165 / 261
第九章
そこについていたのは
しおりを挟む
「あ、そうだ。そろそろ温泉に行ってみようか」
とりとめのない話をしばらく続けていたリエルは思い出したかのように自分達の鞄を見た。
「そうね――ってアズキは?」
鞄から入浴道具を取り出そうとしたビオラはアズキが部屋にいないことに気づいた。
「あれ?いつの間に?」
「先に温泉とやらに行ったんじゃね?」
部屋の隅に転がっているトニーが声をかけた。
「どうやらそうみたいね」
鞄の中を改めたビオラはアズキの分の入浴道具がないことを確認した。
「そういえば、みんなでお風呂に入るのってこれが初めてかもね」
「そうね。今までは一人用の風呂かシャワーだけだったからね」
二人はエキョウでアズキと出会ってからの道中を振り返った。
「メイリスさんと旅していた時もそういうのはなかったし、ちょっと楽しみね」
内心ウキウキしながらリエルは自分の入浴道具を用意した。
「ま、今日はあんだけ身体張ったんだし、ご褒美と思って入りましょか」
子供のように目を輝かせているリエルに苦笑しながらビオラは自分の入浴道具を手に取った。
「よし、行くか」
「アンタはお留守番!」
意気込んで部屋を出ようとしたトニーの顔をわしづかみし、ビオラはにべもなく阻んだ。
「プギャー」
――――
「ここね」
客室からしばらく廊下を歩き、台所の隣に温泉を表す記号が描かれた赤い暖簾がかけられた扉を見つけることが出来た。
「隣は男湯かしら…?」
隣には同じ記号が描かれた青い暖簾がかけられた扉があったが、使われている様子がなかった。
「今まで師範しかいなかったから使っていないんじゃない?」
扉を開き、暖簾をくぐると、そこには広めの脱衣所であった。エキョウの冒険者ギルド本部に併設されている大浴場のものほどきれいではないが、脱衣籠、洗面化粧台、体重計と一通り用意されていた。
「あ。やっぱり入ってるみたい」
脱衣籠の一つにアズキの衣服が入っていた。
「もーアズキってば!一番風呂狙うなんてずるいわよー」
ぼやきながらビオラは軽快に服を脱ぎ、乱雑に脱衣籠に放り込んだ。
「何ぼーっとしてんのよ!早く入るわよ!」
「あ、うん…」
あまりにも速い脱衣にリエルは思わず手を止めていた。返事をする頃にはすでにビオラは浴室への扉を開いていた。
「アズキー!あたし達も入るわ…よ…?」
ビオラは真正面にアズキの姿をしっかりと捉えた。湯舟から上がったばかりのその身体は色白で胸は女子にしてはあまりにも平坦。そこそこがっしりした肩と腰。そして、その股間には女性には絶対に持ちえないものが存在していた。
ビオラと対面したアズキは彼女の視線がそれに定まっているという事実に気づくまで数秒かかった。そして――
「い……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
道場全体にアズキの悲鳴が響き渡った。
「な、何?どうしたの?」
身体にバスタオルを巻き終えた直後、悲鳴を耳にしたリエルは急いでビオラのもとに駆け付けた。
「あ…あががが…」
信じられない事実に直面したビオラは言葉を失い、全裸で直立していた。
「ビオラ?何があったの?ねぇ?」
問いかけに応じられない状態だと判断したリエルはアズキに尋ねようと浴室に目を向けた。当の本人はその場にうずくまり、自分の身体を隠していた。
「あ、アズキ?どうしたの?」
「み…見ないでくださいぃぃぃぃーーーーーー!」
顔を真っ赤にしたアズキはすごい勢いでリエルの横を通り抜け、身体を拭く、着替えるという退浴のプロセスを目にも止まらぬ速さで終えて廊下へ出て行った。リエルはその素早さに呆気にとられ、見ていることしかできなかった。
「な…何なの一体…?」
とりとめのない話をしばらく続けていたリエルは思い出したかのように自分達の鞄を見た。
「そうね――ってアズキは?」
鞄から入浴道具を取り出そうとしたビオラはアズキが部屋にいないことに気づいた。
「あれ?いつの間に?」
「先に温泉とやらに行ったんじゃね?」
部屋の隅に転がっているトニーが声をかけた。
「どうやらそうみたいね」
鞄の中を改めたビオラはアズキの分の入浴道具がないことを確認した。
「そういえば、みんなでお風呂に入るのってこれが初めてかもね」
「そうね。今までは一人用の風呂かシャワーだけだったからね」
二人はエキョウでアズキと出会ってからの道中を振り返った。
「メイリスさんと旅していた時もそういうのはなかったし、ちょっと楽しみね」
内心ウキウキしながらリエルは自分の入浴道具を用意した。
「ま、今日はあんだけ身体張ったんだし、ご褒美と思って入りましょか」
子供のように目を輝かせているリエルに苦笑しながらビオラは自分の入浴道具を手に取った。
「よし、行くか」
「アンタはお留守番!」
意気込んで部屋を出ようとしたトニーの顔をわしづかみし、ビオラはにべもなく阻んだ。
「プギャー」
――――
「ここね」
客室からしばらく廊下を歩き、台所の隣に温泉を表す記号が描かれた赤い暖簾がかけられた扉を見つけることが出来た。
「隣は男湯かしら…?」
隣には同じ記号が描かれた青い暖簾がかけられた扉があったが、使われている様子がなかった。
「今まで師範しかいなかったから使っていないんじゃない?」
扉を開き、暖簾をくぐると、そこには広めの脱衣所であった。エキョウの冒険者ギルド本部に併設されている大浴場のものほどきれいではないが、脱衣籠、洗面化粧台、体重計と一通り用意されていた。
「あ。やっぱり入ってるみたい」
脱衣籠の一つにアズキの衣服が入っていた。
「もーアズキってば!一番風呂狙うなんてずるいわよー」
ぼやきながらビオラは軽快に服を脱ぎ、乱雑に脱衣籠に放り込んだ。
「何ぼーっとしてんのよ!早く入るわよ!」
「あ、うん…」
あまりにも速い脱衣にリエルは思わず手を止めていた。返事をする頃にはすでにビオラは浴室への扉を開いていた。
「アズキー!あたし達も入るわ…よ…?」
ビオラは真正面にアズキの姿をしっかりと捉えた。湯舟から上がったばかりのその身体は色白で胸は女子にしてはあまりにも平坦。そこそこがっしりした肩と腰。そして、その股間には女性には絶対に持ちえないものが存在していた。
ビオラと対面したアズキは彼女の視線がそれに定まっているという事実に気づくまで数秒かかった。そして――
「い……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
道場全体にアズキの悲鳴が響き渡った。
「な、何?どうしたの?」
身体にバスタオルを巻き終えた直後、悲鳴を耳にしたリエルは急いでビオラのもとに駆け付けた。
「あ…あががが…」
信じられない事実に直面したビオラは言葉を失い、全裸で直立していた。
「ビオラ?何があったの?ねぇ?」
問いかけに応じられない状態だと判断したリエルはアズキに尋ねようと浴室に目を向けた。当の本人はその場にうずくまり、自分の身体を隠していた。
「あ、アズキ?どうしたの?」
「み…見ないでくださいぃぃぃぃーーーーーー!」
顔を真っ赤にしたアズキはすごい勢いでリエルの横を通り抜け、身体を拭く、着替えるという退浴のプロセスを目にも止まらぬ速さで終えて廊下へ出て行った。リエルはその素早さに呆気にとられ、見ていることしかできなかった。
「な…何なの一体…?」
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。


これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる