異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第八章

言えるかな?

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「あっはっはっは!それは災難だったわねぇ!」
「笑いごとじゃないわよ全く!下手すりゃ上半身と下半身がお別れしてたのよ?」

 一直線に続く通路の中、メイリスの笑い声と静葉の怒号が響いた。
 地下に生息していた巨大ザリガニ――ランブスターを魔人の力で撃破した静葉はメイリスが用意していたロープを使ってどうにか地下から脱出することが出来た。地下での出来事をメイリスとコノハに報告した静葉は一度マイカとエイルの二人組と合流するためにあらかじめ設置しておいた魔力ビーコンのある地点まで引き上げることにした。
『それにしてもあれだね。こんなぼろい遺跡の中で重力魔法なんて使うもんじゃないってことがわかったね』
「そいつは同感ね。使った奴の顔に一発喰らわせたい気分だわ」
 もらったコッペパンをかじりながら静葉はコノハの話に同意した。ちなみにコッペパンには粒あんがぎっしり詰まっていた。

「ところでさ…さっき誰かに『バリア』を使っていたけどあれは何?」
 気になる点を一つ思い出した静葉はメイリスに尋ねた。
「ああ、あれね。かわいい勇者の卵が困っていたものでね」
「卵?」
 メイリスの言葉の意味を静葉が理解することが出来なかった。
「ごめんね。もう少し早ければあなたにもかけてあげたんだけど…」
 苦笑しながらメイリスは謝罪した。
「別に気にしちゃいないわよ。あの状況じゃどっちにしろ地下に落とされていたでしょうしね」
 そう答えながら静葉は最後の一口のパンを口に放り込んだ。
『お!どうやらあちらさんの方が早かったみたいだね』
 角を曲がり、ビーコンの地点に目を向けるとすでにマイカとエイルが大きな荷物を下ろして待機していた。

「あ!来た来た!おーい!」

 静葉達を視認したマイカは大きく手を振った。それを見たメイリスも大きく手を振り返した。
「ごめんねー遅くなっちゃって!無事だった?」
「平気平気!そっちはどう?何か収穫はあった?」
「まぁね。結構なレアアイテムがいくつかあったわよ」
 そう言いながら静葉は背中の藍色のサックを親指で指した。
「あら。オシャレなサックね。それがレアアイテム?」
「そうよ。こんな感じでね」
 メイリスは静葉の背中のサックに手を突っ込み、中から長い槍を取り出した。
「うわ!ど、どうやって入れたんですか?」
 手品のような光景を見てエイルは驚きの声をあげた。
「なんか空属性だかなんかの魔法が中に付与されててなんかこういうことができる魔法のサックよ」
 静葉は大雑把に説明した。
「ていうか、いつの間に槍なんか入れたのよ?」
「移動中にちょっとね。気づくかなーと思ったんだけどね」
「集団登校中の小学生かよ」
 そうツッコまれながらメイリスは槍をサックの中に戻した。
「…で、そっちはなんかあった?」

 合流した四人と一体はお互いの身にあった出来事を報告した。

「なるほど…皆変なのにからまれたってことね」
「…まぁね」
 エイルの心情を察したマイカはあまり多く語らなかった。
「私も怪しい奴に襲われたんだけどねぇ…残念ながら取り逃がしちゃったわ」
 そう言いながらメイリスは懐から取り出した敵の右手首を静葉に見せびらかした。
「ちょ…!なんちゅうもん持ってきてんのよ!」
「いやぁ、手ぶらで来るのもあれかなと思ってね。だけにね」
「しょーもな!」
『まあまあ。これで敵の正体がわかるかもしれないしさ。僕にとってはいい収穫だよ』
「そうそう!後でゆっくり解析してもらいましょ」
 そう言ってメイリスは手首を静葉の背中のサックに突っ込んだ。
「おい!勝手に入れるな!」
「大丈夫よ。他の荷物が汚れないよう切り口には包帯を巻いてあるから」
「そういう問題じゃないっての!」

 そんな彼女達のやり取りをぼーっと見ていたエイルだったが、突然脇腹を突っつかれて横を向いた。そこには肘を出し、何か言いたげな表情で彼を見つめるマイカがいた。

「な、何?」
「ほら。言ってやんなさいよ」
 マイカは二人にだけ聞こえる程度の小声で話しかけてきた。
「え?」
「さっき言ったでしょ?どんどんアタックしろって!」
「こ、このタイミングで?」
「そうよ!いつもいっしょにいるとは限らないんだから、チャンスがあるうちに行きなさい!」
「で、でも…」
「いいから!いつまでもそんな暗い顔してないで行きなさいっての!」
「うわ!ちょ、ちょっと!」
 あたふたするエイルの背中をマイカは強引に押し出し、静葉の前に動かした。

「うお!な、何よ急に?」
 突然前に出てきたエイルの姿に静葉は驚いた。

「あ…あの…シ、シズハさん…」
 エイルは頬を赤く染め、言葉を詰まらせた。急に前に出されたこともあり、何を話せばいいか全く思いつかなかった。

「ほら!頑張って!」
 マイカは躊躇するエイルの背中を杖でツンツンと小突いた。

「あらあらあら?」
『何か面白いことが起きそうだね。これは』
 メイリスとコノハはニヤニヤしながら事の成り行きを見守っていた。

「あの…その…えっと…」
「何よ?私何かした?」
 もじもじしながらこちらをじっと見つめるエイルに対し、静葉は首を傾げた。

「あの…す…す…」

 エイルは静葉の目を見つめたまま、左腕に着けた盾の裏に右手を入れて何かを手に取り、静葉の前に差し出した。

「す…スイカ飴舐めます?」

 盾の裏から取り出したのは包装された一粒の飴玉であった。

 まさかのプレゼントに静葉はきょとんとしていた。

「アメちゃんって…大阪のおばちゃんかよ。まあ、ありがとね」
 そう言いながら静葉は飴玉を受け取った。彼女の横でメイリスとコノハが必死に笑いをこらえていた。

「ちょっと!ちょっと!なんで飴玉なのよ!てか、どこに入れてんのよ!」
 マイカはエイルの腕を引っ張り、彼の耳を思いきりつねった。
「いだだだだだ!だ、だって、何話せばいいか思いつかなかったし…さっきプレゼントでもいいって言ってたじゃないか」
「だからって飴はないでしょう!女の子がそんなんもらってなんで喜ぶと思ったのよ!」

「…何あれ?人が身体張ってる間にラブコメでもしてた?」
 もらった飴玉を口の中で転がしながら静葉は二人のいざこざを眺めていた。
「さあ、どうかしらねぇ?これはこれで面白いけど…うぷぷ」
 静葉の疑問にメイリスは笑いをこらえながら答えた。
『ぶふふ。いやぁーいいもの見た見た。これまたいいデータが採れたよ』
「…なんか知らないけど採るな」
 釈然としない気持ちのまま静葉は赤いマフラーでツッコミを入れた。
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