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第十章
苦言
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「話が逸れてしまいましたね。本題に戻りましょう」
大鎌を壁に立てかけ、リーヴァは再びテーブルの地図に向き合った。
「で、この貨物室の警備ですが、例年のスケジュールによりますと、交代と同時に食料が運び込まれるそうです」
「食料?警備用の食事じゃないの?」
「いえ。それとは別に貨物室内に運んでいるところから考えるに、おそらく餌的なものと思われます」
「餌…ということは動物?」
リーフは元の世界でそういう話を聞いたことがあった。絶滅の危険性が高い、あるいは野に放たれた際、生態系を大きく狂わせる可能性が高い動物は通常のルートでは取引できない。そう、通常のルートでは。
「何かしらの金になる動物か魔物も生きたまま輸送している…というわけね」
「おそらく。そこで、その餌の中に発信石を混ぜ込み、そのまま貨物室へ運び込ませるという作戦をとります」
リーヴァは厨房がある場所に指を向けた。
「そして、発信石の場所が止まったところを見計らい、海中で待機している海魔王軍が船にこっそりと穴をあけ、積み荷をいただくという寸法となります」
「なるほど。厨房ならそこまで警備も厳しくないでしょうし、餌に発信石を仕込んだら任務達成も同然。私達は残り時間で船旅を満喫できるというわけね」
リーヴァの話を聞き、メリッサは納得した。
「そう簡単にいくかしらね…」
一方、リーフは苦い表情で船の地図をにらんでいた。
「早速ですが、メリッサ殿にはパーティーに戻っていただき、情報収集と陽動をお願いします。私はリーフ殿ともう少し細かい話をしますので」
「オッケー!貴族達の目をくぎ付けにすればいいのね」
メリッサは右手でOKサインを作り、意気揚々と部屋の出口に向かった。
「はや!」
リーフはメリッサの行動の速さに驚くと同時に大勢の相手をせずに済んだことに対してほっとした。
「それじゃ。もしエッチなことをするときは扉にサイン出しといてね。終わるまで待っててあげるから」
「するかぁ!」
リーフの怒鳴りを尻目にメリッサはさっさと退室した。
「ははは。面白いご婦人ですな」
「ただのおせっかいゾンビよ。何かと暑苦しくて仕方ないわ。体温ないけど」
のんきに笑うリーヴァに対し、リーフは溜息をついた。
「それで…細かい話って?」
「そうでしたな、リーフ殿……いや、シズハ・ミナガワといったかな?」
「…何?」
静葉はリーヴァの雰囲気が変わったことを肌で感じ取った。彼の目つきは今までよりも鋭く、好意的なものではない。そう感じ取った静葉はわずかに身構えた。
「話は聞いているよ。魔王オグロジャック様の導きを受けて異世界より君臨し、魔勇者の称号と力を授かった者である、とな」
リーヴァはどこか険しい表情で自らの見聞を話した。
「その活躍は目覚ましく、ゾート王国をほぼ一人で滅ぼしたという話は海魔王軍にもいきわたっている。凄まじいものだ」
「……」
「しかし…その一方で、魔王様に対してずいぶんと不義理なふるまいをしているらしいな」
「…それがどうしたの?」
普段の魔王への態度を振り返りながら静葉はそっけなく尋ねた。
「貴様は魔王様に選ばれ、魔勇者になったのであろう?ならばその栄誉に応えるべきではないのか?」
「…は?」
質問の意味がわからず、シズハは拍子抜けした声を出した。
「心なき人間を駆逐する剣となり、力なき魔族を守る盾となる魔勇者。その称号と使命は魔族にとってこれ以上ない栄誉だ。本来ならば昼夜を問わずひたすらに戦いに明け暮れ、忠義を示すべきなのだ。なのに貴様は与えられた任務の日以外はろくに働かず、城にこもって怠惰をむさぼり、挙句に魔王様の悪口をこぼしているらしいな。これを見下げずしてなんとする?」
「…誰から聞いたのよ?」
「我々海魔王軍の情報網は全てお見通しだ。貴様みたいな得体のしれない小娘が魔勇者とはなんたる失望だ!」
リーヴァは軽蔑の眼差しで静葉を一瞥した。
「…ふっ」
一瞬の沈黙を挟み、静葉は小さく鼻で笑った。
「何がおかしい?」
予想外の反応を目にしたリーヴァは訝しんだ。
「いやなに。周りは魔勇者様魔勇者様ってなにかと持ち上げる奴ばっかりだったからね。あなたみたいな言い方する奴は逆に新鮮だと思ってね」
「なんだと?」
「一つあなたは誤解しているわ。私は導きを受けたわけでもなく、称号と力を授かったわけでもない。平凡に暮らしていたところをあのクソ魔王にさらわれ、無理やり魔勇者の力を押し付けられたのよ。そんな人さらいに忠義を示せ?頭おかしいんじゃないの?」
静葉はあきれ顔でリーヴァをにらみ返した。
「一応、言われた任務はこなしているんだし、訓練だって一応こなしてるのよ。そもそも、私のことなんかあなたには関係のない話でしょ?」
「いいや。大いにある」
「え?」
リーヴァは壁に立てかけていた大鎌を手に取り、その刃を静葉に向けた。
「私は、魔勇者候補の一人だったからだ」
大鎌を壁に立てかけ、リーヴァは再びテーブルの地図に向き合った。
「で、この貨物室の警備ですが、例年のスケジュールによりますと、交代と同時に食料が運び込まれるそうです」
「食料?警備用の食事じゃないの?」
「いえ。それとは別に貨物室内に運んでいるところから考えるに、おそらく餌的なものと思われます」
「餌…ということは動物?」
リーフは元の世界でそういう話を聞いたことがあった。絶滅の危険性が高い、あるいは野に放たれた際、生態系を大きく狂わせる可能性が高い動物は通常のルートでは取引できない。そう、通常のルートでは。
「何かしらの金になる動物か魔物も生きたまま輸送している…というわけね」
「おそらく。そこで、その餌の中に発信石を混ぜ込み、そのまま貨物室へ運び込ませるという作戦をとります」
リーヴァは厨房がある場所に指を向けた。
「そして、発信石の場所が止まったところを見計らい、海中で待機している海魔王軍が船にこっそりと穴をあけ、積み荷をいただくという寸法となります」
「なるほど。厨房ならそこまで警備も厳しくないでしょうし、餌に発信石を仕込んだら任務達成も同然。私達は残り時間で船旅を満喫できるというわけね」
リーヴァの話を聞き、メリッサは納得した。
「そう簡単にいくかしらね…」
一方、リーフは苦い表情で船の地図をにらんでいた。
「早速ですが、メリッサ殿にはパーティーに戻っていただき、情報収集と陽動をお願いします。私はリーフ殿ともう少し細かい話をしますので」
「オッケー!貴族達の目をくぎ付けにすればいいのね」
メリッサは右手でOKサインを作り、意気揚々と部屋の出口に向かった。
「はや!」
リーフはメリッサの行動の速さに驚くと同時に大勢の相手をせずに済んだことに対してほっとした。
「それじゃ。もしエッチなことをするときは扉にサイン出しといてね。終わるまで待っててあげるから」
「するかぁ!」
リーフの怒鳴りを尻目にメリッサはさっさと退室した。
「ははは。面白いご婦人ですな」
「ただのおせっかいゾンビよ。何かと暑苦しくて仕方ないわ。体温ないけど」
のんきに笑うリーヴァに対し、リーフは溜息をついた。
「それで…細かい話って?」
「そうでしたな、リーフ殿……いや、シズハ・ミナガワといったかな?」
「…何?」
静葉はリーヴァの雰囲気が変わったことを肌で感じ取った。彼の目つきは今までよりも鋭く、好意的なものではない。そう感じ取った静葉はわずかに身構えた。
「話は聞いているよ。魔王オグロジャック様の導きを受けて異世界より君臨し、魔勇者の称号と力を授かった者である、とな」
リーヴァはどこか険しい表情で自らの見聞を話した。
「その活躍は目覚ましく、ゾート王国をほぼ一人で滅ぼしたという話は海魔王軍にもいきわたっている。凄まじいものだ」
「……」
「しかし…その一方で、魔王様に対してずいぶんと不義理なふるまいをしているらしいな」
「…それがどうしたの?」
普段の魔王への態度を振り返りながら静葉はそっけなく尋ねた。
「貴様は魔王様に選ばれ、魔勇者になったのであろう?ならばその栄誉に応えるべきではないのか?」
「…は?」
質問の意味がわからず、シズハは拍子抜けした声を出した。
「心なき人間を駆逐する剣となり、力なき魔族を守る盾となる魔勇者。その称号と使命は魔族にとってこれ以上ない栄誉だ。本来ならば昼夜を問わずひたすらに戦いに明け暮れ、忠義を示すべきなのだ。なのに貴様は与えられた任務の日以外はろくに働かず、城にこもって怠惰をむさぼり、挙句に魔王様の悪口をこぼしているらしいな。これを見下げずしてなんとする?」
「…誰から聞いたのよ?」
「我々海魔王軍の情報網は全てお見通しだ。貴様みたいな得体のしれない小娘が魔勇者とはなんたる失望だ!」
リーヴァは軽蔑の眼差しで静葉を一瞥した。
「…ふっ」
一瞬の沈黙を挟み、静葉は小さく鼻で笑った。
「何がおかしい?」
予想外の反応を目にしたリーヴァは訝しんだ。
「いやなに。周りは魔勇者様魔勇者様ってなにかと持ち上げる奴ばっかりだったからね。あなたみたいな言い方する奴は逆に新鮮だと思ってね」
「なんだと?」
「一つあなたは誤解しているわ。私は導きを受けたわけでもなく、称号と力を授かったわけでもない。平凡に暮らしていたところをあのクソ魔王にさらわれ、無理やり魔勇者の力を押し付けられたのよ。そんな人さらいに忠義を示せ?頭おかしいんじゃないの?」
静葉はあきれ顔でリーヴァをにらみ返した。
「一応、言われた任務はこなしているんだし、訓練だって一応こなしてるのよ。そもそも、私のことなんかあなたには関係のない話でしょ?」
「いいや。大いにある」
「え?」
リーヴァは壁に立てかけていた大鎌を手に取り、その刃を静葉に向けた。
「私は、魔勇者候補の一人だったからだ」
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