異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
上 下
244 / 261
第十二章

偽ゴブリン

しおりを挟む
「どうしてゴブリンがここに?」
「てことは…魔王軍の仕業?」
 足元に倒れている二人のゴブリンを見下ろしながらリエルとビオラは首を傾げた。
「周りは大騒ぎになってます!他の場所でも爆発があったみたいです!」
 表通りの方の様子を見てきたアズキが戻って来た。
「ずいぶんえらいことになってるみてぇだな」
「ヤベーなオイ」
 店長とトニーが店から出てきた。
「こいつらに似た奴とかいた?」
 ゴブリンの手を縛りながらビオラはアズキに尋ねた。
「いいえ。ですが、この様子だとおそらくこの二人だけの犯行ではないと思います」
 首を横に振りながらアズキは答えた。
「そうね。とりあえず、この二人から――ん?」
 もう一人のゴブリンの手を縛ろうとしたリエルは何かに気づいた。
「どうしたの?」
 ビオラの言葉を気にすることなくリエルはゴブリンの黒い手袋を外した。
「…これは!」
 その手はゴブリン特有の緑色の肌ではなかった。リエルよりもやや黄色がかった肌の色。オウカ公国の領域で最も多数を占めるオウカ人種の肌であった。
「てことは…!」
 リエルはおもむろにゴブリンの頭を掴んだ。思った通り、生物の皮の感触ではない。そのまま頭を上に引っ張ると、その下から人間の男の顔があらわになった。
「魔族じゃない…!」
「は?じゃあこっちも…?」
 ビオラは自分が縛った方のゴブリンの頭を引っぺがした。同じようにその下から人間の男の顔が出てきた。
「こ、この人達は…!」
 ゴブリンの皮を被った男二人の顔を見たアヤカが何かに気づいた。
「え?知ってんの?」
「いいえ」
 即答で否定したアヤカに対し、ビオラは肩透かしをくらった。
「何なのよもう!」
「ですが、見たことはあります。このお二人はオウカ公国軍のサムライです」
「何ですって?」
 突発的な情報にビオラとリエルは目を丸くした。
「この刀は公国の一般サムライ全員に支給されるタイプのものです」
 アヤカは偽ゴブリンが落とした刀を拾った。
「それじゃあ…サムライが魔族のふりをしていたってこと?」
「ヤベーなおい」
 トニーは偽ゴブリンの臀部に近づき、その臭いを嗅いだ。
「とにかく、話を聞いてみなくちゃ」
 リエルは二人の偽ゴブリンの身体を起こし、近くの壁に寄りかからせた。
「おい起きろコラ!」
 ビオラは片方の偽ゴブリンの頬を叩き、意識を呼び戻した。
「う、うう…」
「…はっ!お、おま…」
 二人の偽ゴブリンの視界に映ったのは自分達を見下ろす少女達の姿であった。
「気がついたみたいね」
「さて、洗いざらいしゃべってもらおうかしら」
 ビオラは二人の偽ゴブリンに杖を突き付けた。
「バカめ!我らオウカのサムライに手を出してただで済むと思っているのか!」
「そうだ!無礼者は斬り捨て御免だぞ!」
 偽ゴブリンの二人はサムライの名を盾にして強気に出た。
「はぁ?どの口がぬかしてんのよ!」
 まさかの逆切れにビオラは呆れかえった。
「ごめんなさい。手荒な真似をして。でも、私達は知りたいの。さっきの爆発は何なのかを」
 気が立っているビオラに代わりリエルが話をした。
「さっきの話声。あなた達は知ってるんでしょ?」
「……」
 二人はだんまりを決め込んだ。
「サムライはオウカの国と民を守る戦士。私はそう聞かされていたんだけど――」
「けっ!あんな大将軍が治める国など守る価値があるものかよ!」
 右の偽ゴブリンが食い気味で否定した。
「なっ――」
「ならば教えていただけますか?」
 リエルの発言を遮り、アヤカが前に出た。
「アヤカ?」
 アヤカがしゃがみこみ、偽ゴブリン達に視線を合わせた。
「あなた方は大将軍様の政に不満を抱えているのですか?」
「…そうだ。あの大将軍のせいで多くのサムライや家臣、貴族が職を失った。俺らもそうだ」
 アヤカの穏やかな雰囲気に当てられ、左の偽ゴブリンは口を開いた。
「ああ。奴の政策でこの国が良くなるとは思えねぇ。だから俺達はの計画に参加したんだ」
 右の偽ゴブリンも口を開いた。
「そうですか…あなた方は国や仲間を思ってこのようなことを…」
「…」
 アヤカの言葉に二人は静かに頷いた。
「でも、『あの人』って…?」
 気になる単語を聞いたリエルがそれについて尋ねようとした途端、偽ゴブリン二人の背後の壁に大きな亀裂が走った。

「…アヤカ!」

 リエルは屈んだままのアヤカを真横に思いきり突き飛ばした。そのまま彼女はアヤカを飛んできたがれきから守るように覆いかぶさった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。

破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。 小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。 本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。 お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。 その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。 次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。 本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。

処理中です...