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第十二章

赤髪のガラの悪い少年

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「うっわぁ。混んでますねぇ」
「ヤベーなオイ」
 冒険者ギルドのオウカ支部。エキョウ本部に比べれば若干見劣りするものの、その規模はクラウディ大陸では最大のものである。ましてや、今は記念祭の最中ということもあってその中はちょっとしたイモ洗い状態であった。
「クエストの受注は…きつそうね」
 クエスト関係の受付前は長蛇の列ができていた。
「そうね。とりあえず冒険の記録の提出だけでもしておきましょう」
「じゃあ、僕が出してきますね」
 アズキはデワフ山からセダンまでの道のりが記されたノートを手にして記録関係の受付に向かった。
「さて、あたし達は――」
「おい!なんだこのしけたクエストヤマは!」
 クエスト受付から怒号が響いた。驚いたビオラが振り向くと、とがった赤髪の剣士が受付の職員に文句をつけていた。リエルよりもやや高い背丈で目つきは鋭く、肌は浅黒い。腰に二本の剣を携えた少年だ。
「もっとでかいヤマをよこせ!勇者が動くような魔物が出るヤマだ!」
 少年は受付のカウンターに拳を叩き付けながら怒鳴りつけた。
「無茶言わんでくださいよ!今のところそのような依頼は来ておりません!」
 今ギルドから受注できるクエストは『資材の調達』、『露店の店番』、『商人の護衛』、『調理補助』、『新作料理の味見』など。どれも記念祭に関連したクエストばかりだ。
「そもそも、そういうのは勇者、あるいはランクSの人でなければ受注できないものでありまして…」
「…けっ!クソが!」
 赤髪の少年は受付を離れ、腹いせに足元のゴミ箱を蹴飛ばした。
「あいたっ!」
 飛ばされたゴミ箱はビオラのすねに命中した。
「ちょっとアンタ!何すんのよ!」
 思わぬとばっちりの元凶にビオラは食って掛かった。
「あ?邪魔すんなクソが!」
 赤髪の少年は右手で目前の邪魔者を払いのけようとした。ビオラは右手でそれを阻んだ。
「どいてほしけりゃ詫びの一つでも入れなさいよチンピラ!」
「あんだとクソが!」
「やめなさい!」
 あと一秒でお互いの得物を抜く。そんな一触即発の二人に割って入ったのはリエルであった。
「何があったのかは知らないけど、人や物に当たるのは良くないわよ」
 ビオラをかばうように前に出たリエルは少年の顔をにらんだ。
「ああ?」
 赤髪の少年は新たな邪魔者に対し、ぎろりと睨み返した。その眼力は周囲の並の冒険者が恐れおののく程度の迫力である。しかし、リエルは動じることなくその瞳を捉えていた
「ギルド内での一切の揉め事は禁止。規則にもあるでしょ?」
 各地の冒険者が集い、受注するクエストを管理する冒険者ギルド。その規律を保つために内部にはいくつかの規則やマナーが存在する。もし、それらに反するような行為を働けばそれなりのペナルティが課せられる。最悪、冒険者ライセンスのはく奪もありえる。
「…ちっ!」
 赤髪の少年は大きな舌打ちを残し、リエル達の横を通ってギルドの外へ出て行った。

「…ふう…」

 少年の背中を見送ったリエルは大きなため息をついた。強烈な威圧感にさらされ、さすがに平気ではなかったようだ。
「ったく…なんなのよアイツ!」
 少年の姿が見えなくなったにも関わらず、ビオラはギルドの出口を睨み続けている。
「彼はドランツ・フィーブ。ファイン大陸出身の双剣使いです」
 床に散らばったゴミを片付けに来た職員が教えてくれた。
「ファイン大陸の?」
「はい。提出されている冒険の記録によりますと、討伐、特に凶悪な魔物や魔族との戦闘があるクエストばかりを受注しているようです」
「何それ?それなんて戦闘狂?」
 あまりに偏った傾向にビオラはあきれ顔を作った。
「どれも無事に完了している以上、実力はあるのですが、何しろあの態度でして…皆迷惑しているのです」
 職員にとっても彼の態度には辟易しているようだった。
「ずっと一人で活動しているのかしら…?」
「けっ!あたしは組みたくないわよあんな奴と!」
 ビオラはたまたま足元にいたトニーの腹に蹴りを入れた。
「解せぬ」
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