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第十二章
北区画
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「へぇー、こっちの方も賑わってるのね」
首都セダンの北門付近。人気ラーメン店『キョーカ』の屋根の上からメイリスは街の様子を眺めていた。
足元のラーメン店では多忙な新聞記者が食レポのために注文したラーメンを一口しか食べずに店を出たことに激怒した店長がその新聞の関係者全員を出禁にするという知らせを入り口にでかでかと貼っていた。
「そして…あれが四天王の一人…」
メイリスは大将軍の居城であるオウカ城に続く北門に目を向けた。門の上に佇む屈強な出で立ちの男。得物の金棒を手にしたまま石像のように微動だにしない。それでいて、一切の隙が見られない。
男の名はキョザン。四天王一の巨躯と怪力を持つサムライであり、オウカ城門と北区画の守護を一任されている。その存在は北区画で暮らす民衆にもよく知られており、普段から彼の勇姿を一目見んと群れをなすことが珍しくなかった。まして、今日は記念祭の最中ということもあり、外から来た観光客によってその群れはひときわ大きくなっていた。
「見て見て!あれがキョザン様よ!」
「うわぁごっつ!筋肉すげぇ!」
「きゃー!こっち見てー!」
「本当に動かないのね。生きてんの?」
「でっか!金棒すご!」
「それより俺の金棒の方が」
「言わせねぇよ!」
自分の足元で好き勝手騒ぐ人々。当然ながらキョザン自身もその存在を認識している。しかし、それに一切気取られることなく彼は己の責務を全うせんと周囲の警戒を怠っていない。
「人気者は辛いわね。いつになっても…」
実力と功績で名をはせる戦士。その様子のどこかにメイリスは昔の自分を見た。
「で、あの奥におわすのが大将軍様と…」
いまだに開かれていない城門。その向こう側ではこれから行われる大名行列の準備が着々と進められている。
「お姫様ってところね…」
公国の重鎮が参列する重大イベント。当然ながらその警備は緩いものではない。城門を守る四天王の一人のオーラがそれを物語っている。
「あと二時間くらいね…」
メイリスは太陽の傾き加減で時間を確認した。予定通りならば大名行列が中央広場まで到達した直後にクーデター軍が仕掛けた爆弾が起動する。そして、強烈な火薬が周囲の人間諸共大将軍を抹殺するという手はずになっている。
しかし、街中に仕掛けられた全ての爆弾はすでにヌコの手によって轟音と無害な白い煙のみをまき散らすだけのものにすり替えられている。中央広場にはさらに睡眠ガスを発生させる爆弾が追加されており、そのガスによって眠った行列の中から姫を誘拐する。
クーデターの計画を利用した誘拐。それが魔勇者一行の今回の任務である。
「さて、ちょっとお肉でも――」
空いた時間を利用して肉を調達しようとした。その時だった。
バアァァン!
耳をつんざくような破裂音が向かいの時計店から聞こえた。
「な、何だ?」
「あっちの店からよ!」
「煙が出てきた!逃げろ!」
「誰かサムライさんを呼んで!」
その音に驚いた通行人達は悲鳴をあげながら右往左往していた。
「…そうもいかないか」
予定よりも早すぎる爆弾の起動。溜息をついたメイリスは建物の隙間から現れた三つの黒い影――オウカ独特のニンジャ装束の三人の姿を捉えていた。
首都セダンの北門付近。人気ラーメン店『キョーカ』の屋根の上からメイリスは街の様子を眺めていた。
足元のラーメン店では多忙な新聞記者が食レポのために注文したラーメンを一口しか食べずに店を出たことに激怒した店長がその新聞の関係者全員を出禁にするという知らせを入り口にでかでかと貼っていた。
「そして…あれが四天王の一人…」
メイリスは大将軍の居城であるオウカ城に続く北門に目を向けた。門の上に佇む屈強な出で立ちの男。得物の金棒を手にしたまま石像のように微動だにしない。それでいて、一切の隙が見られない。
男の名はキョザン。四天王一の巨躯と怪力を持つサムライであり、オウカ城門と北区画の守護を一任されている。その存在は北区画で暮らす民衆にもよく知られており、普段から彼の勇姿を一目見んと群れをなすことが珍しくなかった。まして、今日は記念祭の最中ということもあり、外から来た観光客によってその群れはひときわ大きくなっていた。
「見て見て!あれがキョザン様よ!」
「うわぁごっつ!筋肉すげぇ!」
「きゃー!こっち見てー!」
「本当に動かないのね。生きてんの?」
「でっか!金棒すご!」
「それより俺の金棒の方が」
「言わせねぇよ!」
自分の足元で好き勝手騒ぐ人々。当然ながらキョザン自身もその存在を認識している。しかし、それに一切気取られることなく彼は己の責務を全うせんと周囲の警戒を怠っていない。
「人気者は辛いわね。いつになっても…」
実力と功績で名をはせる戦士。その様子のどこかにメイリスは昔の自分を見た。
「で、あの奥におわすのが大将軍様と…」
いまだに開かれていない城門。その向こう側ではこれから行われる大名行列の準備が着々と進められている。
「お姫様ってところね…」
公国の重鎮が参列する重大イベント。当然ながらその警備は緩いものではない。城門を守る四天王の一人のオーラがそれを物語っている。
「あと二時間くらいね…」
メイリスは太陽の傾き加減で時間を確認した。予定通りならば大名行列が中央広場まで到達した直後にクーデター軍が仕掛けた爆弾が起動する。そして、強烈な火薬が周囲の人間諸共大将軍を抹殺するという手はずになっている。
しかし、街中に仕掛けられた全ての爆弾はすでにヌコの手によって轟音と無害な白い煙のみをまき散らすだけのものにすり替えられている。中央広場にはさらに睡眠ガスを発生させる爆弾が追加されており、そのガスによって眠った行列の中から姫を誘拐する。
クーデターの計画を利用した誘拐。それが魔勇者一行の今回の任務である。
「さて、ちょっとお肉でも――」
空いた時間を利用して肉を調達しようとした。その時だった。
バアァァン!
耳をつんざくような破裂音が向かいの時計店から聞こえた。
「な、何だ?」
「あっちの店からよ!」
「煙が出てきた!逃げろ!」
「誰かサムライさんを呼んで!」
その音に驚いた通行人達は悲鳴をあげながら右往左往していた。
「…そうもいかないか」
予定よりも早すぎる爆弾の起動。溜息をついたメイリスは建物の隙間から現れた三つの黒い影――オウカ独特のニンジャ装束の三人の姿を捉えていた。
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