異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
上 下
243 / 261
第十二章

北区画

しおりを挟む
「へぇー、こっちの方も賑わってるのね」
 首都セダンの北門付近。人気ラーメン店『キョーカ』の屋根の上からメイリスは街の様子を眺めていた。
 足元のラーメン店では多忙な新聞記者が食レポのために注文したラーメンを一口しか食べずに店を出たことに激怒した店長がその新聞の関係者全員を出禁にするという知らせを入り口にでかでかと貼っていた。
「そして…あれが四天王の一人…」
 メイリスは大将軍の居城であるオウカ城に続く北門に目を向けた。門の上に佇む屈強な出で立ちの男。得物の金棒を手にしたまま石像のように微動だにしない。それでいて、一切の隙が見られない。
 男の名はキョザン。四天王一の巨躯と怪力を持つサムライであり、オウカ城門と北区画の守護を一任されている。その存在は北区画で暮らす民衆にもよく知られており、普段から彼の勇姿を一目見んと群れをなすことが珍しくなかった。まして、今日は記念祭の最中ということもあり、外から来た観光客によってその群れはひときわ大きくなっていた。

「見て見て!あれがキョザン様よ!」
「うわぁごっつ!筋肉すげぇ!」
「きゃー!こっち見てー!」
「本当に動かないのね。生きてんの?」
「でっか!金棒すご!」
「それより俺の金棒の方が」
「言わせねぇよ!」

 自分の足元で好き勝手騒ぐ人々。当然ながらキョザン自身もその存在を認識している。しかし、それに一切気取られることなく彼は己の責務を全うせんと周囲の警戒を怠っていない。
「人気者は辛いわね。いつになっても…」
 実力と功績で名をはせる戦士。その様子のどこかにメイリスは昔の自分を見た。
「で、あの奥におわすのが大将軍様と…」
 いまだに開かれていない城門。その向こう側ではこれから行われる大名行列の準備が着々と進められている。
「お姫様ってところね…」
 公国の重鎮が参列する重大イベント。当然ながらその警備は緩いものではない。城門を守る四天王の一人のオーラがそれを物語っている。

「あと二時間くらいね…」

 メイリスは太陽の傾き加減で時間を確認した。予定通りならば大名行列が中央広場まで到達した直後にクーデター軍が仕掛けた爆弾が起動する。そして、強烈な火薬が周囲の人間諸共大将軍を抹殺するという手はずになっている。
 しかし、街中に仕掛けられた全ての爆弾はすでにヌコの手によって轟音と無害な白い煙のみをまき散らすだけのものにすり替えられている。中央広場にはさらに睡眠ガスを発生させる爆弾が追加されており、そのガスによって眠った行列の中から姫を誘拐する。
 クーデターの計画を利用した誘拐。それが魔勇者一行の今回の任務である。

「さて、ちょっとお肉でも――」
 空いた時間を利用して肉を調達しようとした。その時だった。

 バアァァン!


 耳をつんざくような破裂音が向かいの時計店から聞こえた。

「な、何だ?」
「あっちの店からよ!」
「煙が出てきた!逃げろ!」
「誰かサムライさんを呼んで!」

 その音に驚いた通行人達は悲鳴をあげながら右往左往していた。

「…そうもいかないか」

 予定よりも早すぎる爆弾の起動。溜息をついたメイリスは建物の隙間から現れた三つの黒い影――オウカ独特のニンジャ装束の三人の姿を捉えていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...