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第30話 ココルの実
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「──なら、今日は私も泊まるわ!!」
今、俺達はギルドで再び倒れた、今回は息のあるエメレアを運びクレハの家に来ていた。
エメレアは二度に渡る仮死と気絶を経て──ようやく〝これは夢では無い〟と奇しくも認識したらしい。
エメレアはクレハの家に着くと、今回は自力で目を覚まし、今はクレハの家のテーブルで、ポーションをぐびぐびと胃に流し込んでいる。
ちなみに何故クレハの家なのかと言うと、ギルドから近く──取り合えず、ぶっ倒れたエメレアを寝かせられるというのと、元気になったクレハの婆さんに会いたいという、ミリアの熱烈な要望からであった。
でも、クレハの家に着くと、残念ながらクレハの婆さんの姿は無く──どうやら出掛けているようで……
[ ―クレハへ―
病気を心配してくれていた。昔の仲間や友人へ病気の完治の挨拶に行ってきます。勝手ながら食事は済ませて。夜には帰りますのでよろしくお願いします。
―お婆ちゃんより― ]
と、テーブルの上に置き手紙があったらしい。
「──あ、うん。それは全然大丈夫だよ」
クレハはエメレアの『今日は私も泊まるわ!』と言う発言ををサラリと承諾する。
それと婆さんの不在を知り、
「うぅ……そっか……仕方ないね……」
目に見えて残念そうなミリアにクレハは、
「大丈夫だよ。お婆ちゃん夜には帰ってくるから。それと良ければミリアも今日は泊まってってね!」
と、ミリアの頭を撫でる。
「うん、泊まりたい! クレハとエメレアと、クレハのお家にお泊まりするの、毎回凄く楽しいもんね!」
ぱぁぁ! と一気に表情が明るくなるミリア。
「で、ユキマサ。明日からは私の家に住みなさい!」
椅子に座り、本日6本目となるポーションをクピクピと──まるで、酒でも飲むかのように呷るエメレアは、急にそんな事を言い出す。
「は……?」
どうした? こいつポーションで酔ってんのか?
「え、エメレアちゃん!?」
「このままだとクレハの身が危ないわ! クレハみたいな見た目も可愛くて、性格もよくて、身体的なプロポーションも完璧な女の子と1つ屋根の下で過ごしてたら、この変態が、卑猥で破廉恥な欲望を押さえられるわけないわ! ──それに一緒に暮らす何てなれば尚更よ! 女同士の私でも、そんな状況になったら、クレハの魅力に理性を押さえられる自信ないのに!」
おい待て! 最後のは俺関係ないぞ!!
……てか、言いやがったぞ?
このレズエルフ!? いや、レズフめ!!
「ちょ、ちょっと、落ち着いて……! というか、エメレアちゃんは、ギルドの女子寮に住んでるでしょ! ユキマサ君は一瞬で出禁だよ!?」
うん、それは本当に落ち着け……
「大丈夫よ。関係ないわ! クレハの身に危険があるぐらいなら〝女子寮〟だろうと〝魔王領〟だろうと、私がユキマサを引き取るわ! そ、そこの、女誑しは私の身体にもいやらしい事をして来たのだし……私でもそこの〝黒い変態〟の邪な欲望ぐらいは引き受けられる筈だわ。だから、そこの〝黒い変態〟は、わ、私が引き取るわ……! ──む、胸でも何でも好きにすればいいじゃない!!」
「──お前はマジで酔ってんのか……!?」
「な、何ですって! 私の胸あれほど触っておきながら。挙げ句の果てに自分に酔ってるのかですって! た、確かに、私はクレハとかに比べれば、魅力なんて無いかも知れないけど……! そ、それでも私だって女の子なんだから、少しぐらい気を使いなさいよ!!」
「いや『酔ってんのか?』って『自分に酔ってるのか?』って意味じゃねぇよ! 普通分かるだろッ!」
「う、うるさいわね! 変態! その程度で私を構ったつもりなの!? バカにしないでよねッ!」
お前はどんな構ってちゃんだ……?
「……ったく。この際だから言って置くが、お前は俺が嫌いだろうが、俺はお前が俺を嫌うほど、俺はお前を嫌いじゃない。それにエメレアは、どう見てもかなりの美人だから安心しろ? ──バカ言ってると、夜道で、本当に魅力の無いような奴に、嫉妬で刺されても俺は知らねぇぞ?」
「び、びじ……/// バカッ! き、キザッ誑しッ///」
顔を赤くしたエメレアは、ポコポコと空になったポーションの容器を俺に向けて投げてくる。
「──あ! こ、これ、ポーションじゃないよ!?」
困惑した様子で、クレハと一緒に『ど、どうしよ』と、何だかいつもと様子の違うエメレアを、心配そうにあわあわと見ていたミリアが、エメレアが先程まで飲んでいた──絵に描いたような理科の実験で使う試験管のような物を、ワインのコルクのみたいな物で栓をした、ポーションの容器に目をやり『あ!』と何かに気づく。
その後、くんくんとクレハが、今さっきエメレアが飲み干したポーションの容器の匂いを嗅ぐ。
「う……こ、この匂い……これってもしかして〝ココルの実〟の原液?」
「〝ココルの実〟? 何だそれは?」
聞いたこと無いな。これも異世界独自の物か?
「えっとね。ちょっと珍しい植物の果実なんだけど、別名〝気持ちの実〟とも言われて……飲むと、ふわふわってなって、お酒に酔ったような感じになっちゃうんだよ。というか、何でこれをエメレアちゃんが持ってるの? しかもポーションの容器に入れて……ただでさえ、色とかポーションと一緒だから、授業でも気を付けなさいって教わったのに!?」
「あ、確かエメレアが昨日の対ヒュドラ用で〝ココルの実〟使うって言ってたから、その残りかも。それに確か……ロロさんが『ごめん、手違いでポーションの容器に入ってるけど、呉々も間違えないようにね。まあ、匂いでわかると思うけど。分かりやすいように赤いテープを下に貼っておくから気を付けてね』って、言ってエメレアに渡してた気がする……」
(どんな手違いがあったんだよ……?)
ロロって、確か朝システィアと話してた眼鏡をかけたあの亜人の受付嬢か……? それによく見ると、容器にはバリバリ赤いテープ張ってあるじゃねぇか!?
「ちょっといいか?」
俺はクレハから空になったポーションの容器を受け取り、匂いを嗅いでみる。
う……これほぼ……酒じゃねぇか?
臭いからすると、ウイスキーに近い。独特な、鼻をツーンと刺激する匂いがする。アルコール度数も高そうだ……つーか。これは飲む前に普通は気づくだろ?
「魔物や魔獣は──臭いや、お酒みたいな刺激物に敏感な物が多いから……昔から、搾って液状にした〝ココルの実〟を使って、戦ったりする事も多いんだよ。人が飲んでも毒では無いけど、強いお酒みたいな感じだから……酔っぱらっちゃうんだよね。それに、開けるとお酒みたいな臭いがするから、普通はすぐ分かる筈なんだけど……」
改めてエメレアの方を見ると、少し遅れて酔いが回ってきたのか、テーブルにぐッたりと突っ伏して「う~……クレハ……ミリア……ぁ……ぁ……ぁ……ずっと一緒よ……」と、酔っぱらいの如く寝言を呟いている。
つーか。やっぱ、酔ってたんじゃねぇかよ!!
「……ユ……キマサ……」
(──何だ……夢に俺が出てきてるのか? 夢でまで、俺のことを変態扱いして無いだろうな?)
「……ユ……ユキマサ……あ……りがとう……」
「──ッ……、こりゃかなりの重症だな……?」
「私のベットに運ぶね。この量なら、少し横になって寝てれば良くなる筈だから」
「あ、クレハ、じゃあ、私はお水持ってくるね……!」
「ありがとう。場所は分かるよね?」
「うん、大丈夫!」
パタパタとミリアは水を持ちにいく。
クレハの部屋のベットに運ぶ為、クレハに、おぶさられる形になるエメレアは、クレハの背中で何やら『幸せ……』と呟いている。
おい、こいつ素面だろ?
フォルタニアを呼んで〝狸寝入り〟かどうか、調べて貰った方がいいんじゃねぇのか……?
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