上 下
197 / 261
第十章

計画変更

しおりを挟む
 正体不明の破壊工作が促された砲台室を後にし、静葉とリーヴァは廊下に飛び出した。
「…どうやら結構な数の海賊が侵入しているみたいね。最初からもぐりこんでいたの?」
「バカな。出航時にそのような気配は一つもなかったぞ」
 あちこちの部屋から乗客の悲鳴と海賊達の暴れる声が聞こえる。焦げの臭いに混じって血の臭いも漂っている。少なからぬ犠牲者が出ているようだ。
「それでどうするの?この有様で予定通りにいけると思う?」
 足のストレッチをしながら静葉は分かり切った質問をした。
「何?まさか直接貨物室に向かうつもりか?」
「当然でしょ?こうなった時点で計画もクソもないでしょうし。このどさくさを利用するほうがベターでしょうが」
「ぐ…」
 苦虫をかみ潰したような表情でリーヴァは静葉をにらんだ。不快なほどの正論を突き付けられ、ぐうの音も出なかった。
「それとも、『戦いは苦手なんでちゅ~』なんてアホなことは言わないでしょうね?魔勇者候補のエリートさん?」
 おどけた口調で静葉は露骨に挑発した。彼女の視界には、隙だらけに見えるリーヴァの背中に突っ込んでくる海賊二人が映った。
「バカに…するな!」
 リーヴァは背後に迫る敵に向けて振り向きながら大鎌を振るった。その斬撃の勢いは二人分の首を一気に跳ね飛ばすに十分であった。

「ごはっ!」
「ぐえっ!」

 しかし、大鎌は首を刈り取ることなく、そのままの衝撃を海賊二人に叩き付け、大砲で開いた穴から海原へ二人を突き落とすこととなった。

「…あ、あれ?」
 自分の攻撃が思っていたのと大きく異なる結果をもたらしたことに対し、リーヴァは困惑した。それは静葉も同様であったが、彼女はその原因をすぐに理解することができた。リーヴァは愛用の武器の刃の部分に注目した。

「…あ、あああ!し、深淵の鎌があぁぁぁ!」

 先ほどの黒い炎によって刃を溶かされ、鎌としての機能を失った武器を見たリーヴァは激しく狼狽した。クイーン・ゼイナル号の武装に関する説明に夢中になり、その直後の予想外の海賊の襲撃も相まって、静葉に刃を溶かされたことをすっかり忘れていたのであった。

「あ、ごめん」
 あまりの動揺ぶりに静葉は素直に謝罪の言葉をもらした。
「ど、どどどどうしてくれるんだ!長年愛用してきた私の鎌ぁ!」
「わ、悪かったってば。帰ったら新しいの買ってあげるから。今はこれで何とかしてちょうだいよ」
 そう言って静葉は海賊から奪ったサーベルを手渡した。
サーベルそれぐらいは難なく使えるでしょ?魔法とかもあるんでしょうし…」
「そ、それはそうだが…貴様は素手で戦うつもりか?」
「大丈夫よ。そういう訓練は受けているし。なんとでもなるから――ねっ!」
 リーヴァの懸念を振り払うかのように静葉は話の途中で襲い掛かってきた海賊の頭を思いきり蹴り飛ばした。

「――まぁ、こんな感じで――ってあれ?」
 ふとリーヴァの顔を見ると、彼は顔を赤らめ、視線を露骨に反らしていた。
「…何してんの?」
「い、いや、その…女子が、スカートで…その…足を…」
「は?…ってああ」
 自分の服装を改めた静葉はリーヴァの反応の意味を理解することができた。普段はズボンなどのパンツルックで過ごしているせいか、スカートを身に着けている時のふるまいをすっかり忘れていた。
「こんなことだったら下にスパッツでも履いてくればよかったわね」
「そういう問題じゃない!それはそれで破廉恥…あ、い、いや…と、とにかく行くぞ!」
 気持ちの整理のつかぬままリーヴァはすたこらと貨物室へ向かった。

「…こいつ、思ったよりもポンコツね…」

 海賊のナイフを拾った静葉は内心呆れながらもリーヴァの後を追った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

元チート大賢者の転生幼女物語

こずえ
ファンタジー
(※不定期更新なので、毎回忘れた頃に更新すると思います。) とある孤児院で私は暮らしていた。 ある日、いつものように孤児院の畑に水を撒き、孤児院の中で掃除をしていた。 そして、そんないつも通りの日々を過ごすはずだった私は目が覚めると前世の記憶を思い出していた。 「あれ?私って…」 そんな前世で最強だった小さな少女の気ままな冒険のお話である。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...