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第十章
張本人
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「見つけた…!」
マフラーの拘束がほどけると同時に緋色の刃は裂け目の中へ引っ込み、主の元へ帰っていった。不利な状況であるはずなのに、灰色の髪の男は剣を構えることなく静葉をにらんでいた。
「さすがは魔勇者…と言うべきか」
男は薄ら笑いを浮かべ、静かに口を開いた。
「私を知っている?なら――」
「ああっ!」
話に割り込むように武闘家が声を荒げた。彼の目に映ったのは、胴体を無残に切り裂かれ、物言わぬ亡骸と化した勇者オータであった。
「お、オータ!おのれ…魔勇者め!」
仲間である勇者を殺した張本人。目の前の魔勇者をそう捉えた武闘家は灰色の髪の男の前に踏み出し、拳を構えた。
「勇者の仇はこの俺…が…?」
セリフの途中で武闘家は妙な違和感に襲われた。力を入れていたはずの両脚の感覚が急に途絶え、視界が急転。目の前には廊下の天井が映っていた。足元に目を向けると腰から下が自身から離れ、断面から赤い血と内臓が垂れ流れていた。
「白々しいな。それとも本音か?」
頭上から灰色の髪の男の冷たい声が響いた。
「あ…が…?」
激しい痛覚が思考を阻み、その言葉の意味が理解できなかった。
「勇者を殺したのはこの俺だ」
食肉と化する直前の豚を見るような目で武闘家を見下ろす灰色の髪の男は静かにそう告げた。
「俺の望みを教えてやろう。それは勇者とそれにすがる者の命だ」
「な…?」
武道家と静葉はその言葉を聞き、目を丸くした。
「お前は勇者の仲間という立場でありながらそれを利用し、海賊をこの船に手引きした。勇者の知らぬところで宝などの収穫を奴らと山分けするために」
男は淡々と説明を続けた。
「ゆえに、勇者を自らの欲望のために利用するお前も俺の標的だ」
男が手に持つ緋色の剣が武道家の頭部を貫いた。
「な…なんだこいつは…?」
「こっちが聞きたいわよ…」
灰色の髪の男の行動と言葉。いずれもリーヴァと静葉には理解が追い付かなかった。男は返り血一つつかぬ緋色の剣を亡骸から抜き取り、冷たい視線を二人に向けた。
この得体の知れない男には聞きたいことが山ほどある。その中でも最初に知りたいことを聞くために静葉は口を開いた。
「…あなたは何者なの…?」
「……」
男はすぐには答えなかった。返答を待つ間も静葉は相手の攻撃に備え、警戒を続けていた。空間の歪みと共に男が纏う奇妙な雰囲気がプレッシャーとなって彼女をじわじわとむしばんでいる。
「…望むなら教えてやる。俺の名はセラム・ドゥ。『勇者』という存在に絶望を刻む者だ」
セラム・ドゥ。そう名乗った男は緋色の剣を静葉に向けた。
マフラーの拘束がほどけると同時に緋色の刃は裂け目の中へ引っ込み、主の元へ帰っていった。不利な状況であるはずなのに、灰色の髪の男は剣を構えることなく静葉をにらんでいた。
「さすがは魔勇者…と言うべきか」
男は薄ら笑いを浮かべ、静かに口を開いた。
「私を知っている?なら――」
「ああっ!」
話に割り込むように武闘家が声を荒げた。彼の目に映ったのは、胴体を無残に切り裂かれ、物言わぬ亡骸と化した勇者オータであった。
「お、オータ!おのれ…魔勇者め!」
仲間である勇者を殺した張本人。目の前の魔勇者をそう捉えた武闘家は灰色の髪の男の前に踏み出し、拳を構えた。
「勇者の仇はこの俺…が…?」
セリフの途中で武闘家は妙な違和感に襲われた。力を入れていたはずの両脚の感覚が急に途絶え、視界が急転。目の前には廊下の天井が映っていた。足元に目を向けると腰から下が自身から離れ、断面から赤い血と内臓が垂れ流れていた。
「白々しいな。それとも本音か?」
頭上から灰色の髪の男の冷たい声が響いた。
「あ…が…?」
激しい痛覚が思考を阻み、その言葉の意味が理解できなかった。
「勇者を殺したのはこの俺だ」
食肉と化する直前の豚を見るような目で武闘家を見下ろす灰色の髪の男は静かにそう告げた。
「俺の望みを教えてやろう。それは勇者とそれにすがる者の命だ」
「な…?」
武道家と静葉はその言葉を聞き、目を丸くした。
「お前は勇者の仲間という立場でありながらそれを利用し、海賊をこの船に手引きした。勇者の知らぬところで宝などの収穫を奴らと山分けするために」
男は淡々と説明を続けた。
「ゆえに、勇者を自らの欲望のために利用するお前も俺の標的だ」
男が手に持つ緋色の剣が武道家の頭部を貫いた。
「な…なんだこいつは…?」
「こっちが聞きたいわよ…」
灰色の髪の男の行動と言葉。いずれもリーヴァと静葉には理解が追い付かなかった。男は返り血一つつかぬ緋色の剣を亡骸から抜き取り、冷たい視線を二人に向けた。
この得体の知れない男には聞きたいことが山ほどある。その中でも最初に知りたいことを聞くために静葉は口を開いた。
「…あなたは何者なの…?」
「……」
男はすぐには答えなかった。返答を待つ間も静葉は相手の攻撃に備え、警戒を続けていた。空間の歪みと共に男が纏う奇妙な雰囲気がプレッシャーとなって彼女をじわじわとむしばんでいる。
「…望むなら教えてやる。俺の名はセラム・ドゥ。『勇者』という存在に絶望を刻む者だ」
セラム・ドゥ。そう名乗った男は緋色の剣を静葉に向けた。
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