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第八章
巨大ボス
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「いったぁ…お尻が縦に割れるかと思ったわよ…」
突然の崩落に巻き込まれ、つまらない冗談を一人呟きながら私はゆっくりと立ち上がった。地上の光はここにはほとんど届くことなく、魔王の力の影響による夜目をもってしても周囲はあまり見えない。左手に黒い炎を灯してどうにか近くが見える程度だ。
「かなりの高さみたい…今年受験じゃなくてラッキーだったわ」
学生ジョークを呟きながら私は頭上を見上げた。もっとも、私一人だけ地下に落とされたのはラッキーじゃないけどさ。
「メイリス!コノハ!」
暗闇の中に大声で呼びかけてみた。やはり返事は届かない。声の響きからみるにどうやら広い空間のようだ。せめてどこに二人がいるかだけでも把握したいのだが…。
「…くそっ!あのジャミングが仇になるなんて!」
妨害魔法の範囲外に出てしまったせいかメイリスとコノハの魔力をうまく捕捉できない。ただでさえ、アンデッドとあのたまっころの魔力は捉えづらいってのに。
「せめて、あのビーコンを…ん?」
正面に何かの魔力を感じる。人や魔族にしてはでかすぎる。明らかに魔物だ。バシャバシャと水の音が聞こえることから察するにここは地底湖か何かであろう。
「何か来る…!」
巨大な魔力がどんどん近づいてくる。RPGならばボス戦の前触れだ。私は双剣を構え、刃に黒い炎を宿らせた。
「…こいつは…!」
夜目で暗視した私は思わず息を呑んだ。暗視ではさすがに色はわからないが、本来の何十倍もの大きさの巨体のザリガニっぽい魔物がこちらを捉えていた。全身を覆う殻には何者も触れることを許さないかのような棘が何本も生えており、挟んだ物は岩石すらも容易く切断するような巨大なハサミをカチカチと鳴らしている。暗闇でも私が見えているのか不気味に輝く二つの目は明らかにこちらを捉えていた。
「…話し合いなんか通じるわけないわよね…」
魔物でも野生のものは魔族に対しても容赦なく襲い掛かってくる。別におかしい話ではない。普通の動物だって野生のものは人間に襲い掛かってくる奴もいるしね。さしずめこいつは自分の縄張りを守るために私を排除しようとしているのだろう。
「…ったく!こんな所でボス戦だなんて!」
そう毒づいたところに巨大なハサミが頭上から襲い掛かってきた。
「うお!」
横に飛びのいて私は先制攻撃を回避した。そのまま私はハサミに向けて右手の剣を突き立てた。
「…やっぱり固いわね」
剣はあっさりと砕け散った。まぁ当然よね。水圧や外敵から身を守るための分厚い殻がそう簡単に破れるわけなどない。
「ここはひとつ、距離を取って…」
あのハサミの間合いにいるのは危険。そう考えた私は大きく後退した。
「くそっ。コノハがいれば名前とか弱点とかわかったかもしれないのに!」
とにかく、黒い炎で牽制しながら隙を窺う。と、考えていると相手は右のハサミを私に向け、ゆっくりと開いていた。
「…んなっ!」
ハサミの付け根あたりに空いた穴から勢いよく水が噴射された。消防車の放水を彷彿させるものすごい水圧だ。どうにか直撃を避けることはできたが、凄まじい水圧は私の右肩に銃弾が掠めたかのような傷跡を残した。防御のために赤いマフラーが振りかぶった獄炎剣もあっけなく弾き飛ばされてしまった。
「ちょ…鉄砲魚みたいなこともできんの?」
まったく、ファンタジー世界の魔物ってヤツはどうしてこうも変な技を使えるのかしら。しかもよりによって水属性の技ときた。こちらの黒い炎とは相性が悪い。タタリア遺跡での苦い記憶がよみがえる。
とか考えている間に敵のザリガニは第二射を放ってきた。今度はどうにか回避できた。この調子で一気に距離を詰めれば――
「ぐはっ!」
うかつだった。今の水鉄砲はおとり。回避の隙をついて私をハサミで捕獲したのだ。なんてこざかしいザリガニなのかしら!おかげで大ピンチだ!
突然の崩落に巻き込まれ、つまらない冗談を一人呟きながら私はゆっくりと立ち上がった。地上の光はここにはほとんど届くことなく、魔王の力の影響による夜目をもってしても周囲はあまり見えない。左手に黒い炎を灯してどうにか近くが見える程度だ。
「かなりの高さみたい…今年受験じゃなくてラッキーだったわ」
学生ジョークを呟きながら私は頭上を見上げた。もっとも、私一人だけ地下に落とされたのはラッキーじゃないけどさ。
「メイリス!コノハ!」
暗闇の中に大声で呼びかけてみた。やはり返事は届かない。声の響きからみるにどうやら広い空間のようだ。せめてどこに二人がいるかだけでも把握したいのだが…。
「…くそっ!あのジャミングが仇になるなんて!」
妨害魔法の範囲外に出てしまったせいかメイリスとコノハの魔力をうまく捕捉できない。ただでさえ、アンデッドとあのたまっころの魔力は捉えづらいってのに。
「せめて、あのビーコンを…ん?」
正面に何かの魔力を感じる。人や魔族にしてはでかすぎる。明らかに魔物だ。バシャバシャと水の音が聞こえることから察するにここは地底湖か何かであろう。
「何か来る…!」
巨大な魔力がどんどん近づいてくる。RPGならばボス戦の前触れだ。私は双剣を構え、刃に黒い炎を宿らせた。
「…こいつは…!」
夜目で暗視した私は思わず息を呑んだ。暗視ではさすがに色はわからないが、本来の何十倍もの大きさの巨体のザリガニっぽい魔物がこちらを捉えていた。全身を覆う殻には何者も触れることを許さないかのような棘が何本も生えており、挟んだ物は岩石すらも容易く切断するような巨大なハサミをカチカチと鳴らしている。暗闇でも私が見えているのか不気味に輝く二つの目は明らかにこちらを捉えていた。
「…話し合いなんか通じるわけないわよね…」
魔物でも野生のものは魔族に対しても容赦なく襲い掛かってくる。別におかしい話ではない。普通の動物だって野生のものは人間に襲い掛かってくる奴もいるしね。さしずめこいつは自分の縄張りを守るために私を排除しようとしているのだろう。
「…ったく!こんな所でボス戦だなんて!」
そう毒づいたところに巨大なハサミが頭上から襲い掛かってきた。
「うお!」
横に飛びのいて私は先制攻撃を回避した。そのまま私はハサミに向けて右手の剣を突き立てた。
「…やっぱり固いわね」
剣はあっさりと砕け散った。まぁ当然よね。水圧や外敵から身を守るための分厚い殻がそう簡単に破れるわけなどない。
「ここはひとつ、距離を取って…」
あのハサミの間合いにいるのは危険。そう考えた私は大きく後退した。
「くそっ。コノハがいれば名前とか弱点とかわかったかもしれないのに!」
とにかく、黒い炎で牽制しながら隙を窺う。と、考えていると相手は右のハサミを私に向け、ゆっくりと開いていた。
「…んなっ!」
ハサミの付け根あたりに空いた穴から勢いよく水が噴射された。消防車の放水を彷彿させるものすごい水圧だ。どうにか直撃を避けることはできたが、凄まじい水圧は私の右肩に銃弾が掠めたかのような傷跡を残した。防御のために赤いマフラーが振りかぶった獄炎剣もあっけなく弾き飛ばされてしまった。
「ちょ…鉄砲魚みたいなこともできんの?」
まったく、ファンタジー世界の魔物ってヤツはどうしてこうも変な技を使えるのかしら。しかもよりによって水属性の技ときた。こちらの黒い炎とは相性が悪い。タタリア遺跡での苦い記憶がよみがえる。
とか考えている間に敵のザリガニは第二射を放ってきた。今度はどうにか回避できた。この調子で一気に距離を詰めれば――
「ぐはっ!」
うかつだった。今の水鉄砲はおとり。回避の隙をついて私をハサミで捕獲したのだ。なんてこざかしいザリガニなのかしら!おかげで大ピンチだ!
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