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第十章
魔力探知
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「以上。勇者オータ様御一行からのご挨拶でした!」
紹介を終えたイッサクは手元のテーブルに置いてあったワイングラスを手に取った。
「それでは、よい船旅をゆるりとお楽しみください――乾杯!」
その言葉を合図に貴族達は一斉にグラスを掲げ、乾杯をかわした。その直後、汽笛が鳴り響き、クイーン・ゼイナル号は海原へと動き始めた。
「おや、これはエノック卿。先日の馬車事故についての会見はよろしいのですか?」
「いいんですよあんなの。平民一人ひき逃げしたぐらいでこのパーティー参加をキャンセルするわけにはいきませんから」
「ほほう。これはまた良いデザインのハンカチーフだな」
「ありがとうございます!我がモモロ織物店の新作でございます。よろしければ今後ともごひいきに…」
「そこの美しいご婦人。これから私とダンスでもいかがかな?」
「ピーチキンのシチメン焼きうめー」
ピアノやフルートなどの演奏をBGM にして、会場では穏やかな歓談の時間が流れていた。仲の良い貴族同士でとりとめのない雑談をかわす者。有力な貴族に取り入ろうと全力でゴマをする者。見た目麗しい女性をかたっぱしから口説こうとする者。ひたすらに高級料理を堪能する者。各々がパーティーを楽しむ中、リーフとメリッサは目的の人物を探すべく目を動かしていた。
「…こうも人が多いと、見つけるのも一苦労ね」
「そうねモグモグ。でもこういう時こそモググ、感覚をモグすませモグン」
「飲み込んでからしゃべりなさいよ」
メリッサは用意されていた肉料理を存分に堪能していた。
「ごめんね。常に栄養補給していないと落ち着かなくてね。モググン」
そう言いながらもメリッサはローストビーフを口に放り込んだ。アンデッドである彼女の体質は他の生物よりも多量の栄養を必要としているのだ。
「とりあえず、魔力を探ってみなさい。彼らの魔力は人間とは流れが異なるからね」
「魔力…ねぇ…」
訝しみながらリーフは水を一口飲み、気持ちを整えた。人間とは異なる魔力の流れ。魔族のそれを探るべく彼女は神経を研ぎ澄ませた。ズワースから教わった魔力探知だ。
(…前方にそれらしいのはいないわね…)
周囲の貴族達の魔力はどれも似たり寄ったりだが、特別変わりあるものではない。少し先のステージ付近に感じる四つの魔力。先ほど紹介された勇者達であろう。他よりも少し大きいが流れは人間のものだ。
(…こいつらにはうかつに近づかないほうがいいかもね…)
今はうまく隠しているが、魔勇者である自分とアンデッドであるメリッサの魔力を感知されれば間違いなく狙われる。リーフは警戒した。
(…次は後ろの方…に…)
身体の向きを変えることなくリーフは後方の魔力を探った。そこには多数の貴族の魔力の中に一つだけ妙な流れの魔力が見られた。
(距離は意外と近いわね…というか、近づいて…?)
リーフはその魔力の動きを捉えていた。それはまっすぐに移動している。まるで相手がこちらを捉えているかのように。そして――
「ごきげんよう。お嬢様がた」
「うおっぷす!」
背後からの声にリーフは思わず変な声をあげた。高速で振り向くとそこには整った顔立ちをした青髪の青年が愛想のよい笑顔でこちらを見ていた。
「リーフ・パンテーラ殿とメリッサ・ウェリントン殿ですね?お会いできて光栄です」
青年は丁寧に頭を下げた。上質な服に身を包んだその胸元には青いバラの花飾りがついていた。
「も、もしかしてあなたが…」
「はい。ウェイブ・シーハーブと申します。ソティ王国に店を構える高級レストラン『セブン・エンジェル』のオーナーです」
ウェイブと名乗った青年は穏やかな表情で自らの仮初の素性をあかした。
紹介を終えたイッサクは手元のテーブルに置いてあったワイングラスを手に取った。
「それでは、よい船旅をゆるりとお楽しみください――乾杯!」
その言葉を合図に貴族達は一斉にグラスを掲げ、乾杯をかわした。その直後、汽笛が鳴り響き、クイーン・ゼイナル号は海原へと動き始めた。
「おや、これはエノック卿。先日の馬車事故についての会見はよろしいのですか?」
「いいんですよあんなの。平民一人ひき逃げしたぐらいでこのパーティー参加をキャンセルするわけにはいきませんから」
「ほほう。これはまた良いデザインのハンカチーフだな」
「ありがとうございます!我がモモロ織物店の新作でございます。よろしければ今後ともごひいきに…」
「そこの美しいご婦人。これから私とダンスでもいかがかな?」
「ピーチキンのシチメン焼きうめー」
ピアノやフルートなどの演奏をBGM にして、会場では穏やかな歓談の時間が流れていた。仲の良い貴族同士でとりとめのない雑談をかわす者。有力な貴族に取り入ろうと全力でゴマをする者。見た目麗しい女性をかたっぱしから口説こうとする者。ひたすらに高級料理を堪能する者。各々がパーティーを楽しむ中、リーフとメリッサは目的の人物を探すべく目を動かしていた。
「…こうも人が多いと、見つけるのも一苦労ね」
「そうねモグモグ。でもこういう時こそモググ、感覚をモグすませモグン」
「飲み込んでからしゃべりなさいよ」
メリッサは用意されていた肉料理を存分に堪能していた。
「ごめんね。常に栄養補給していないと落ち着かなくてね。モググン」
そう言いながらもメリッサはローストビーフを口に放り込んだ。アンデッドである彼女の体質は他の生物よりも多量の栄養を必要としているのだ。
「とりあえず、魔力を探ってみなさい。彼らの魔力は人間とは流れが異なるからね」
「魔力…ねぇ…」
訝しみながらリーフは水を一口飲み、気持ちを整えた。人間とは異なる魔力の流れ。魔族のそれを探るべく彼女は神経を研ぎ澄ませた。ズワースから教わった魔力探知だ。
(…前方にそれらしいのはいないわね…)
周囲の貴族達の魔力はどれも似たり寄ったりだが、特別変わりあるものではない。少し先のステージ付近に感じる四つの魔力。先ほど紹介された勇者達であろう。他よりも少し大きいが流れは人間のものだ。
(…こいつらにはうかつに近づかないほうがいいかもね…)
今はうまく隠しているが、魔勇者である自分とアンデッドであるメリッサの魔力を感知されれば間違いなく狙われる。リーフは警戒した。
(…次は後ろの方…に…)
身体の向きを変えることなくリーフは後方の魔力を探った。そこには多数の貴族の魔力の中に一つだけ妙な流れの魔力が見られた。
(距離は意外と近いわね…というか、近づいて…?)
リーフはその魔力の動きを捉えていた。それはまっすぐに移動している。まるで相手がこちらを捉えているかのように。そして――
「ごきげんよう。お嬢様がた」
「うおっぷす!」
背後からの声にリーフは思わず変な声をあげた。高速で振り向くとそこには整った顔立ちをした青髪の青年が愛想のよい笑顔でこちらを見ていた。
「リーフ・パンテーラ殿とメリッサ・ウェリントン殿ですね?お会いできて光栄です」
青年は丁寧に頭を下げた。上質な服に身を包んだその胸元には青いバラの花飾りがついていた。
「も、もしかしてあなたが…」
「はい。ウェイブ・シーハーブと申します。ソティ王国に店を構える高級レストラン『セブン・エンジェル』のオーナーです」
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