141 / 261
第八章
巨大ボス
しおりを挟む
「いったぁ…お尻が縦に割れるかと思ったわよ…」
突然の崩落に巻き込まれ、つまらない冗談を一人呟きながら私はゆっくりと立ち上がった。地上の光はここにはほとんど届くことなく、魔王の力の影響による夜目をもってしても周囲はあまり見えない。左手に黒い炎を灯してどうにか近くが見える程度だ。
「かなりの高さみたい…今年受験じゃなくてラッキーだったわ」
学生ジョークを呟きながら私は頭上を見上げた。もっとも、私一人だけ地下に落とされたのはラッキーじゃないけどさ。
「メイリス!コノハ!」
暗闇の中に大声で呼びかけてみた。やはり返事は届かない。声の響きからみるにどうやら広い空間のようだ。せめてどこに二人がいるかだけでも把握したいのだが…。
「…くそっ!あのジャミングが仇になるなんて!」
妨害魔法の範囲外に出てしまったせいかメイリスとコノハの魔力をうまく捕捉できない。ただでさえ、アンデッドとあのたまっころの魔力は捉えづらいってのに。
「せめて、あのビーコンを…ん?」
正面に何かの魔力を感じる。人や魔族にしてはでかすぎる。明らかに魔物だ。バシャバシャと水の音が聞こえることから察するにここは地底湖か何かであろう。
「何か来る…!」
巨大な魔力がどんどん近づいてくる。RPGならばボス戦の前触れだ。私は双剣を構え、刃に黒い炎を宿らせた。
「…こいつは…!」
夜目で暗視した私は思わず息を呑んだ。暗視ではさすがに色はわからないが、本来の何十倍もの大きさの巨体のザリガニっぽい魔物がこちらを捉えていた。全身を覆う殻には何者も触れることを許さないかのような棘が何本も生えており、挟んだ物は岩石すらも容易く切断するような巨大なハサミをカチカチと鳴らしている。暗闇でも私が見えているのか不気味に輝く二つの目は明らかにこちらを捉えていた。
「…話し合いなんか通じるわけないわよね…」
魔物でも野生のものは魔族に対しても容赦なく襲い掛かってくる。別におかしい話ではない。普通の動物だって野生のものは人間に襲い掛かってくる奴もいるしね。さしずめこいつは自分の縄張りを守るために私を排除しようとしているのだろう。
「…ったく!こんな所でボス戦だなんて!」
そう毒づいたところに巨大なハサミが頭上から襲い掛かってきた。
「うお!」
横に飛びのいて私は先制攻撃を回避した。そのまま私はハサミに向けて右手の剣を突き立てた。
「…やっぱり固いわね」
剣はあっさりと砕け散った。まぁ当然よね。水圧や外敵から身を守るための分厚い殻がそう簡単に破れるわけなどない。
「ここはひとつ、距離を取って…」
あのハサミの間合いにいるのは危険。そう考えた私は大きく後退した。
「くそっ。コノハがいれば名前とか弱点とかわかったかもしれないのに!」
とにかく、黒い炎で牽制しながら隙を窺う。と、考えていると相手は右のハサミを私に向け、ゆっくりと開いていた。
「…んなっ!」
ハサミの付け根あたりに空いた穴から勢いよく水が噴射された。消防車の放水を彷彿させるものすごい水圧だ。どうにか直撃を避けることはできたが、凄まじい水圧は私の右肩に銃弾が掠めたかのような傷跡を残した。防御のために赤いマフラーが振りかぶった獄炎剣もあっけなく弾き飛ばされてしまった。
「ちょ…鉄砲魚みたいなこともできんの?」
まったく、ファンタジー世界の魔物ってヤツはどうしてこうも変な技を使えるのかしら。しかもよりによって水属性の技ときた。こちらの黒い炎とは相性が悪い。タタリア遺跡での苦い記憶がよみがえる。
とか考えている間に敵のザリガニは第二射を放ってきた。今度はどうにか回避できた。この調子で一気に距離を詰めれば――
「ぐはっ!」
うかつだった。今の水鉄砲はおとり。回避の隙をついて私をハサミで捕獲したのだ。なんてこざかしいザリガニなのかしら!おかげで大ピンチだ!
突然の崩落に巻き込まれ、つまらない冗談を一人呟きながら私はゆっくりと立ち上がった。地上の光はここにはほとんど届くことなく、魔王の力の影響による夜目をもってしても周囲はあまり見えない。左手に黒い炎を灯してどうにか近くが見える程度だ。
「かなりの高さみたい…今年受験じゃなくてラッキーだったわ」
学生ジョークを呟きながら私は頭上を見上げた。もっとも、私一人だけ地下に落とされたのはラッキーじゃないけどさ。
「メイリス!コノハ!」
暗闇の中に大声で呼びかけてみた。やはり返事は届かない。声の響きからみるにどうやら広い空間のようだ。せめてどこに二人がいるかだけでも把握したいのだが…。
「…くそっ!あのジャミングが仇になるなんて!」
妨害魔法の範囲外に出てしまったせいかメイリスとコノハの魔力をうまく捕捉できない。ただでさえ、アンデッドとあのたまっころの魔力は捉えづらいってのに。
「せめて、あのビーコンを…ん?」
正面に何かの魔力を感じる。人や魔族にしてはでかすぎる。明らかに魔物だ。バシャバシャと水の音が聞こえることから察するにここは地底湖か何かであろう。
「何か来る…!」
巨大な魔力がどんどん近づいてくる。RPGならばボス戦の前触れだ。私は双剣を構え、刃に黒い炎を宿らせた。
「…こいつは…!」
夜目で暗視した私は思わず息を呑んだ。暗視ではさすがに色はわからないが、本来の何十倍もの大きさの巨体のザリガニっぽい魔物がこちらを捉えていた。全身を覆う殻には何者も触れることを許さないかのような棘が何本も生えており、挟んだ物は岩石すらも容易く切断するような巨大なハサミをカチカチと鳴らしている。暗闇でも私が見えているのか不気味に輝く二つの目は明らかにこちらを捉えていた。
「…話し合いなんか通じるわけないわよね…」
魔物でも野生のものは魔族に対しても容赦なく襲い掛かってくる。別におかしい話ではない。普通の動物だって野生のものは人間に襲い掛かってくる奴もいるしね。さしずめこいつは自分の縄張りを守るために私を排除しようとしているのだろう。
「…ったく!こんな所でボス戦だなんて!」
そう毒づいたところに巨大なハサミが頭上から襲い掛かってきた。
「うお!」
横に飛びのいて私は先制攻撃を回避した。そのまま私はハサミに向けて右手の剣を突き立てた。
「…やっぱり固いわね」
剣はあっさりと砕け散った。まぁ当然よね。水圧や外敵から身を守るための分厚い殻がそう簡単に破れるわけなどない。
「ここはひとつ、距離を取って…」
あのハサミの間合いにいるのは危険。そう考えた私は大きく後退した。
「くそっ。コノハがいれば名前とか弱点とかわかったかもしれないのに!」
とにかく、黒い炎で牽制しながら隙を窺う。と、考えていると相手は右のハサミを私に向け、ゆっくりと開いていた。
「…んなっ!」
ハサミの付け根あたりに空いた穴から勢いよく水が噴射された。消防車の放水を彷彿させるものすごい水圧だ。どうにか直撃を避けることはできたが、凄まじい水圧は私の右肩に銃弾が掠めたかのような傷跡を残した。防御のために赤いマフラーが振りかぶった獄炎剣もあっけなく弾き飛ばされてしまった。
「ちょ…鉄砲魚みたいなこともできんの?」
まったく、ファンタジー世界の魔物ってヤツはどうしてこうも変な技を使えるのかしら。しかもよりによって水属性の技ときた。こちらの黒い炎とは相性が悪い。タタリア遺跡での苦い記憶がよみがえる。
とか考えている間に敵のザリガニは第二射を放ってきた。今度はどうにか回避できた。この調子で一気に距離を詰めれば――
「ぐはっ!」
うかつだった。今の水鉄砲はおとり。回避の隙をついて私をハサミで捕獲したのだ。なんてこざかしいザリガニなのかしら!おかげで大ピンチだ!
0
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説
月が導く異世界道中
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
漫遊編始めました。
外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく
霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。
だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。
どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。
でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~
芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。
駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。
だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。
彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。
経験値も金にもならないこのダンジョン。
しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。
――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる