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第十二章
ベルよし
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「到着しました。こちらです」
表通りの喧騒とは打って変わり、ほとんど人が見られない路地裏を歩くこと数分。リエル一行はアヤカが示す目的地にたどり着いた。
「ここがアヤカさんの働くお店?」
「アヤカとお呼びください。えーと…」
「リエルよ」
「あたしはビオラ」
「アズキです」
「トニーだ」
一行は簡単に自己紹介した。
「わかりました。よろしくお願いいたします」
三人と一匹の名を聞いたアヤカは頭を下げた。
「で、こちらが私がアルバイトというものをしておりますお店です」
「この店で?」
ビオラは店の外観をチェックした。『ベルよし』と書かれた看板のその店は、お世辞にもキレイとはいいがたく、薄暗い路地裏の空気も相まって本当に営業しているのかさえ疑わしいレベルであった。
「ぼろいなオイ」
「ぼろいわね」
ストレートな感想を漏らすトニーとビオラであった。
「ちょっと二人とも!」
あまりな言いぐさにリエルが苦言を呈した。
「ふふ。おっしゃる通りです」
気を悪くすることなくアヤカは笑っていた。
「ですが、この『ぼろさ』こそがこの店の魅力だと私は思います。夜に灯すこの赤チョウチンはとても美しいんですよ」
アヤカは三割ほど破けたチョウチンを指し示した。
「どういうセンスよ…」
ビオラのツッコミを意に介することなく、アヤカは扉を開いた。
「店長。ただいま戻りました」
「おう。ご苦労さん」
威勢のいい声が奥から聞こえた。リエル達もアヤカに続き、中へと足を踏み入れた。
「ありゃ?」
「思ったよりもきれいね」
店内の様子は古風ながらも全体的に清潔感に満ちていた。
「お、何だ?客引きでもしてくれたのか?」
ガタイの良い板前衣装の男が新聞から顔を上げ、アヤカの方を向いた。どうやらこの店の店長のようだ。
「はい。昼食をとる場所を探していたようですので」
アヤカは買い物袋を店長に渡した。
「どうぞ。空いてる席へおかけください」
空席だらけの食堂。リエル達は手頃な四人テーブルの席に移動した。
「うわ。テーブルがピッカピカですよ」
「ホントだ。何これ」
外観からは想像もつかぬほどのきれいな内装。一流のレストランにも劣らぬ空間に一行は圧巻された。
「いやぁ。ここまでキレイにされちゃって俺もびっくりしてんのよ」
「え?」
店長からの言葉にリエルは首を傾げた。
「じゃあ、この内装は――」
「はい。私がお掃除させていただきました」
お冷を配りに来たアヤカが回答した。
「あなたが?」
リエルの問いにアヤカは笑顔で頷いた。
「いやなに。雇ったばかりの頃、客が全然いなくて暇だったもんでな。とりあえず掃除でもさせたらやたらと気合入れちゃってね」
アヤカから受け取ったお使いの品を整理しながら店長が説明した。
「はい。とてもやりがいのあるお掃除でした」
テーブルの染み。窓の埃。天井の蜘蛛の巣。床の油汚れ。考えられる汚れを掃除すべくアヤカは店の物置から的確に掃除用具を取り出し、文字通り隅から隅まで店内を磨き上げたのだ。
「え?一人でやったの?」
「はい!」
屈託のない笑顔でアヤカは返事した。
表通りの喧騒とは打って変わり、ほとんど人が見られない路地裏を歩くこと数分。リエル一行はアヤカが示す目的地にたどり着いた。
「ここがアヤカさんの働くお店?」
「アヤカとお呼びください。えーと…」
「リエルよ」
「あたしはビオラ」
「アズキです」
「トニーだ」
一行は簡単に自己紹介した。
「わかりました。よろしくお願いいたします」
三人と一匹の名を聞いたアヤカは頭を下げた。
「で、こちらが私がアルバイトというものをしておりますお店です」
「この店で?」
ビオラは店の外観をチェックした。『ベルよし』と書かれた看板のその店は、お世辞にもキレイとはいいがたく、薄暗い路地裏の空気も相まって本当に営業しているのかさえ疑わしいレベルであった。
「ぼろいなオイ」
「ぼろいわね」
ストレートな感想を漏らすトニーとビオラであった。
「ちょっと二人とも!」
あまりな言いぐさにリエルが苦言を呈した。
「ふふ。おっしゃる通りです」
気を悪くすることなくアヤカは笑っていた。
「ですが、この『ぼろさ』こそがこの店の魅力だと私は思います。夜に灯すこの赤チョウチンはとても美しいんですよ」
アヤカは三割ほど破けたチョウチンを指し示した。
「どういうセンスよ…」
ビオラのツッコミを意に介することなく、アヤカは扉を開いた。
「店長。ただいま戻りました」
「おう。ご苦労さん」
威勢のいい声が奥から聞こえた。リエル達もアヤカに続き、中へと足を踏み入れた。
「ありゃ?」
「思ったよりもきれいね」
店内の様子は古風ながらも全体的に清潔感に満ちていた。
「お、何だ?客引きでもしてくれたのか?」
ガタイの良い板前衣装の男が新聞から顔を上げ、アヤカの方を向いた。どうやらこの店の店長のようだ。
「はい。昼食をとる場所を探していたようですので」
アヤカは買い物袋を店長に渡した。
「どうぞ。空いてる席へおかけください」
空席だらけの食堂。リエル達は手頃な四人テーブルの席に移動した。
「うわ。テーブルがピッカピカですよ」
「ホントだ。何これ」
外観からは想像もつかぬほどのきれいな内装。一流のレストランにも劣らぬ空間に一行は圧巻された。
「いやぁ。ここまでキレイにされちゃって俺もびっくりしてんのよ」
「え?」
店長からの言葉にリエルは首を傾げた。
「じゃあ、この内装は――」
「はい。私がお掃除させていただきました」
お冷を配りに来たアヤカが回答した。
「あなたが?」
リエルの問いにアヤカは笑顔で頷いた。
「いやなに。雇ったばかりの頃、客が全然いなくて暇だったもんでな。とりあえず掃除でもさせたらやたらと気合入れちゃってね」
アヤカから受け取ったお使いの品を整理しながら店長が説明した。
「はい。とてもやりがいのあるお掃除でした」
テーブルの染み。窓の埃。天井の蜘蛛の巣。床の油汚れ。考えられる汚れを掃除すべくアヤカは店の物置から的確に掃除用具を取り出し、文字通り隅から隅まで店内を磨き上げたのだ。
「え?一人でやったの?」
「はい!」
屈託のない笑顔でアヤカは返事した。
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