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第九章

試練

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「お前達…」
 サリアは自分の目の前に立つリエルの背中に目を奪われた。その隙にアズキはサリアの元へ駆け寄り、彼女の右腕と背中の治療を開始した。

「…ふっ」
 何かを思ったサリアは小さく笑った。
「ちょうどいい。アーランド。お前一人でそいつら全員を倒してみろ」
「え?」
「敵から目を反らすな!」
「は、はい!」
 突然の言葉に振り向こうとしたリエルをサリアは一喝した。
「案ずるな。今のお前ならばその程度の輩など恐れるに値しない。もっとも、まだ合格点はやれないだろうがな」
「なんだと?」
 腕の治療を受けながらも減らず口を叩くサリアに対し、エイノーは眉をしかめた。
「かまわねぇ!そのガキからぶちのめしてやれ!」
 エイノーは三人の手下に命じた。相手は少女一人。しかも得物は木刀。負ける道理などありはしない。彼はそう確信していた。

「リエル!」
「大丈夫!やれる!」
 心配そうに声をかけるビオラとは裏腹に、リエルは凛とした表情で敵に目を向けていた。

「おらぁ!」
 バンダナの猟兵が剣を振り上げ、思い切り斬りかかってきた。リエルはその斬撃の軌道を読み取り、わずかに身体を傾けて余裕で回避した。至近距離の間合い。リエルは腰をかがめ、左の肘を敵の鳩尾に打ち込んだ。

「おぐっ!」

 驚く間もなく猟兵は身体をくの字に曲げ、吹き飛んだ。リエルはさらに相手の身体に木刀を叩き付けた。

「ごはっ!」

 追い打ちをくらったバンダナの猟兵はそのまま地面に倒れこんだ。

「てめぇ!」

 スキンヘッドの猟兵がナイフを手にして襲い掛かってきた。リエルはすぐさまに敵の右手首に木刀を打ち込んだ。

「ぐっ!」

 その衝撃でナイフは手元を離れ、地面に落下した。その隙をリエルは見逃さない。足に力を入れ、一気に距離を詰めたリエルの肩から背中にかけての広い衝撃がスキンヘッドの身体に襲い掛かった。

「ぎゃあっ!」

 広範囲の質量攻撃を腰から上に喰らったスキンヘッドは勢いよく吹き飛ばされ、後ろの木にぶつかり、そのまま倒れこんだ。

「きええぇぇ!」

 奇声をあげながら顎髭の猟兵がリエルの背後から襲ってきた。リエルは動じることなく、振り向きながら相手の頭に蹴りを喰らわせた。

「あばっ!」

 顎髭はバランスを失い、先程倒されたバンダナの猟兵の上に倒れこんだ。その重さでバンダナはカエルのような悲鳴をあげた。

「す、すごい…」
「ヤベーなオイ」

 わずかな時間で三人を撃破する様子に対し、アズキとトニーは息を呑んだ。

「聖剣なしであそこまでやるのは初めて見たわ…」

 この中で最もリエルとの付き合いの長いビオラは唸りを上げた。

「私の見込んだ通りだな。アイツには剣術と体術の才がある。飲み込みも速い」
 そう言うサリアの表情はどこか得意げであった。
「そういえばあいつ、昔からチャンバラが好きだったわね。格闘技なんかあいつ、自分の兄貴のを見て覚えたみたいだし…」
 ビオラはリエルの幼い頃の様子を思い出していた。
 
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