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第九章
金の卵
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「そ…それは…『飛閃』!」
ハバキリ流『斬』の奥義の一つ、『飛閃』。刀身にこめた闘気を斬撃に乗せて放つ技である。サリアは三日ほど前の訓練の際に一度だけそれを披露したことがあった。
「ふ、ふふ…」
自分の門下生が予想以上の才能を秘めていたことに気づいたサリアは心を震わせた。彼女の方向に向き直したリエルは師範の妙な様子に対し、首を傾げた。
「アーランド」
サリアはおもむろにリエルの両肩を掴んだ。
「な、なんですか?」
「お前…私の道場を継ぐ気はないか?」
「はあ?」
突然の申し出にリエルは目を白黒させた。
「駄目に決まってんでしょ!あたし達は聖剣を直してペスタ王国に返すってクエストの途中なんだから!」
横から割って入ったビオラがサリアの腕を振りほどいた。
「むう…そうだったな」
サリアはどこか不服そうな表情で身を引いた。
「仕方ない…ロンブルの腹筋百回追加で手を打ってやるとしよう」
「なんでよ!あたし関係ないでしょうが!」
「あ…あの…それどころじゃ…」
ビオラとサリアのやり取りを横目に、リエルはエイノー達の方向に身体を向けた。剣を杖代わりにしてエイノーは足を震わせながら立ち上がっていた。その様子を見たサリアは表情を引き締め、無傷の左手に木刀を持たせた。
「お…おのれ…」
「まだ立ち上がるか。体力だけは一人前のようだな」
目を細めたサリアは左手に持った木刀をエイノーに向けた。
「だが、すでに勝負はついた。退かぬというならば、次はこいつらが加勢するぞ。無論、私もだ」
リエルの左に立つアズキは鞄から爆薬を取り出し、右に立つビオラは指の骨を鳴らし、エイノー達を威嚇していた。
「くそっ…引き上げるぞ!」
勝ち目がないと判断したエイノーはようやく起き上がった手下の猟兵達に声をかけ、そそくさと森の奥に消えていった。
「バーカ!おとといも来んなってんだ!」
敵の背中を見送りながらビオラは右手の親指を下に向け、サムズダウンした。
「…ふう」
一方、敵が去ったことを確認したリエルは木刀を下ろし、溜息をついた。
「まさかここまでやるとはな。正直、度肝を抜かれた気分だ」
苦笑したサリアは左手の木刀を下ろした。
「私は思わぬ金の卵を拾ってしまったのかもしれないな」
「そ、そんな!師範の教えの賜物ですよ!」
リエルはあたふたしながら答えた。
「そ、それより師範は左手でも剣を使えるんですか?」
「いや。私は右利きだ」
「え?じゃあ、さっき左手で構えたのは――」
「はったりだ」
「え?」
「は?」
サリアの断言に対し、リエルとビオラは目を丸くした。
「これも立派な戦術だ。自らに戦う力がなくとも相手にプレッシャーを与え、動揺させるだけでも十分な武器となる。無論、見破られた時の対策は必要だがな」
サリアは自らの戦術論を得意げに話した。
「ひと段落したら少し教えてやる。道場に戻るぞ」
「どんだけ教えたがんのよ…とんだ授業バカね」
「バカは余計だ」
「あいたっ!」
苦言を呈するビオラのおでこをサリアは木刀で小突いた。
ハバキリ流『斬』の奥義の一つ、『飛閃』。刀身にこめた闘気を斬撃に乗せて放つ技である。サリアは三日ほど前の訓練の際に一度だけそれを披露したことがあった。
「ふ、ふふ…」
自分の門下生が予想以上の才能を秘めていたことに気づいたサリアは心を震わせた。彼女の方向に向き直したリエルは師範の妙な様子に対し、首を傾げた。
「アーランド」
サリアはおもむろにリエルの両肩を掴んだ。
「な、なんですか?」
「お前…私の道場を継ぐ気はないか?」
「はあ?」
突然の申し出にリエルは目を白黒させた。
「駄目に決まってんでしょ!あたし達は聖剣を直してペスタ王国に返すってクエストの途中なんだから!」
横から割って入ったビオラがサリアの腕を振りほどいた。
「むう…そうだったな」
サリアはどこか不服そうな表情で身を引いた。
「仕方ない…ロンブルの腹筋百回追加で手を打ってやるとしよう」
「なんでよ!あたし関係ないでしょうが!」
「あ…あの…それどころじゃ…」
ビオラとサリアのやり取りを横目に、リエルはエイノー達の方向に身体を向けた。剣を杖代わりにしてエイノーは足を震わせながら立ち上がっていた。その様子を見たサリアは表情を引き締め、無傷の左手に木刀を持たせた。
「お…おのれ…」
「まだ立ち上がるか。体力だけは一人前のようだな」
目を細めたサリアは左手に持った木刀をエイノーに向けた。
「だが、すでに勝負はついた。退かぬというならば、次はこいつらが加勢するぞ。無論、私もだ」
リエルの左に立つアズキは鞄から爆薬を取り出し、右に立つビオラは指の骨を鳴らし、エイノー達を威嚇していた。
「くそっ…引き上げるぞ!」
勝ち目がないと判断したエイノーはようやく起き上がった手下の猟兵達に声をかけ、そそくさと森の奥に消えていった。
「バーカ!おとといも来んなってんだ!」
敵の背中を見送りながらビオラは右手の親指を下に向け、サムズダウンした。
「…ふう」
一方、敵が去ったことを確認したリエルは木刀を下ろし、溜息をついた。
「まさかここまでやるとはな。正直、度肝を抜かれた気分だ」
苦笑したサリアは左手の木刀を下ろした。
「私は思わぬ金の卵を拾ってしまったのかもしれないな」
「そ、そんな!師範の教えの賜物ですよ!」
リエルはあたふたしながら答えた。
「そ、それより師範は左手でも剣を使えるんですか?」
「いや。私は右利きだ」
「え?じゃあ、さっき左手で構えたのは――」
「はったりだ」
「え?」
「は?」
サリアの断言に対し、リエルとビオラは目を丸くした。
「これも立派な戦術だ。自らに戦う力がなくとも相手にプレッシャーを与え、動揺させるだけでも十分な武器となる。無論、見破られた時の対策は必要だがな」
サリアは自らの戦術論を得意げに話した。
「ひと段落したら少し教えてやる。道場に戻るぞ」
「どんだけ教えたがんのよ…とんだ授業バカね」
「バカは余計だ」
「あいたっ!」
苦言を呈するビオラのおでこをサリアは木刀で小突いた。
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