231 / 261
第十二章
廃校のゴーストと人形
しおりを挟む
「こりゃまた肝試しができそうなスポットね。したことないけど」
廃校となって久しい学園。それを物語るかのように朽ち果てた廊下を歩く静葉一行。昼間であるにも関わらず内部はどこかおどろおどろしく、壁には『手作り赤ちゃん作成の協力者求む(女子生徒のみ)』や『来たれ!第二野球部へ!』などの当時の部活勧誘のくすんだポスターが残されていた。
「実際、何体かのゴーストが出没しますよ。ほら」
ボルグの言葉に呼応するかのように目の前の教室の入り口から一体のゴーストが姿を現した。真っ黒な制服に身を包み、リーゼントの髪型をした男子不良のゴーストだ。
「うわ!」
静葉とエイルは思わず身構えた。
「…俺は悟りを開いたんだぁ…金を出せぇ…」
恨めしそうに呟いたゴーストは静葉達に目をくれることもなくいずこかへ歩き、スゥっと消えていった。
「…今のがゴースト?」
「はい。時折あんな風に現れて金銭を要求するような言葉を発しますが、特に害はないので放置しております」
ちなみにゴーストとは、死亡した生物の体内に残された魔力が何らかの影響で生前の姿を形成し、現世をさまよう魔物である。現在、たださまようタイプと見境なく攻撃するタイプの二種類が確認されている。元の生物の記憶や性格が反映されているのではという説があるが、確証は得られていない。
「聞いたことあるわ。夏休み中に悟りを開いたけど誰にも相手にされず、不良になって暴れまわるようになった生徒がいたって」
メイリスは同僚の騎士から聞いた話を思い出した。
「そして、盗んだ教師の弁当にたまたま入っていた下剤に当たって死亡したらしいの。おそらく、その時に残った魔力がゴーストになったんだと思うわ」
「それがあいつなの?」
「かもね」
「悟りを開いた意味あったのかしら…」
そうこう話をしているうちに静葉達は目的の会議室に到着した。
「ジャッキーさん。魔勇者様達をお連れしました」
「おう。入れ入れ」
ボルグが引き戸を開くと、会議室の広いテーブルの上に小さな人形がちょこんと座っていた。
「あんたが噂の魔勇者様か。ボルグから聞いているぜ」
「え?」
声の主に対し、静葉は目を丸くした。ひげを生やした中年を模した人形から甲高いふてぶてしい声が聞こえたのである。人形は表情を変えずに右手をブンブンと振っている。
「人形がしゃべってる…これって魔物?」
「おい。これとは失礼だな」
驚いたマイカに対し、人形は表情を変えずに注意した。
「こちらの人形は我らオウカ支部のアドバイザーのジャッキーさんです」
「アドバイザー?」
「おうよ。そして、俺はこの学園の元歴史教師だったんだぜ」
「きょ、教師?」
犬の次は人形の教師であった。
「学園に残された資料によりますと、ジャッキーさんは前任の歴史教師が気を病んだ時に赴任し、後任として前任に抱えられて授業をしていたそうです」
ボルグの言葉から静葉はある推測を思い浮かべた。
「抱えられて…それって腹話術?」
「まぁ、人間達はそう言うみたいだな」
意外なことにジャッキーはすんなりと肯定した。
「でも、今はどうやって…?」
腹話術の主はもはやここにはいない。しかし、こうやって独りでに動いている以上、この人形には意思が宿っている。
「おそらく、持ち主の魔力が付着してそのまま人形に宿り、意思を形成したんでしょうね。ゴーストとほぼ同じ原理よ」
メイリスはそう推測した。
「かもな。いつ宿ったかは覚えていねぇけど…」
ジャッキーは首を傾げ、当時を振り返った。
「あれかな?学園の厄払いとかなんか言われて生贄代わりにグラウンドに開けられた大穴にぶち込まれたことがあってな」
ジャッキーの動かない口からとんでもないエピソードが語られた。
「で、そこの支部長殿に地下で発見されて、そのツラを見た時にはすでに意思が芽生えていたな。そのまま拾われて地上に出てみれば学園には教師も生徒もいなくなっててびっくりしたぜ」
「いやぁ、トンネル掘ってた時にジャッキーさんの頭が出てきた時はびっくりしましたよ」
「で、二百年前の知識と教師経験を活かすためにこいつらのアドバイザーになってやることにしたってわけさ」
ジャッキーは無表情でふんぞり返った。
「なかなかタフな人形ね」
静葉はその根性にある意味感心した。
「じゃあ、あの人形も動くんですか?」
エイルは会議室の隅っこに放置されている等身大の人形を指さした。眼鏡をかけた人間の中年男性を模したゼンマイ付きの人形である。
「いえ。あれは『教頭代理君』といいまして、魔力や意思のないからくり仕掛けの人形です」
「代理?」
「はい。残された資料によりますと、これ一つで教頭の仕事全てを担うことが出来るよう作られた人形らしいのです」
ボルグは人形の背後に回り込み、ゼンマイを数回回した。
『さすが学園長!』
『おっしゃる通りです学園長!』
『ごもっともです学園長!』
ゼンマイの力で代理君が何通りかの言葉を発した。
「このように学園長のサポートを全力で行います」
「ただの太鼓持ちじゃん」
廃校となって久しい学園。それを物語るかのように朽ち果てた廊下を歩く静葉一行。昼間であるにも関わらず内部はどこかおどろおどろしく、壁には『手作り赤ちゃん作成の協力者求む(女子生徒のみ)』や『来たれ!第二野球部へ!』などの当時の部活勧誘のくすんだポスターが残されていた。
「実際、何体かのゴーストが出没しますよ。ほら」
ボルグの言葉に呼応するかのように目の前の教室の入り口から一体のゴーストが姿を現した。真っ黒な制服に身を包み、リーゼントの髪型をした男子不良のゴーストだ。
「うわ!」
静葉とエイルは思わず身構えた。
「…俺は悟りを開いたんだぁ…金を出せぇ…」
恨めしそうに呟いたゴーストは静葉達に目をくれることもなくいずこかへ歩き、スゥっと消えていった。
「…今のがゴースト?」
「はい。時折あんな風に現れて金銭を要求するような言葉を発しますが、特に害はないので放置しております」
ちなみにゴーストとは、死亡した生物の体内に残された魔力が何らかの影響で生前の姿を形成し、現世をさまよう魔物である。現在、たださまようタイプと見境なく攻撃するタイプの二種類が確認されている。元の生物の記憶や性格が反映されているのではという説があるが、確証は得られていない。
「聞いたことあるわ。夏休み中に悟りを開いたけど誰にも相手にされず、不良になって暴れまわるようになった生徒がいたって」
メイリスは同僚の騎士から聞いた話を思い出した。
「そして、盗んだ教師の弁当にたまたま入っていた下剤に当たって死亡したらしいの。おそらく、その時に残った魔力がゴーストになったんだと思うわ」
「それがあいつなの?」
「かもね」
「悟りを開いた意味あったのかしら…」
そうこう話をしているうちに静葉達は目的の会議室に到着した。
「ジャッキーさん。魔勇者様達をお連れしました」
「おう。入れ入れ」
ボルグが引き戸を開くと、会議室の広いテーブルの上に小さな人形がちょこんと座っていた。
「あんたが噂の魔勇者様か。ボルグから聞いているぜ」
「え?」
声の主に対し、静葉は目を丸くした。ひげを生やした中年を模した人形から甲高いふてぶてしい声が聞こえたのである。人形は表情を変えずに右手をブンブンと振っている。
「人形がしゃべってる…これって魔物?」
「おい。これとは失礼だな」
驚いたマイカに対し、人形は表情を変えずに注意した。
「こちらの人形は我らオウカ支部のアドバイザーのジャッキーさんです」
「アドバイザー?」
「おうよ。そして、俺はこの学園の元歴史教師だったんだぜ」
「きょ、教師?」
犬の次は人形の教師であった。
「学園に残された資料によりますと、ジャッキーさんは前任の歴史教師が気を病んだ時に赴任し、後任として前任に抱えられて授業をしていたそうです」
ボルグの言葉から静葉はある推測を思い浮かべた。
「抱えられて…それって腹話術?」
「まぁ、人間達はそう言うみたいだな」
意外なことにジャッキーはすんなりと肯定した。
「でも、今はどうやって…?」
腹話術の主はもはやここにはいない。しかし、こうやって独りでに動いている以上、この人形には意思が宿っている。
「おそらく、持ち主の魔力が付着してそのまま人形に宿り、意思を形成したんでしょうね。ゴーストとほぼ同じ原理よ」
メイリスはそう推測した。
「かもな。いつ宿ったかは覚えていねぇけど…」
ジャッキーは首を傾げ、当時を振り返った。
「あれかな?学園の厄払いとかなんか言われて生贄代わりにグラウンドに開けられた大穴にぶち込まれたことがあってな」
ジャッキーの動かない口からとんでもないエピソードが語られた。
「で、そこの支部長殿に地下で発見されて、そのツラを見た時にはすでに意思が芽生えていたな。そのまま拾われて地上に出てみれば学園には教師も生徒もいなくなっててびっくりしたぜ」
「いやぁ、トンネル掘ってた時にジャッキーさんの頭が出てきた時はびっくりしましたよ」
「で、二百年前の知識と教師経験を活かすためにこいつらのアドバイザーになってやることにしたってわけさ」
ジャッキーは無表情でふんぞり返った。
「なかなかタフな人形ね」
静葉はその根性にある意味感心した。
「じゃあ、あの人形も動くんですか?」
エイルは会議室の隅っこに放置されている等身大の人形を指さした。眼鏡をかけた人間の中年男性を模したゼンマイ付きの人形である。
「いえ。あれは『教頭代理君』といいまして、魔力や意思のないからくり仕掛けの人形です」
「代理?」
「はい。残された資料によりますと、これ一つで教頭の仕事全てを担うことが出来るよう作られた人形らしいのです」
ボルグは人形の背後に回り込み、ゼンマイを数回回した。
『さすが学園長!』
『おっしゃる通りです学園長!』
『ごもっともです学園長!』
ゼンマイの力で代理君が何通りかの言葉を発した。
「このように学園長のサポートを全力で行います」
「ただの太鼓持ちじゃん」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています


せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
無職で何が悪い!
アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。
消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。
ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。
ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。
毎日8時半更新中!

~僕の異世界冒険記~異世界冒険始めました。
破滅の女神
ファンタジー
18歳の誕生日…先月死んだ、おじぃちゃんから1冊の本が届いた。
小さい頃の思い出で1ページ目に『この本は異世界冒険記、あなたの物語です。』と書かれてるだけで後は真っ白だった本だと思い出す。
本の表紙にはドラゴンが描かれており、指輪が付属されていた。
お遊び気分で指輪をはめて本を開くと、そこには2ページ目に短い文章が書き加えられていた。
その文章とは『さぁ、あなたの物語の始まりです。』と…。
次の瞬間、僕は気を失い、異世界冒険の旅が始まったのだった…。
本作品は『カクヨム』で掲載している物を『アルファポリス』用に少しだけ修正した物となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる