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第十二章
通り名の意味
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「あいっ変わらず気配が読めないわね」
「読めぬ気配を読む。その領域に達すれば可能だ」
静葉のツッコミに対し、魔王は不条理な教えを返した。
「それはさておき…蒼龍騎士サイサリスか。悪くないと余は思うぞ」
エイルが普段身に着けている鎧の色を思い返して魔王は考えを口にした。
「でも…至高の武人だなんて…」
いまだ自分に自信が持てないエイルにとってその名はあまりにも荷が重いものであった。
「臆することはない。竜の言葉は廃れて久しい。人間はおろか、魔族ですらその意味を知る者はごくわずかだ。名乗るだけならば誰も笑うまい」
魔王自身、竜の言葉はエルダードラゴンのズワースから座学で学んだものであるが、その全てを完全に把握はしていない。魔王の座学の成績はそこそこであった。
「それに、ふさわしくないと思うならば、ふさわしくなるよう努めればよい。おぬしがそうありたいならばな」
魔王のその言葉に対し、エイルは返す言葉が思いつかなかった。
「アクィラにサイサリスか…して、おぬしはなんと名乗る?」
「私?そうね…」
魔王は二人の名づけ主に問いを投げかけた。メイリスは困ったような困ってないような表情で首を傾げた。
「私は――『マティウス』。大昔、ちょっとした背徳の罪を犯し、火あぶりの刑を受けた破戒騎士の名前よ」
「ほう?」
そのチョイスに魔王は感銘を受けた。国の謀略によって命を落とした自分の立場にかけたものであろう。
「さしずめ、魔勇者を守る破戒僧マティウスってとこね。まあ、私の場合は火あぶりじゃなくて四方から剣で刺されたんだけどね。アッハッハ!」
のんきに笑いながら無残な自らの最期を騙るメイリスであった。
「…よく笑い話にできるわね」
あきれ顔でお茶をすする静葉であった。
「さて、あとはシズハちゃんね」
「私はいいわよ。この世界に知り合いなんていないし。大層な名前なんていらないわ」
静葉はそっけなく拒否した。
「あらそう?じゃあ『シィちゃん』なんてどう?呼びやすいし可愛いでしょ?」
「だからいらないっての!てかそれじゃただのあだ名じゃん!」
マイペースなメイリスの提案であった。
「だいたい、魔勇者っていう肩書があるんだから、それで通じるでしょ」
「お?」
静葉の言葉を聞いた魔王は突如目を見開いた。
「何よ?」
「認めたな?自らを魔勇者と」
「…あ」
静葉自身から言質を得た魔王はニヤリと笑った。
「いまだに嫌々言ってはいるが、なんだかんだで自覚があったのだな。余は嬉しいぞ」
「そ、そういう意味じゃないわよ!」
「ふ。無理にツンデレする必要はない。これは余からのおごりだ」
魔王が指を鳴らすと、厨房から大きめのケーキが運びこまれた。
「食後のスイーツだ。四人で仲良くわけるがよい」
「ぐ…こいつ…」
生クリームと多くのフルーツをふんだんに使用した立派なケーキ。静葉の好みを的確についたそのチョイスは彼女を黙らせるに十二分であった。
「よかったわね。シィちゃん」
「だからシィちゃん言うな!」
「読めぬ気配を読む。その領域に達すれば可能だ」
静葉のツッコミに対し、魔王は不条理な教えを返した。
「それはさておき…蒼龍騎士サイサリスか。悪くないと余は思うぞ」
エイルが普段身に着けている鎧の色を思い返して魔王は考えを口にした。
「でも…至高の武人だなんて…」
いまだ自分に自信が持てないエイルにとってその名はあまりにも荷が重いものであった。
「臆することはない。竜の言葉は廃れて久しい。人間はおろか、魔族ですらその意味を知る者はごくわずかだ。名乗るだけならば誰も笑うまい」
魔王自身、竜の言葉はエルダードラゴンのズワースから座学で学んだものであるが、その全てを完全に把握はしていない。魔王の座学の成績はそこそこであった。
「それに、ふさわしくないと思うならば、ふさわしくなるよう努めればよい。おぬしがそうありたいならばな」
魔王のその言葉に対し、エイルは返す言葉が思いつかなかった。
「アクィラにサイサリスか…して、おぬしはなんと名乗る?」
「私?そうね…」
魔王は二人の名づけ主に問いを投げかけた。メイリスは困ったような困ってないような表情で首を傾げた。
「私は――『マティウス』。大昔、ちょっとした背徳の罪を犯し、火あぶりの刑を受けた破戒騎士の名前よ」
「ほう?」
そのチョイスに魔王は感銘を受けた。国の謀略によって命を落とした自分の立場にかけたものであろう。
「さしずめ、魔勇者を守る破戒僧マティウスってとこね。まあ、私の場合は火あぶりじゃなくて四方から剣で刺されたんだけどね。アッハッハ!」
のんきに笑いながら無残な自らの最期を騙るメイリスであった。
「…よく笑い話にできるわね」
あきれ顔でお茶をすする静葉であった。
「さて、あとはシズハちゃんね」
「私はいいわよ。この世界に知り合いなんていないし。大層な名前なんていらないわ」
静葉はそっけなく拒否した。
「あらそう?じゃあ『シィちゃん』なんてどう?呼びやすいし可愛いでしょ?」
「だからいらないっての!てかそれじゃただのあだ名じゃん!」
マイペースなメイリスの提案であった。
「だいたい、魔勇者っていう肩書があるんだから、それで通じるでしょ」
「お?」
静葉の言葉を聞いた魔王は突如目を見開いた。
「何よ?」
「認めたな?自らを魔勇者と」
「…あ」
静葉自身から言質を得た魔王はニヤリと笑った。
「いまだに嫌々言ってはいるが、なんだかんだで自覚があったのだな。余は嬉しいぞ」
「そ、そういう意味じゃないわよ!」
「ふ。無理にツンデレする必要はない。これは余からのおごりだ」
魔王が指を鳴らすと、厨房から大きめのケーキが運びこまれた。
「食後のスイーツだ。四人で仲良くわけるがよい」
「ぐ…こいつ…」
生クリームと多くのフルーツをふんだんに使用した立派なケーキ。静葉の好みを的確についたそのチョイスは彼女を黙らせるに十二分であった。
「よかったわね。シィちゃん」
「だからシィちゃん言うな!」
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