228 / 261
第十二章
通り名
しおりを挟む
「突然だけど、通り名を決めようと思うの」
魔王城の食堂。静葉とメイリス、エイルとマイカの四人が昼食にありつく中、メイリスが文字通り突然に提案した。彼女の今日の昼食は豚丼の肉大盛である。
「…本当に突然ね」
めんどくさいことが始まった。そう顔に出しながら静葉は溜息をついた。彼女の今日の昼食は味噌ラーメンである。
「でも、通り名って?」
「いやね。異世界の魔勇者シズハちゃんはともかく、エイル君やマイカちゃんは元冒険者じゃない?外で本名で呼んだ時に知り合いにばれたら面倒でしょ?」
「まあ、そうね…」
ニールとフィズ。かつての仲間の顔を思い浮かべたマイカは頷いた。彼女の今日の昼食はエビピラフセットである。
「僕は…そういう人はいないから大丈夫だと思うけど…」
実際、エイル・クレセントはギルドの記録上、『黒竜の討伐クエストの最中に死亡』と明記されている。彼の今日の昼食はカキフライ定食である。
「まぁまぁ。こういうのはノリよノリ。思いつかないなら私が決めてあげるわよ」
やや暗い表情を浮かべるマイカとエイルをよそに、メイリスは半ば強引に話を進めた。
「マイカちゃんはそうね…『アクィラ』なんてどう?」
マイカが普段から横がけに着けている大鷲の仮面。そこから得たインスピレーションである。
「アクィラ…?」
「うん。魔勇者を守りし暴風の翼アクィラ。カッコイイと思わない?」
妙なポーズをとりながらメイリスは同意を求めた。
「何なのその厨二臭い枕詞とポーズは…?」
静葉はあきれ顔でお茶をすすった。
「まぁ…ちょっとカッコイイかも。ニールもそういうの好きだし…」
一方で、マイカには好印象だったようだ。
「でしょでしょ?それじゃ、次はエイル君ね」
「えええ?」
動揺するエイルをよそに、メイリスは顎に右人差し指を当てて一考した。
「エイル君は…『サイサリス』!」
「さ…サイサリス?」
エイルにとっては聞きなれない言葉であった。
「なんか…薄幸の美少年っぽい名前ね」
ワードの語感的に静葉にとってはそんなイメージがあった。もっとも、美少年というイメージはあながち間違いではないが。
「どういう意味なの?」
スープをすすりながらマイカが尋ねた。先日、メイリスが図書館に寄ったときになんとなく見た一冊の本の背表紙に書かれていた単語である。
「それは――」
「サイサリス。竜の言葉で『至高の武人』を意味する言葉だな」
「し、至高の武人?」
「そりゃまた大層―…なぁっ!?」
漆黒の気配漂う声にエイルと静葉が振り向くと、何食わぬ顔で魔王がそばをすすっていた。
魔王城の食堂。静葉とメイリス、エイルとマイカの四人が昼食にありつく中、メイリスが文字通り突然に提案した。彼女の今日の昼食は豚丼の肉大盛である。
「…本当に突然ね」
めんどくさいことが始まった。そう顔に出しながら静葉は溜息をついた。彼女の今日の昼食は味噌ラーメンである。
「でも、通り名って?」
「いやね。異世界の魔勇者シズハちゃんはともかく、エイル君やマイカちゃんは元冒険者じゃない?外で本名で呼んだ時に知り合いにばれたら面倒でしょ?」
「まあ、そうね…」
ニールとフィズ。かつての仲間の顔を思い浮かべたマイカは頷いた。彼女の今日の昼食はエビピラフセットである。
「僕は…そういう人はいないから大丈夫だと思うけど…」
実際、エイル・クレセントはギルドの記録上、『黒竜の討伐クエストの最中に死亡』と明記されている。彼の今日の昼食はカキフライ定食である。
「まぁまぁ。こういうのはノリよノリ。思いつかないなら私が決めてあげるわよ」
やや暗い表情を浮かべるマイカとエイルをよそに、メイリスは半ば強引に話を進めた。
「マイカちゃんはそうね…『アクィラ』なんてどう?」
マイカが普段から横がけに着けている大鷲の仮面。そこから得たインスピレーションである。
「アクィラ…?」
「うん。魔勇者を守りし暴風の翼アクィラ。カッコイイと思わない?」
妙なポーズをとりながらメイリスは同意を求めた。
「何なのその厨二臭い枕詞とポーズは…?」
静葉はあきれ顔でお茶をすすった。
「まぁ…ちょっとカッコイイかも。ニールもそういうの好きだし…」
一方で、マイカには好印象だったようだ。
「でしょでしょ?それじゃ、次はエイル君ね」
「えええ?」
動揺するエイルをよそに、メイリスは顎に右人差し指を当てて一考した。
「エイル君は…『サイサリス』!」
「さ…サイサリス?」
エイルにとっては聞きなれない言葉であった。
「なんか…薄幸の美少年っぽい名前ね」
ワードの語感的に静葉にとってはそんなイメージがあった。もっとも、美少年というイメージはあながち間違いではないが。
「どういう意味なの?」
スープをすすりながらマイカが尋ねた。先日、メイリスが図書館に寄ったときになんとなく見た一冊の本の背表紙に書かれていた単語である。
「それは――」
「サイサリス。竜の言葉で『至高の武人』を意味する言葉だな」
「し、至高の武人?」
「そりゃまた大層―…なぁっ!?」
漆黒の気配漂う声にエイルと静葉が振り向くと、何食わぬ顔で魔王がそばをすすっていた。
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~
北きつね
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれた”おっさん”は、すぐにステータスを偽装した。
ろくでもない目的で、勇者召喚をしたのだと考えたからだ。
一緒に召喚された、女子高校生と城を抜け出して、王都を脱出する方法を考える。
ダメだ大人と、理不尽ないじめを受けていた女子高校生は、巻き込まれた勇者召喚で知り合った。二人と名字と名前を持つ猫(聖獣)とのスローライフは、いろいろな人を巻き込んでにぎやかになっていく。
おっさんは、日本に居た時と同じ仕事を行い始める。
女子高校生は、隠したスキルを使って、おっさんの仕事を手伝う(手伝っているつもり)。
注)作者が楽しむ為に書いています。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第直していきますが、更新はまとめて行います。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
オタクおばさん転生する
ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。
天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。
投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる