異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第十章

一方海賊達は

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「くそっ!何をやってるんだあの灰被りは!」

 海賊の旗艦であるバンディット号。その甲板上で海賊のリーダーであるベレーノはいら立ちを募らせていた。

 友人の友人である武闘家のライアルがどこからか連れてきた灰色の髪の男。海賊達が灰被りと呼称するその男は今いる空間と離れた空間をつなげることができる妙な緋色の剣を持っていた。
 その剣の力を利用することでベレーノは船を標的の船に近寄せることなく手下達を侵入させて難なく略奪や破壊工作が出来るようになった。特に、長年悩まされてきた魔大砲を無力化できたのはとても大きい。
 今度こそあのクイーン・ゼイナル号を制圧し、自分達の新たな旗艦として運用する。そして、自分達の力を内外に示すことで組織をさらに拡大する。それがベレーノの野望であった。

「おい!向こうの様子はどうなってる?」
「す、すみません。なんだか霧が濃くなってきたみたいで…」
 部下に怒鳴り散らしたベレーノは双眼鏡を手に取り、クイーン・ゼイナル号の様子を確かめた。しかし、いつの間にか発生した霧によって周囲は白く包まれ、近くの味方の船さえもよく見えない。心なしかどこか肌寒い。
「なんだこりゃ?さっきまで晴天だったはずだぞ?」
 この季節の海の天気は変わりやすい。海賊であるベレーノはそれをよく知っている。今回の襲撃も入念なチェックと準備のもとで実行したのだ。もしもの時の天候の時の対応も心得ている。
「かまわねぇ!このまま前進して直接乗り込め!」
 しかし、クイーン・ゼイナル号をここまで追い詰めておいて今更引き下がるわけにはいかない。一気に勝負を決める腹積もりでベレーノは前進の指示を出した。その指示に応えるかのようにバンディット号は汽笛を鳴らした。

「…あれ?」

 しかし、バンディット号は動かない。

「何やってる!さっさと動かせ!」
「か、舵がききません!」
 操舵手は手に力を込めて舵を動かそうとした。しかし、岩になったかのように舵はピクリとも動かない。

「た、大変です!」
 ベレーノの背後からもう一人の部下が慌てて声をかけてきた。

「海が…周囲の海が…」
「あ?海がどうした?」
「海が凍ってます!」
「何ぃ?」

 部下が指さした方角からベレーノは海を見下ろした。すると、さっきまで波立っていた海面がいつの間にか完全に凍り付いていた。

「な、何だこりゃ!?」

 バンディット号は氷によって完全に動きを封じられていた。この船だけではない。周囲の船も、標的であるクイーン・ゼイナル号でさえも分厚い氷によって船底を固められて身動きがとれなくなっていた。

「くそ!どうなってやがる?」
「わ、わかりません!」
「一体何…が…?」
 困惑しながらベレーノは凍り付いた海面の一部に注目した。その視線の先、海面の一部にひびが走った。

「な…!」

 海面が砕け、氷塊をまき散らしながらものすごい勢いで何かが飛び出してきた。

「どわああぁぁぁぁ!」

 氷の海から現れた巨大な海竜が薄ら笑いを浮かべながら海賊達を見下ろしていた。
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