある方だ──)
もし、こんな短時間で、頭や胸が痛くなる程に疲労するようなら──あれ程、カッコつけてアルテナから引き受けた〝魔王討伐〟なんて……それこそ夢物語だ。
「ユキマサさん? だ、大丈夫ですか?」
少し様子がおかしいと感じたのか……
心配そうにミリアが俺に話しかけてくれる。
「あ、ああ……問題ない。ミリア、ありがとな」
俺は心配してくれたミリアの頭を軽く撫でる。
「まあ、ユキマサはどうでもいいけど。クレハは渡さないわ! 前提の前提で最低限この私よりクレハを大事にできる奴じゃないとね! ふん、天地がひっくり返っても負ける気はしないわね!」
頭が痛いので、エメレアはスルーだ。
「──行く宛も無いからな? クレハ、じゃあ、お言葉に甘えてお邪魔させてもらうぞ?」
「うん、よろしくね!」
(頭痛が少し収まってきたな。何だったんだ……?)
「それじゃあ帰るか? 婆さんも、そろそろ帰ってきて待ってる頃じゃないか?」
(置き手紙には、晩飯を済ませて帰るってあったしな、タイミング的にはちょうどぐらいじゃないか?)
「ちょ、ちょっと!!」
「どうした?」
「べ……別に……何でもないわよ! バーカ! ──クレハ早くいきましょ! お婆ちゃんが待ってるわ!」
「あ、エメレアちゃん!」
ご機嫌斜めのエメレアの後をクレハが追う。
「な、何なんだ?」
いや、いつもの事か……。
「あ、あの! エメレアはユキマサさんには、ああいう態度取っちゃいますけど、本当な凄く優しいんです! それに多分ですけど、私はエメレアは本当はユキマサさんの事を嫌いってわけじゃないと思いましゅ……す……」
「だといいけどな? ミリアは良く見てるんだな?」
何だかんだでしっかりとしてるミリア。
というか、人見知りなだけで色々優秀だよな。
「私からもだ。ユキマサ、エメレアはクレハやミリア達が大好きなんだ。それこそ──本当の家族のようにな。だからクレハ達の事になると、いつも少し過敏になってしまってな……すまないが、少し大目にみてやっては貰えないか?」
「知ってる。それに別に俺はエメレアのこと嫌いじゃないぞ? 確かに、過敏かもしれないが、捉え方によっては長所だろうしな」
「そ、そうか……なら、よかった!」
俺が、エメレアの事を嫌いじゃないと言った事に、少しだけ意外そうな顔をするが、直ぐにシスティアは嬉しそうな顔になる。
(まあ、できれば……もう少し当たりが柔らかくなればいいんだがな?)
そんな事を考えながら、システィアとミリアと、俺の3人という珍しい組み合わせで、クレハ達の後を追い、クレハの家を目指すのだった──。
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