異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
上 下
219 / 261
第十一章

あるギルドにて

しおりを挟む
「なんだって!?鉄草団がすでに壊滅していた…?」

 ファイン大陸南部。ブーラ地方にあるアムルの街。その街の冒険者ギルド内で衝撃的なニュースが走った。
「は、はい。先に偵察に向かった冒険者によると、アジト内にいた盗賊達はすでに全滅。リーダーであるスノームの遺体共々入り口付近で確認されたとのことです」
 ギルドの職員は戸惑いながらも説明した。
 鉄草団とは、ブーラ地方とサンユー地方の間に位置するエブラ山の山道にアジトを構えて通行人を襲う盗賊団の名称である。彼らは通行人から奪った食料や装備、貴重品などを法外な値段をつけて転売することで有名であった。
「全滅って…誰がやったの?」
「サンユー王国の騎士団か?」
「まさか猟兵が?」
 冒険者達から一斉に質問が飛び交った。
「…魔族です。彼らは我々よりも先にアジトへ乗り込み、鉄草団を一人残らず排除してアジトを占拠。魔族達が入り口付近で団員の遺体処理を行う様子が目撃されたようです」
 手を震わせながら職員は報告書を読み上げた。
「なんだって?」
「それじゃあ、奪われた品物は…」
「おそらく…」
 確認こそされてはいないが、職員と冒険者達の頭の中には一つの仮説が思い浮かんでいた。
 鉄草団の撃退と彼らに奪われた品物の奪還。この街の冒険者達はそのクエストを受注し、その準備を整えていた。
 しかし、鉄草団の存在と行為はブーラ地方に支部を構える魔王軍にとっても疎ましいものであったため、魔勇者をはじめとする刺客が送り込まれることとなった。
 その結果、鉄草団は一人残らず命を奪われ、品物も全て魔王軍に押収されることとなった。
「どーすんだよ!盗賊どもはともかく、品物を取り返せなけりゃクエストが達成できねぇじゃねぇか!」
「そうよ!これじゃポイントにならないじゃないの!」
 冒険者達は一斉に不満を漏らした。
「なんか代わりはないのかよ!占拠した魔族を倒せとか!」
「い、いえ…まだそのような話は…」
 『魔物の討伐』や『アイテムの調達』などの国や一般からの依頼は一度ギルド上層部に通す必要があり、彼らの承認を得て初めて正式なクエストとして冒険者が受注することが出来るようになる。そして、クエスト達成した際にギルドからもらえるポイントをためるとランクが上がる。ゆえに、クエストではない個人的な依頼は達成してもギルドからは報酬やポイントはもらえない。冒険の記録に記載し、提出すれば多少の反映はされるものの、それでも正式なクエストに比べればスズメの涙程度のものである。
「まだるっこしい!とっとと魔族どもをぶっ潰しに行こうぜ!」
 盗賊の次は魔族が自分達に牙をむく。そう考えた大柄の冒険者はギルドを飛び出そうとしていた。
「お、落ち着けゴライ!そんなことしても報酬やポイントはもらえないぞ!」
 隣にいた槍使いの冒険者はどうにかゴライをなだめようとした。
「そうっスよー。金にならない仕事なんてするだけ無駄っスー」
 突然後ろから聞きなれない声がかかり、振り向くとそこには緑のベレー帽をかぶった女が立っていた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ

ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。 見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は? 異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。 鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

無職で何が悪い!

アタラクシア
ファンタジー
今いるこの世界の隣に『ネリオミア』という世界がある。魔法が一般的に使え、魔物と呼ばれる人間に仇をなす生物がそこら辺を歩いているような世界。これはそんな世界でのお話――。 消えた父親を追って世界を旅している少女「ヘキオン」は、いつものように魔物の素材を売ってお金を貯めていた。 ある日普通ならいないはずのウルフロードにヘキオンは襲われてしまう。そこに現れたのは木の棒を持った謎の男。熟練の冒険者でも倒すのに一苦労するほど強いウルフロードを一撃で倒したその男の名は「カエデ」という。 ひょんなことから一緒に冒険することになったヘキオンとカエデは、様々な所を冒険することになる。そしてヘキオンの父親への真相も徐々に明らかになってゆく――。 毎日8時半更新中!

処理中です...