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第十二章
南区画
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「今のところ異常なし…か…」
首都セダンの南門付近。人気うどん屋の『ツルカド』の屋根の上からマイカは仮面を外して街の様子を眺めていた。
足元のうどん屋では現在、新発売のサラダうどんにヤドフロッグ(カエル型の魔物)が混入していたという事件が発生し、大騒ぎとなっているが、店内の話なのでマイカは気づいていない。
「このお祭り…地元の精霊祭を思い出すわね」
マイカは故郷のゾルダ村で毎年開催されるお祭りを思い出した。幼い頃の彼女は近所の幼馴染のニールと一緒にお祭りを楽しんだことがあった。
足元の大通りに目を向けると、いくつかの男女二人組、いわゆるカップルが楽しそうにお祭りの雰囲気を堪能していた。
「ニールとフィズも来てたりするのかしら…?」
かつての仲間のことを考えようとした瞬間、先程の中央広場での会話が頭をよぎった。
『…僕はニールじゃないよ』
静かな怒りをはらんだエイルの表情と声。それがマイカの脳裏に焼き付いていた。
「…別に私は…」
エイルはシズハに恋心を抱いている。それに気づいたマイカは彼を応援すべくその世話を何かと焼いていた。彼が自分と同じ過ちを犯さぬように。
しかし――
「…どうして…胸が痛いの…?」
胸に手を当て、何かを探ろうとした。その時であった。
ドオォォン!
「な、何?」
うどん屋の右二軒先の建物から大きな爆発音が響いた。
「何だ今の音は?」
「煙が上がってるぞ!」
「怖い!」
「サムライさんあっちです!」
大通りでは通行人達が一斉に騒いでいた。
「クーデターの爆発?でも…」
明らかに予定時刻よりも早い。おそらく、自分達の知らない何かが発生したのであろう。そう推測したマイカは横がけにしていた仮面を被り直し、現場に向かおうとした。
「――はっ!」
何かに気づいたマイカはすかさず真横に飛びのいた。そのまま今いた場所に目を向けると、群青色の戦衣装に身を包んだ女サムライが屋根に槍を突き刺していた。真上からの攻撃だ。
「…よくかわしましたね」
槍を引っこ抜いた女サムライは冷ややかな目をマイカに向けた。
「妙な気配を感じてみれば…見かけない顔ですね」
「…くっ!」
セダンに潜入した魔勇者一行は皆、魔力と気配を断つ技を用いてそれぞれ街の様子を観察していた。しかしマイカの場合、考え事によって集中力が緩み、技にほころびが生じたところをこの女サムライに捕捉されてしまったのだ。マイカは自らの油断を呪いつつ、藍色のポーチからロッドを取り出した。
「…ただの観光客よ」
「面白い冗談ですね。そのような装備のお方をお招きした覚えはないのですが?」
大鷲を模した仮面を被り、一般市場には出回っていない上物のロッドを持つ女魔法使い。淡泊な表情で女サムライはこの不審者を警戒していた。
「私はオウカ四天王の一人、ミナモ・ラドクリフ。この南区画を担当しております」
ミナモと名乗った女サムライは静かに槍を構えた。
「四天王…!」
オウカ公国には大将軍直属の四天王がいる。マイカ達はオウカ支部での会議ですでにその存在を聞かされていた。四人の凄腕のサムライ。その一人と相対することになったマイカは一気に警戒心を強めた。
「あなたの名前もお聞かせ願いましょうか。仮面の魔導士よ」
ミナモは冷淡な口調で尋ねた。
「私は……私はアクィラ。魔勇者を護りし暴風の翼よ!」
気を引き締めたアクィラは力強く名乗り、ロッドを構えた。
首都セダンの南門付近。人気うどん屋の『ツルカド』の屋根の上からマイカは仮面を外して街の様子を眺めていた。
足元のうどん屋では現在、新発売のサラダうどんにヤドフロッグ(カエル型の魔物)が混入していたという事件が発生し、大騒ぎとなっているが、店内の話なのでマイカは気づいていない。
「このお祭り…地元の精霊祭を思い出すわね」
マイカは故郷のゾルダ村で毎年開催されるお祭りを思い出した。幼い頃の彼女は近所の幼馴染のニールと一緒にお祭りを楽しんだことがあった。
足元の大通りに目を向けると、いくつかの男女二人組、いわゆるカップルが楽しそうにお祭りの雰囲気を堪能していた。
「ニールとフィズも来てたりするのかしら…?」
かつての仲間のことを考えようとした瞬間、先程の中央広場での会話が頭をよぎった。
『…僕はニールじゃないよ』
静かな怒りをはらんだエイルの表情と声。それがマイカの脳裏に焼き付いていた。
「…別に私は…」
エイルはシズハに恋心を抱いている。それに気づいたマイカは彼を応援すべくその世話を何かと焼いていた。彼が自分と同じ過ちを犯さぬように。
しかし――
「…どうして…胸が痛いの…?」
胸に手を当て、何かを探ろうとした。その時であった。
ドオォォン!
「な、何?」
うどん屋の右二軒先の建物から大きな爆発音が響いた。
「何だ今の音は?」
「煙が上がってるぞ!」
「怖い!」
「サムライさんあっちです!」
大通りでは通行人達が一斉に騒いでいた。
「クーデターの爆発?でも…」
明らかに予定時刻よりも早い。おそらく、自分達の知らない何かが発生したのであろう。そう推測したマイカは横がけにしていた仮面を被り直し、現場に向かおうとした。
「――はっ!」
何かに気づいたマイカはすかさず真横に飛びのいた。そのまま今いた場所に目を向けると、群青色の戦衣装に身を包んだ女サムライが屋根に槍を突き刺していた。真上からの攻撃だ。
「…よくかわしましたね」
槍を引っこ抜いた女サムライは冷ややかな目をマイカに向けた。
「妙な気配を感じてみれば…見かけない顔ですね」
「…くっ!」
セダンに潜入した魔勇者一行は皆、魔力と気配を断つ技を用いてそれぞれ街の様子を観察していた。しかしマイカの場合、考え事によって集中力が緩み、技にほころびが生じたところをこの女サムライに捕捉されてしまったのだ。マイカは自らの油断を呪いつつ、藍色のポーチからロッドを取り出した。
「…ただの観光客よ」
「面白い冗談ですね。そのような装備のお方をお招きした覚えはないのですが?」
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「四天王…!」
オウカ公国には大将軍直属の四天王がいる。マイカ達はオウカ支部での会議ですでにその存在を聞かされていた。四人の凄腕のサムライ。その一人と相対することになったマイカは一気に警戒心を強めた。
「あなたの名前もお聞かせ願いましょうか。仮面の魔導士よ」
ミナモは冷淡な口調で尋ねた。
「私は……私はアクィラ。魔勇者を護りし暴風の翼よ!」
気を引き締めたアクィラは力強く名乗り、ロッドを構えた。
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