異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第十章

謎の攻撃

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「え…?」

 静葉とリーヴァは奇妙な光景を目にした。何者かが勇者の背後をとり、その命を奪った。その張本人が目の前に――いなかった。

「いない…?」

 勇者を殺した本人はおろか、今しがたその命を奪ったはずの刃でさえも見当たらない。

「ど、どういうことだ?」
「こっちが聞きたいわよ」
 リーヴァと静葉は我が目を疑いつつ、呼吸を整えて周囲の魔力を探った。しかし、まるで最初から存在していなかったかのようにこの廊下にはそれらしい痕跡が感じられなかった。
「ステルスコートを使ったのか?」
「いえ。だとしたら勇者こいつを殺した瞬間だけでも魔力とかがちらりするはずよ。返り血もつくでしょうし…」
 姿、匂い、魔力をも隠匿するステルスコート。何度か使用経験のある静葉はその利点も欠点も把握していた。

「ならばどうやっ――て!?」
 腰に巻かれた赤いマフラーが突如反応し、静葉の右側の何かに向けて動いた。壁に背中をつけつつ、そちらの方向に向いた静葉だったが、そこには何もいない。否、いた。

「――こいつは…!」

 赤いマフラーが巻き付き、捕えたのは先ほど勇者を刺し殺した緋色の刃。何もない空間に生じた裂け目から飛び出しているそれは静葉を横から真っ二つにせんと襲い掛かるところであった。
 赤いマフラーは主を守るように刃を締め付け、その動きを全力で止めている。

「この赤っぽい刃…こいつが犯人…?」

 静葉はマフラーを握りしめ、犯人(?)である刃を引きずり出そうと力をこめた。向こう側も抵抗しているのかその手ごたえは固く、そう簡単にはいかない。

「く…!」

 魔王の力を通じて多くの生命力を吸収し、常人の何倍もの腕力を身に着けている静葉だが、そんな彼女でもこの刃を引きずり出すことはできない。この緋色の刃自体、あるいはその持ち主も並みならぬ力を有していることがうかがえた。

「な、何なんだこれは…?」
「見てるくらいなら手伝いなさい!巨大なカブを引っこ抜くみたいに!」
「ぐ…言われずとも――ん?」

 不本意ながら助力しようと足を一歩出踏み出したリーヴァは何かに気づいた。

『…をして…る!はや…』

「…声…?」

 緋色の刃が飛び出している裂け目から何者かの声が漏れていた。

『今…それ…………はない…』

 別の人物の声も聞こえだした。どうやら裂け目の向こう側にいるのは一人ではないようだ。

「この刃の持ち主…?」
 踏ん張りながら静葉は声に耳を傾けた。
「だろうな。しかし――」
 リーヴァもその声の正体を確かめようと神経をとがらせた。

『今、甲板の………が……に殺られ……しいん…ぞ!』
『そうか。しく……たとい……とか』
『他人事…つも…か!お前…その…で……開け……と増援…来な……だぞ!』

「男が二人…何か言い争っているようだが…」
「増援って言ってるわね…あの海賊達と何か関係があるのかしら?」
「だとすれば…む?」
 リーヴァは背後の壁に目を向けた。

『誰のおかげでこの船に乗れたと思ってるんだ!お前がその変な剣で開けた穴で海賊達をこの船に乗り込ませて奴らが金品を根こそぎ奪う。そして俺がその分け前をもらうという算段だったんだぞ!』
『ああ。そして、俺はこの船に望むものがある。そのためにお前に力を貸した』

「この声は…!」

 壁の向こう側から聞こえる何者か二人が言い争う声。その声は謎の裂け目から聞こえるものと同じものであった。

「おしゃべりな犯人。ラノベでよくあるパターンね」
 刃の拘束をマフラーに任せ、静葉は両手に黒い炎をたぎらせた。
「おかげで助かったわ」
 そして、黒い火球を思いきり壁に叩き付けた。

「うおっ!」
「ぬっ!」

 砕かれた壁の向こう側は広く暗い物置部屋であった。そこには先ほど見かけた武闘家と見慣れない灰色の髪の男がいた。
 灰色の髪の男の手には奇妙な緋色の剣が握られていた。
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