異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
上 下
242 / 261
第十二章

爆発音

しおりを挟む
「そういやアヤカちゃん。時間の方は大丈夫かい?」
 一通りの調理を終え、洗い物を開始した店長は尋ねた。
「あ。そういえばもうすぐですね」
 店長の隣で洗い物の補助に回ろうとしたアヤカはふと壁の時計に目を向けた。
「時間?」
「はい。今日は記念祭の目玉イベントの大名行列がある日でして」
「ああ。そういや門番の人が言ってたわね」
「ええ。今日はそれに父上が――」

 ドオオォォン!

 リエルとアヤカの話を突然の轟音が遮った。

「な、何の音?」
「外から?」
 席を立ったリエルが外へ飛び出すと、周囲から人々が騒ぐ声が聞こえた。

「ば、爆発だ!」
「どこからだ?」
「あっちから聞こえたぞ!」
「やばい!煙が上がってる!」

 この路地裏に人の姿は見られない。おそらく表通りで起きた騒ぎだろう。その様子を見ようとリエルが足を一歩踏み出そうとしたその時だった。

「おい!なんだ今の音は?」
「予定よりも早すぎるぞ!」
「誰だ勝手に起爆させたのは!」

 右手の方から不穏な会話が聞こえた。その方角にリエルが顔を向けると、街を練り歩くには不自然な黒装束の三人が固まっていた。フードを目深くかぶっているため、その顔はよく見えない。

「あなた達!何をしているの?」
「――!やべぇ!」
 不意にかけられた声に反応した三人は反射的に腰の刀を抜いた。
「!」
 三人のうち二人がリエルに迫って来た。目撃者の口封じ。その類の敵意を感じたリエルは剣の柄に手を掛けた。

「『アクア』!」

 リエルの背後からビオラが水魔法を発動させた。黒装束の足元から発せられた水柱は彼らの身体を容易く飲み込んだ。
「ぐおっ!」
 黒装束の二人は視界を奪われ、攻撃を阻まれた。その隙を捉えたリエルは一気に距離を詰め、左側の黒装束の顎に掌底を打ち込んだ。その威力は相手の頭蓋に衝撃を与え、そのまま仰向けに卒倒させるほどであった。
「ごばぁ!」
 流れるような動きでリエルはもう一人の腹部にミドルキックを打ち込んだ。相手は後ろのゴミ箱に身体を叩き付けられ、中身のゴミを散らしながら路上に倒れこんだ。
「ぐぐ…ぐべぇ!」
 先に掌底を喰らった黒装束は身体を起こそうと力を入れたが、鳩尾をリエルに踏みつけられ、呆気なく阻まれた。
「もう一人は…」
 右足に力を入れながらリエルは周囲を見渡した。どうやら三人目は仲間を見捨てて逃走したようだ。
「ったく!なんなのよコイツら!」
 食後のスイーツを食べ損ねて不機嫌のビオラはゴミまみれの黒装束の頭を踏みつけた。
「お二人とも!大丈夫ですか?」
 店からアヤカが飛び出してきた。
「大丈夫よ。それより…」
 リエルは屈みこみ、黒装束のフードをひっぺがした。緑色の肌色のスキンヘッド。普通の人間よりも長い耳と鼻。やたらととがった前歯。リエルはその特徴を持つ種族を知っていた。

「これは…ゴブリン…!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...