異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第十一章

悪口の練習

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「な、なんだバカ野郎!この野郎!」

 黒竜の洞窟。黒竜ズワースが居座る深部にぎこちない少年の罵声がこだました。

「…全然ダメね。なんかしゃくれてるし」
 寝不足な表情で腕組みをしている静葉は声の主に辛辣な評価を下した。

「あ、あの…どうして悪口の練習なんて…?」
 声の主――エイルは戸惑いながら質問した。
「なんかこう…地味というか…」
「何を言うか。これも立派な訓練じゃぞ?」
 エイルの頭上から巨大な黒竜――ズワースが声をかけた。
「知っての通り、この魔勇者はお前さんや大鷲の仮面のお嬢ちゃんマイカアンデッド婦人メイリスとパーティーを組むようになった」
 ズワースは静葉を指さし、説明を始めた。
「ゆえに、各々の役割を活かした連携が必要となるのじゃ」
「今の状況だと、私とメイリス、あなたエイルが前衛、マイカが後衛ってとこね」
 そう言いながら静葉は近くの椅子に腰を下ろした。
「うむ。しかし、数多の攻撃手段を持つ魔勇者、回復・補助魔法を持つアンデッド婦人メイリスは時に後衛に回ることもある」
「と、いうことは…」
「お前さんは基本、前に出ずっぱりということじゃ。ゆえに、敵の攻撃を真っ先に受けてもらわねばならぬ」
 ズワースは小さく火を吐き、おやつの生肉を炙った。
「その際、敵をあおってヘイトを稼ぎ、私達へのタゲを反らしてもらわなければならない。いわゆるタンク役ってヤツよ」
「な、なるほど。それで悪口の…」
 未知の単語はともかく、今日の訓練の意味を理解できたエイルは頷いた。
「でも、急に悪口なんて言われても…」
 悪口どころか、他人と話すこと自体得意ではないエイルにとって、それは難題であった。
「そう難しく考えることもあるまい。相手の悪いところを見つけるのは人間の得意分野じゃからな。自然と思い浮かぶはずじゃ」
 ズワースの個人的見解である。
「例えばこの魔勇者。『根暗』、『目つき悪い』、『影薄い』、『地味』などなど、いくつかつけこむことが可能じゃ」
「鼻から炎ぶちこむわよ?」
 効果てきめんであった。
「…まぁ、胸の小さい女性に『まな板』、『絶壁』。デコの広い中年に『ハゲ』とか人が気にしているとこをつくとかなり効くわよ」
 ズワースへの怒りを抑え込んだ静葉は説明を続けた。
「ちょうどそこにさっき倒した敵がいるじゃろ?なんか言ってみ」
 ズワースが指さした先には、洞窟のトラップを辛うじて突破し、見事返り討ちにあった肥満体型の冒険者が転がっていた。まだ息があるので全身を痛みで震わせている。
「こ、こうですか?…こ、この…豚野郎!」
 エイルは標的に近づいて手斧を壁に叩き付け、腹から声を出した。肥満の冒険者はその声に反応し、顔をあげてエイルの顔を見た。

「……あ……ありがとうございます…」

 顔を赤く染め、満足気な表情を浮かべた冒険者は安らかに眠りについた。中性的なか弱いエイルの顔つきが彼のツボをついたようだ。

「え…えぇ…?」

 まさかの反応にエイルは困惑した。
「…そういう属性の輩もいるのよ」
「そ、そうなんですか?」
 エイルは悪口の世界の奥深さを痛感した。
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