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第九章

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「――というわけなの。お願い。許してあげて」
「なーるほどねぇ…」

 ようやく我に返ったビオラは畳の上で胡坐をかき、両腕を組んで唸っていた。

「…まぁ、あんなもの見せられちゃあ、信じるしかないわよね…」

 アズキが男であるという事実――その証拠を真正面から目撃したビオラはどこか複雑な表情で頷いた。なお、その衝撃が強すぎたせいか、自分の全裸を見られたという事実に関しては彼女の頭から完全に抜け落ちていた。

「…気づかなかったあたし達もあたし達だし…責めるつもりはないけど…」

 ビオラはアズキの方に目を向けた。リエルの隣に座るアズキは気まずそうに目を反らしていた。

「どうした?自分よりかわいい男で腹立つってか?」
「違うわい!」
 横から茶々を入れてきたトニーの頭にビオラはチョップをお見舞いした。

「騒がしいぞ。ご近所迷惑になるだろうが」
「あいたっ!」
 付近に家一つない道場の主はいつの間にかビオラの背後を取り、彼女の頭にチョップをお見舞いした。

「師範!」
「まだ休んでいなかったとは…枕投げでも始めるつもりだったか?」
「んなわけないでしょ…」
 頭を押さえながらビオラは振り向いた。
「話は聞かせてもらった。何やら大変だったようだな」
「話って…どこから聞いてたのよ?」 
「フランクフルトがどうのとか聞こえた辺りからだ」
 サリアは顔色一つ変えずに答えた。
「でも…驚かないんですか?」
「最初から妙だとは思っていた。身体の動かし方、肩幅、道着の隙間から見える筋肉の筋、女性のにしてはどこか違和感があったのでな」
「そ、そんなことがわかるんですか?」
 アズキの普段の衣装も三人が訓練中に着ていた道着も露出は決して多い方ではなかった。しかし、この師範はわずかな情報のみでそれを見抜いたのだ。
「人間の筋肉は一通り把握している」
「…とんだ筋肉フェチね」
 呆気にとられたビオラはボソッと呟いた。
「何か言ったか?」
「いーえ。何でもないっス」
 わずかに聞こえた言葉に反応し、振り向いたサリアに対してビオラは視線をそらしながら答えた。

「…ともあれ、戦場に赴く者に男も女もない。そういう考えで私はこれまで戦ってきた。お前達にはわかるはずだ」
 有無を言わせぬ言葉に対し、リエルは返す言葉がなかった。

「とにかく、こうなっては彼も温泉に入れるようにしなくてはな」
「へ?それって…?」
 何かの準備をするように右肩を回したサリアを見てビオラは小首を傾げた。

「今から男湯の掃除とお湯張りを行う。全員手伝え」
「…うそぉん…」

 拍子抜けした言葉を漏らすビオラをよそに、一行は掃除道具を用意して男湯の掃除に取り組んだ。
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