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第九章

目指すは勇者

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「それにしても、特にお前は根性あるな。他の二人とは大違いだ」
 木刀の素振りを熱心に続けるリエルを見て、サリアは思わず感心した。
「そりゃそうよ。そいつは勇者を目指しているんだからさ」
 スクワットを続けながらビオラが口をはさんできた。
「勇者…?」
 その単語に対し、サリアは眉をしかめた。
「は、はい…」
 素振りに集中するリエルは戸惑いながらも答えた。
 彼女が冒険者となる道を選んだ理由。それは幼い頃に祖母と一緒に読んだ勇者の物語をつづった絵本。その物語に描かれた勇ましき剣士が人々を救うために悪の魔王と戦う姿。それに心惹かれたリエルは将来、勇者になることを決意した。そのために何が必要か、何を身に着けるべきか懸命に学び、教会での勉学を終えるや否やリエルは冒険者のライセンスを取得した。そんな彼女を支えるためにビオラもまた後を追うように冒険者になったのだ。

「こいつ、一度やるって決めたらやるって聞かなくてさぁ…付き合わされるこっちの身にもなってほしいものよ…」
「ふむ…」
 スクワットのノルマを終え、肩で息をしながら話すビオラをよそに、サリアはリエルを見ながら顎に手を当てた。そして、おもむろにリエルの両手を掴み、強引に素振りを止めた。

「え?」
「…その様子だと、お遊びや不純な動機で勇者を目指しているわけではなさそうだな」
 鋭い目つきで自分をにらむサリアにリエルは思わずたじろいだ。

「……」
 何を言っても叩かれる。リエルはそんな圧力を感じた。

「…ならばわかっているな?勇者になることが、そして、勇者になってからがどれほど修羅の道なのかを…」
 
 その言葉を聞いたリエルは、ただ静かに頷いた。その様子を見たサリアはゆっくりと手を離した。

「勝手に止めてすまなかったな。続けろ」
「あ、はい」

 そう言われたリエルは素振りを再開した。

「お前達もだ。勇者を守るならばそれ相応の力を身につけろ!どんな意図があろうと、守れなければ意味がないからな」

 ビオラとアズキにそう強く指摘したサリアは玄関の戸を開け、外に出た。三人と一匹は呆気にとられながらその様子を見ていた。

「き、急にどうしたの…?」
「さあ…でも、勇者に対して何か思うところがあるみたいだけど…」
 サリアの急な反応に対して理解が追い付かないリエルはただ首を傾げることしかできなかった。

「勇者になることが修羅の道…か…」
「んなこと最初からわかってるつもりだけど…ねぇ?」
 ビオラは肩を竦めた。
 『勇者』の称号を得る方法は国によって異なる。リエル達が知っている方法はその中の一つ。Sランクの冒険者がエキョウ王国が年に一度実施する勇者国家試験に挑み、合格するというものである。実技試験。筆記試験。面接。いくつもの難関を越えた猛者のみが勇者の称号を得ることができるのだ。毎年、何十人ものSランクの冒険者が各地から挑戦に訪れるが、ここ数年、勇者の称号を得た者はいない。

「まあいいわ。訓練を続けましょ」
「はいはい」

 リエルから真面目に指摘されたビオラは渋々腹筋を始めた。
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