上 下
68 / 261
第四章

陽キャ僧侶

しおりを挟む
「おっはよう!シズハちゃん!」  

 朝、身支度を済ませて自室の扉を開けると、満面の笑みを浮かべた僧侶の女性が私を出迎えていた。さらりとした銀色の長い髪と豊満なバストが印象的な美しい年上の僧侶だ。

「…何してんの?」

 朝っぱらからテンションの高い人の相手は人生で苦手な行動トップ10に入る私は苦い顔で尋ねた。
「お誘いに来たの!一緒に朝ごはんをたべたいからね」
「…ええ…?」
 めっちゃニコニコしている。
「…あなた、私が何をしたかわかってるの?」
「ええ。私の胸に手刀で風穴を開けて殺した」
 ニコニコしたままはっきりと答えた。どんな話題にもニコニコしていて胡散臭い。

 この僧侶――メイリスという女性と出会ったのは一か月前のペスタ地方での任務の時である。彼女の言う通り私は任務の邪魔をしてきた冒険者の彼女を思いっきり殺した。否、殺したはずだった。
 実はメイリスは二百年ほど前に死亡していたアンデッドだったのである。かつて、ペスタ王国の騎士だったメイリスはとある策略によって命を落としかけたところを禁断魔法とやらでつなぎ止められ、二百年もの歳月をかけてアンデッドとしてよみがえったらしい。彼女はその正体を隠しながら冒険者ギルドで僧侶として活動を開始。そして、私に身体を回収されたことをきっかけにこの魔王軍に鞍替えするということになったのだ。どういうことだよ。

「…てか、あなたペスタにいたんじゃなかったの?」
「あの支部長さんにお願いして異動させてもらったの。身体は一通り診てもらったし、魔王様に正式な契約書も出さなきゃならないし。会いたい顔もいるからね」
「会いたい顔?」
「そう。あなたよ」
 そう告げたメイリスは私の鼻の頭に指を突き付けた。
「私ぃ?というか、冒険者の人間がよくまぁ魔族だらけのとこに来ようと思ったわね」
「あら、私は二百年も前から人間やめてるアンデッドなのよ?つまりは魔族の仲間。魔王城ここにいる方がむしろ自然じゃない?」
「ぐ、ぐぅ…」
 ぐうの音しか出なかった。
「それに、昔から興味があったのよ。人間の敵である魔族がどんな暮らしをしてるのかね。そうしたら、こんなにも皆和やかで至れり尽くせりで居心地がいいんだもの。驚いたわ」
 魔王軍こんなところが居心地いいだなんて。ギルドとやらがどんなところか知らないけどとんだ適応力を持ってるのね。
「おまけに、こんなかわいい娘が魔勇者なんてやってるんだもの。ますます興味がわいちゃうわ」
 そう言いながらメイリスは私の頬に手を当てた。
「ちょっ!何触ってんのよ!」
 ヒヤッとした感覚に驚いて私は思いきり払いのけた。
「あら?そんなに冷たかった?」
 人間の体温がまるで感じられなかった。やはりアンデッドだ。
「ごめんね。冷え性で」
「冷え性って…あなたアンデッドでしょうが」
「そうだったわね。てへ」
 メイリスはわざとらしく舌を出した。小粋なアンデッドジョークのつもりなのだろう。
「さあさあ。早く朝ご飯食べに行きましょ!今朝のオススメはベーコンエッグマフィンですって!」
「あ!ちょっと!」
 メイリスは私の手を掴み、強引に引っ張っていった。強引系陽キャだ。マジ苦手なタイプだ。手は冷たいし。

 まったく、朝から面倒なことになったものだわ。最近、胸やけがひどいし。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

異世界でショッピングモールを経営しよう

Nowel
ファンタジー
突然異世界にやってきたジュン。 ステータス画面のギフトの欄にはショッピングモールの文字が。 これはつまりショッピングモールを開けということですか神様?

異世界のんびり冒険日記

リリィ903
ファンタジー
牧野伸晃(マキノ ノブアキ)は30歳童貞のサラリーマン。 精神を病んでしまい、会社を休職して病院に通いながら日々を過ごしていた。 とある晴れた日、気分転換にと外に出て自宅近くのコンビニに寄った帰りに雷に撃たれて… ================================ 初投稿です! 最近、異世界転生モノにはまってるので自分で書いてみようと思いました。 皆さん、どうか暖かく見守ってくださいm(._.)m 感想もお待ちしております!

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。

錬金術師カレンはもう妥協しません

山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」 前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。 病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。 自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。 それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。 依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。 王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。 前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。 ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。 仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。 錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。 ※小説家になろうにも投稿中。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...