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第九章
お肉事情
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「いや~。今日の夕食も美味しかったわねぇ~」
魔王城の食堂、メイリスは満面の笑みでお茶を飲んでいた。
「…相変わらずよく食べるわね…」
向かいの席で静葉はあきれ顔で同じ種類のお茶を飲んでいた。
アンデッドであるメイリスは人間だった頃よりも新陳代謝が増幅した身体の維持のためにタンパク質を中心とした大量の栄養補給を必要としていた。ちなみに、今日の彼女の夕食はカルビ丼の大盛と豚汁であった。
「うふふ。魔王城だといつでも美味しいごはんにありつけるからねぇ。しかも、魔勇者様の配下という特権で割引してもらえるからなおさら嬉しいわ」
「特権?いつの間にそんな制度できたのよ?」
聞きなれない言葉に静葉は思わず目を丸くした。
「最初からよ。魔王様に契約書を提出した時に証明書を作ってもらったのよ。ほら」
メイリスは懐から一枚の書類を取り出した。
「…ホントだ。魔王もまめなことをするわね…」
「エイル君とマイカちゃんも持ってるわよ。食堂だけでなく、売店とかお風呂とかでも使えるんですって」
証明書を見せびらかしながらメイリスは説明した。ちなみに、先に夕食を終えたエイルとマイカは売店へ買い出しに向かっていた。
魔王軍に所属する魔族達は毎月の給料という形で収入を得ているが、魔勇者である静葉とその配下であるメイリス達はそれに加えて任務の後に魔王とその側近のゴードンから直接報酬を得ている。その額はかなりのものであり、元冒険者のメイリス、エイル、マイカの三人は『こんなにもらっていいの?』と声をそろえて驚いていた。
「こんなにお金に困らない生活ができるなんて…二百年前にも考えられなかったわ。思う存分お肉を堪能できるなんて最高ね!」
いい笑顔で騎士団に所属していた頃を思い出しながらメイリスは食後のおやつとして追加注文したから揚げ山盛りを一つつまんだ。
ちなみに静葉の場合、食事や入浴など最低限の用でしかお金を使用していないので、ゴードンから用意された専用の金庫の中に大量の貯蓄が保管されている。
「…ていうか、冒険者ってのをやってた時もそんなに食ってたの?」
ふと思った疑問を静葉はぶつけてみた。
「ん~そうね…ギルドの報酬はそんなに高くなかったわね。なんとかその中でやりくりしてたかしら」
首を傾げてメイリスは冒険者の頃を振り返った。一応、僧侶として一人で活動していた頃の彼女は討伐などの目立つクエストを回避していたため、Bランクの冒険者としては収入は大したものではなかった。
「街に入ったら安くてたくさん食べられるお店を真っ先に探したものだわ。あとは、外に行って食べられそうな動物類をかたっぱしから狩っていたわね」
「ワイルドねぇ…そのセクシーな見てくれからは全く想像つかないわ」
「あら。セクシーだなんて照れるわね」
「褒めてないわよ」
にっこり笑うメイリスに対し、静葉は冷静に返した。それを意に介さずメイリスは話を続けた。
「塩コショウさえあれば大抵は焼いて食べられるからね。池や川に行けば魚がいるし、場合によっては虫も食べたものだわ」
「虫…タンパク質は豊富だって聞いたことあるけど…」
静葉は露骨にドン引きした。
「そういえば、ビオラちゃんは外で採ったお肉も美味しく調理してくれたわね」
メイリスは唐突に以前の仲間の顔を思い浮かべた。
「ビオラ?」
「前のパーティーにいた魔法使いの女の子よ。ちょっと背が低くて口が悪いけど料理の腕前はかなりのものだったのよ」
「魔法使い…ああ!」
静葉はタタリア遺跡で一戦交えたパーティーの顔触れを思い出した。その中には確かに低身長でガラの悪い魔法使いの少女がいた。
「ま、さすがに虫は調理してくれなかったけどね」
「そりゃそうでしょうよ…」
静葉はビオラとやらがどんな表情でメイリスの無茶ぶりを拒否したかを容易に想像することが出来た。
「あの二人、今頃どうしているかしらね~。新しい仲間はできたかしら?」
以前の仲間に想いを馳せながらメイリスはから揚げをもう一つつまんだ。
「でもいいの?」
「ん?何が?」
から揚げを咀嚼しながらメイリスは首を傾げた。
「明日になったらそいつらを殺せとか言われるかもしれないのよ?手心でも加えるつもり?」
静葉は意地悪な質問を投げかけてみた。
「ふふ。その時はその時よ。あの二人はまだまだ強くなる。私達には負けないくらいにはね?」
メイリスは毅然と返した。
「大した自信ね。何か根拠があるの?」
「ううん。全然」
「なんだそりゃ」
魔王城の食堂、メイリスは満面の笑みでお茶を飲んでいた。
「…相変わらずよく食べるわね…」
向かいの席で静葉はあきれ顔で同じ種類のお茶を飲んでいた。
アンデッドであるメイリスは人間だった頃よりも新陳代謝が増幅した身体の維持のためにタンパク質を中心とした大量の栄養補給を必要としていた。ちなみに、今日の彼女の夕食はカルビ丼の大盛と豚汁であった。
「うふふ。魔王城だといつでも美味しいごはんにありつけるからねぇ。しかも、魔勇者様の配下という特権で割引してもらえるからなおさら嬉しいわ」
「特権?いつの間にそんな制度できたのよ?」
聞きなれない言葉に静葉は思わず目を丸くした。
「最初からよ。魔王様に契約書を提出した時に証明書を作ってもらったのよ。ほら」
メイリスは懐から一枚の書類を取り出した。
「…ホントだ。魔王もまめなことをするわね…」
「エイル君とマイカちゃんも持ってるわよ。食堂だけでなく、売店とかお風呂とかでも使えるんですって」
証明書を見せびらかしながらメイリスは説明した。ちなみに、先に夕食を終えたエイルとマイカは売店へ買い出しに向かっていた。
魔王軍に所属する魔族達は毎月の給料という形で収入を得ているが、魔勇者である静葉とその配下であるメイリス達はそれに加えて任務の後に魔王とその側近のゴードンから直接報酬を得ている。その額はかなりのものであり、元冒険者のメイリス、エイル、マイカの三人は『こんなにもらっていいの?』と声をそろえて驚いていた。
「こんなにお金に困らない生活ができるなんて…二百年前にも考えられなかったわ。思う存分お肉を堪能できるなんて最高ね!」
いい笑顔で騎士団に所属していた頃を思い出しながらメイリスは食後のおやつとして追加注文したから揚げ山盛りを一つつまんだ。
ちなみに静葉の場合、食事や入浴など最低限の用でしかお金を使用していないので、ゴードンから用意された専用の金庫の中に大量の貯蓄が保管されている。
「…ていうか、冒険者ってのをやってた時もそんなに食ってたの?」
ふと思った疑問を静葉はぶつけてみた。
「ん~そうね…ギルドの報酬はそんなに高くなかったわね。なんとかその中でやりくりしてたかしら」
首を傾げてメイリスは冒険者の頃を振り返った。一応、僧侶として一人で活動していた頃の彼女は討伐などの目立つクエストを回避していたため、Bランクの冒険者としては収入は大したものではなかった。
「街に入ったら安くてたくさん食べられるお店を真っ先に探したものだわ。あとは、外に行って食べられそうな動物類をかたっぱしから狩っていたわね」
「ワイルドねぇ…そのセクシーな見てくれからは全く想像つかないわ」
「あら。セクシーだなんて照れるわね」
「褒めてないわよ」
にっこり笑うメイリスに対し、静葉は冷静に返した。それを意に介さずメイリスは話を続けた。
「塩コショウさえあれば大抵は焼いて食べられるからね。池や川に行けば魚がいるし、場合によっては虫も食べたものだわ」
「虫…タンパク質は豊富だって聞いたことあるけど…」
静葉は露骨にドン引きした。
「そういえば、ビオラちゃんは外で採ったお肉も美味しく調理してくれたわね」
メイリスは唐突に以前の仲間の顔を思い浮かべた。
「ビオラ?」
「前のパーティーにいた魔法使いの女の子よ。ちょっと背が低くて口が悪いけど料理の腕前はかなりのものだったのよ」
「魔法使い…ああ!」
静葉はタタリア遺跡で一戦交えたパーティーの顔触れを思い出した。その中には確かに低身長でガラの悪い魔法使いの少女がいた。
「ま、さすがに虫は調理してくれなかったけどね」
「そりゃそうでしょうよ…」
静葉はビオラとやらがどんな表情でメイリスの無茶ぶりを拒否したかを容易に想像することが出来た。
「あの二人、今頃どうしているかしらね~。新しい仲間はできたかしら?」
以前の仲間に想いを馳せながらメイリスはから揚げをもう一つつまんだ。
「でもいいの?」
「ん?何が?」
から揚げを咀嚼しながらメイリスは首を傾げた。
「明日になったらそいつらを殺せとか言われるかもしれないのよ?手心でも加えるつもり?」
静葉は意地悪な質問を投げかけてみた。
「ふふ。その時はその時よ。あの二人はまだまだ強くなる。私達には負けないくらいにはね?」
メイリスは毅然と返した。
「大した自信ね。何か根拠があるの?」
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「なんだそりゃ」
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