異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第十二章

通り名

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「突然だけど、通り名を決めようと思うの」

 魔王城の食堂。静葉とメイリス、エイルとマイカの四人が昼食にありつく中、メイリスが文字通り突然に提案した。彼女の今日の昼食は豚丼の肉大盛である。

「…本当に突然ね」

 めんどくさいことが始まった。そう顔に出しながら静葉は溜息をついた。彼女の今日の昼食は味噌ラーメンである。
「でも、通り名って?」
「いやね。異世界の魔勇者シズハちゃんはともかく、エイル君やマイカちゃんは元冒険者じゃない?外で本名で呼んだ時に知り合いにばれたら面倒でしょ?」
「まあ、そうね…」
 ニールとフィズ。かつての仲間の顔を思い浮かべたマイカは頷いた。彼女の今日の昼食はエビピラフセットである。
「僕は…そういう人はいないから大丈夫だと思うけど…」
 実際、エイル・クレセントはギルドの記録上、『黒竜の討伐クエストの最中に死亡』と明記されている。彼の今日の昼食はカキフライ定食である。
「まぁまぁ。こういうのはノリよノリ。思いつかないなら私が決めてあげるわよ」
 やや暗い表情を浮かべるマイカとエイルをよそに、メイリスは半ば強引に話を進めた。
「マイカちゃんはそうね…『アクィラ』なんてどう?」
 マイカが普段から横がけに着けている大鷲の仮面。そこから得たインスピレーションである。
「アクィラ…?」
「うん。魔勇者を守りし暴風の翼アクィラ。カッコイイと思わない?」
 妙なポーズをとりながらメイリスは同意を求めた。
「何なのその厨二臭い枕詞とポーズは…?」
 静葉はあきれ顔でお茶をすすった。
「まぁ…ちょっとカッコイイかも。ニールもそういうの好きだし…」
 一方で、マイカには好印象だったようだ。
「でしょでしょ?それじゃ、次はエイル君ね」
「えええ?」
 動揺するエイルをよそに、メイリスは顎に右人差し指を当てて一考した。

「エイル君は…『サイサリス』!」
「さ…サイサリス?」
 エイルにとっては聞きなれない言葉であった。
「なんか…薄幸の美少年っぽい名前ね」
 ワードの語感的に静葉にとってはそんなイメージがあった。もっとも、美少年というイメージはあながち間違いではないが。
「どういう意味なの?」
 スープをすすりながらマイカが尋ねた。先日、メイリスが図書館に寄ったときになんとなく見た一冊の本の背表紙に書かれていた単語である。
「それは――」
「サイサリス。竜の言葉で『至高の武人』を意味する言葉だな」
「し、至高の武人?」
「そりゃまた大層―…なぁっ!?」
 漆黒の気配漂う声にエイルと静葉が振り向くと、何食わぬ顔で魔王がそばをすすっていた。
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