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第十一章

恋愛沙汰

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「はい、これで大丈夫です」
「ふう。助かったぜオイ」
 アズキから傷薬を塗ってもらったトニーは頭を下げて礼を言った。
 オウカ公国の首都セダンに向かう道中、リエル一行は鳥型の魔物のダイブイーグルの襲撃を受けた。ダイブイーグルは大きな翼から放つ突風による攻撃を得意とする魔物。その攻撃で背中に傷を負ったトニーは戦闘後にアズキの治療を受けていた。
「いつもありがとう。アズキ」
 ダイブイーグルを難なく撃破したリエルは笑顔でアズキに感謝の意を伝えた。
「あ!い、いえ…!」
 不意の笑顔を目の当たりにしたアズキはあたふたした。
「そ、そうだ!これ、よかったら…」
 アズキは手元の鞄からいそいそと一本の薬の瓶を取り出した。無色透明の液体が入っている。
「武器の強度を上げる薬です。試しに作ってみましたのでエンハンスソードにでも塗ってみてください」
「塗るだけで?すごい!」
 受け取ったリエルは素直に喜んだ。
「色もなく、匂いもしないので塗っても気にならないはずです」
「ありがとう。早速塗ってみるね!」
 そう言ってリエルは木の下に置いてある自分の荷物の元へ向かった。アズキは彼女の背中を静かに見送った。

「…ふ~~~ん…」
「ひゃっ!」
 背後からの妙な声にアズキが振り向くと、そこにはニヤニヤとした表情で彼を見つめるビオラの姿があった。
「ど、どうしたんですか?」
「いやなに。前から気になってたんだけどぉ…」
 一瞬の沈黙を挟み、ビオラは口を開いた。

「あんた、リエルのことが好きなんでしょ?」
「うえ?」
 鋭い指摘を受けたアズキは危うく手元の瓶を落としそうになった。
「ど、どうしてそう思うんですか?」
「だって~、あの道場の時からなんかアレだものぉ」
 ビオラは近くの木に寄っかかった。
「ま、無理もないわね。アイツ本当にいい奴だから」
 元騎士のサリアが営むハバキリ道場。そこにしばらく滞在した際にリエル達はアズキが男であることに初めて気づいた。言い出すタイミングを見失っていたアズキだったがリエルはそれを咎めることなく、今まで通り仲間として接してくれている。
 分け隔てなくまっすぐな彼女の姿にアズキはやがて惹かれていったのであろう。
「昔からああなのよ。バカだけどツラは可愛いし、スタイルもいい方だし、誰にでも優しいから地元でもやたらとモテてたのよ」
「へぇ~」
「地元じゃ色んな奴があいつに近寄ったものだわ。ガリ勉な奴とかチャラい奴とか根暗な奴とか電波な奴とか。あいつの知らないところで奪い合いがしょっちゅう起きてたのよ。流血沙汰になった時はドン引きしたわ」
 肩を竦め、呆れかえったビオラは当時の様子を振り返った。
「まったく、モテる女ってのは辛いわねぇ」
「その点、おめぇはいいな。全然モテねぇし」
「そうそう。あたしってばガサツだし、ちび体型だし、口と手が同時に出るし、ロクに男が寄ってこないから――ってやかましいわぁ!」
 どさくさに口を挟んできたトニーにビオラは強烈なストンピングをかました。

「…ふふ。皆仲がいいわね」

 作業をしながら二人と一匹のやり取りを眺めるリエルはのんきに笑っていた。
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