異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第十章

クイーン・ゼイナル号

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「ご来場の皆さま!ようこそ我がクイーン・ゼイナル号へ!」
 会場の中央。一段程高く作られたステージの上で主催者と思われる煌びやかな衣装をまとった壮年の男性貴族が挨拶を始めた。
「私はサンユー王国左大臣にして、このクイーン・ゼイナル号のオーナーでもあるイッサク・ゲーリーヨーンズでございます」
 主催者イッサクは丁寧に頭を下げた。奥ゆかしい所作ではあるが、どこか貴族特有の尊大さが漂っている。

「この度は年に一度のクイーン・ゼイナル号のクルージングパーティーにお越しいただきありがとうございます。この船の名前は初代サンユー王国女王のゼイナル・イナ・サンユーにあやかり――」

「…こりゃまたテンプレな貴族様ね」
「やっぱりそう思う?」
 主催者のスピーチを聞きながらリーフは小さく呟き、メリッサもうなずいた。貴族達はやんごとなき大臣の話に意識を集中しており、二人の言葉は耳に入ることはなかった。
「こんなでかい船の維持費とか結構金使ってんじゃない?」
「そうね。サンユー王国では最近、消費税が上がったって話があるからね」
「この世界にも消費税があるの?」
 リーフは内心、魔王に召喚されたことをほんの少しだけラッキーだと思った。

「――此度のクルージングは、サンユー王国とソティ王国の交流もかねており、二大国の親交を深めることで魔族との戦いに備えて――」

 オーナーのスピーチは継続している。貴族達は飽きていないのか熱心に聞いていた。

「親交ねぇ…平民に魔族とかと戦わせておいて自分達はのんきなものね」
「どこの世界でも政治家ってヤツは腹立つものみたいね」
 メリッサとリーフのひそひそ話も継続していた。オーナーは自分の話に陶酔しきっており、聴衆一人一人の様子などまるで気に留めてもいなかった。

「しかし大丈夫なんでしょうか?最近、この近海で海賊が出没しているという噂があるのですが?」
 最前列から一人の貴族が手を上げ、イッサクに質問した。その様子はどこかしらじらしく、スピーチの合間を見極めたかのようにタイミングがいい。まるで仕込みのようだ。
「確かに我がサンユー王国の領海で海賊が暴れまわり、いくつかの漁船が被害に遭っているという話は耳にしております」
 質問に対し、イッサクは頷きながら答えた。
「しかし、ご安心ください!このクイーン・ゼイナル号は軍艦に使われる技術を応用して建造されており、最新の迎撃機能を搭載。そして、この船の装甲は並大抵の悪天候や攻撃などものともしません!」
 そう話すイッサクの背後からフードをかぶった四人組がステージに上ってきた。
「さらに、今回は我がサンユー王国の勇者様御一行が同乗しておられます!万が一にでも海賊や魔物がこの船に乗り込んできたとしても彼らの前ではちり芥も同然なのです!」
 貴族達は一斉に歓声をあげた。イッサクの背後の四人組はフードを外し、その素顔をあらわにした。
「あれは…?」
 リーフの目に映ったのは、少年二人と少女二人の四人組であった。見たところ、少年は剣士と武闘家。少女は魔法使いと僧侶といったところだろうか。
「こちらは先日、我が国が任命した勇者オータ・エイムズ様とその仲間達でございます」
 イッサクは剣士の少年を指し、一行の紹介を自慢げに始めた。
「彼らはサンユー王国を中心に活動する冒険者パーティー『守護の風』でありまして――」

「もう次の勇者を決めていたなんて、相変わらずせわしない国ね」
…?それって――」
 前の勇者を知っている。メリッサの口ぶりはそう聞こえた。
「あら。あなたも会ったことあるわよ?タタリア遺跡でチンピラみたいな風貌の。あの時あなたは頭から丸かじりしたじゃない」
「タタリアで…?丸かじり…」
 リーフは首を傾げ、当時の記憶を探った。メイリスから手痛い攻撃をもらい、そのダメージを回復するために手近にいた人間を黒い炎で食らいついた。該当する記憶はそのあたりだ。

「…なんかうるさい奴がいたような気がするけど…もしかして…」
「そうそう!その人はコネで勇者になったらしいけど、今度のはどうかしらね?」
 メリッサは挨拶を始めた勇者一行を値踏みするような目で観察した。
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