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第八章
滑りながら観察
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「あら。もう始まっちゃってるわね」
角度のきつい傾斜を滑り落ちながらメイリスは目的地のふもとに目を向けた。魔勇者が先陣を切ったことが功を奏し、道中には障害物らしい障害物は一切ない。そのため、このようによそ見をする余裕が生まれたのだ。彼女は目的地で一足先に戦闘を開始している魔勇者――静葉の動きを捉えていた。
『予測よりも敵の数が多かったみたいだね。魔勇者様を先によこして正解だったよ』
メイリスの背後からフロートアイが声をかけてきた。悪魔の羽とタヌキの尻尾を生やした紫水晶の球は彼女に並走するように横に移動し、速度を合わせて飛行している。
「あの山賊達は…マリーカ地方から来たのかしら?」
『そうみたいだね。データによると、彼らはマリーカ地方で幅を利かせている悪徳商人、ジェレミィ・マイッツァーが雇った山賊集団だよ』
「へぇ」
コノハは遺跡の入り口でたむろしていた山賊達について解説を始めた。メイリスの視点にはその山賊の一人が魔勇者によって両腕を切断され、喉を剣で貫かれる様子が映っていた。
『そのジェレミィってのがなかなかしたたかな商人らしくてね。自分を襲った山賊達を口八丁手八丁で丸め込んでそのまま買収して自分のボディーガードにしてしまうくらいさ』
「そこまで知ってるの?魔王軍の情報網ってすごいわね」
ファイン大陸の一地方の商人の詳細を把握する魔王軍に対し、メイリスは素直に感心した。彼女の視点には空中に飛び上がった魔勇者がばらまいた黒い炎によって逃げ場をなくし、慌てふためく山賊達の様子が映っていた。
『ヌコをはじめとする偵察担当はああ見えて優秀でね。出身や人脈、果てはスリーサイズから好みの女性まで何でも調べることができるくらいさ。何なら聞かせてあげようか?』
「うーん…遠慮しておくわ。そのジェレミィって人、どうせ死ぬんでしょ?」
『あはは。たぶんね』
きれいなフォームで滑り落ちながらメイリスは隣を並走するフロートアイと談笑を続けた。彼女の視線には両脚を黒い炎で焼かれ、逃げる術を失った山賊が悲鳴をあげながらどてっ腹を踏みつぶされる様子が映っていた。
「それにしても、楽しそうに殺ってるわねー」
『よほどうっぷんが溜まっていたのかな?それとも、あれが魔勇者様の本性だったりして』
メイリスとコノハは戦闘を続ける静葉の表情に着目した。両手の双剣と首に巻かれた赤いマフラーを踊るように振り回し、周囲の敵の首を次々と掻っ切る魔勇者の表情にである。それは彼女が常に纏う黒い炎とは対照的にとても冷たく、見た者の魂ごと凍り付かせるかのような薄ら笑いであった。本人は一言も語らず、無心で淡々と敵を始末しているつもりであろう。しかし、はたから見たその様子は悪鬼が狩りを楽しむおぞましい光景であった。
『普段からは想像つかないけど、本当は彼女って残虐な人間だったりするのかな?』
「さぁね…でも、ロクに仕事もせず、酒を外で飲み散らかす山賊よりははるかにマシだと私は思うわ」
『そう考えるかぁ』
そうこう話をしているうちにふもとまでの距離はあっという間に縮んでいた。
角度のきつい傾斜を滑り落ちながらメイリスは目的地のふもとに目を向けた。魔勇者が先陣を切ったことが功を奏し、道中には障害物らしい障害物は一切ない。そのため、このようによそ見をする余裕が生まれたのだ。彼女は目的地で一足先に戦闘を開始している魔勇者――静葉の動きを捉えていた。
『予測よりも敵の数が多かったみたいだね。魔勇者様を先によこして正解だったよ』
メイリスの背後からフロートアイが声をかけてきた。悪魔の羽とタヌキの尻尾を生やした紫水晶の球は彼女に並走するように横に移動し、速度を合わせて飛行している。
「あの山賊達は…マリーカ地方から来たのかしら?」
『そうみたいだね。データによると、彼らはマリーカ地方で幅を利かせている悪徳商人、ジェレミィ・マイッツァーが雇った山賊集団だよ』
「へぇ」
コノハは遺跡の入り口でたむろしていた山賊達について解説を始めた。メイリスの視点にはその山賊の一人が魔勇者によって両腕を切断され、喉を剣で貫かれる様子が映っていた。
『そのジェレミィってのがなかなかしたたかな商人らしくてね。自分を襲った山賊達を口八丁手八丁で丸め込んでそのまま買収して自分のボディーガードにしてしまうくらいさ』
「そこまで知ってるの?魔王軍の情報網ってすごいわね」
ファイン大陸の一地方の商人の詳細を把握する魔王軍に対し、メイリスは素直に感心した。彼女の視点には空中に飛び上がった魔勇者がばらまいた黒い炎によって逃げ場をなくし、慌てふためく山賊達の様子が映っていた。
『ヌコをはじめとする偵察担当はああ見えて優秀でね。出身や人脈、果てはスリーサイズから好みの女性まで何でも調べることができるくらいさ。何なら聞かせてあげようか?』
「うーん…遠慮しておくわ。そのジェレミィって人、どうせ死ぬんでしょ?」
『あはは。たぶんね』
きれいなフォームで滑り落ちながらメイリスは隣を並走するフロートアイと談笑を続けた。彼女の視線には両脚を黒い炎で焼かれ、逃げる術を失った山賊が悲鳴をあげながらどてっ腹を踏みつぶされる様子が映っていた。
「それにしても、楽しそうに殺ってるわねー」
『よほどうっぷんが溜まっていたのかな?それとも、あれが魔勇者様の本性だったりして』
メイリスとコノハは戦闘を続ける静葉の表情に着目した。両手の双剣と首に巻かれた赤いマフラーを踊るように振り回し、周囲の敵の首を次々と掻っ切る魔勇者の表情にである。それは彼女が常に纏う黒い炎とは対照的にとても冷たく、見た者の魂ごと凍り付かせるかのような薄ら笑いであった。本人は一言も語らず、無心で淡々と敵を始末しているつもりであろう。しかし、はたから見たその様子は悪鬼が狩りを楽しむおぞましい光景であった。
『普段からは想像つかないけど、本当は彼女って残虐な人間だったりするのかな?』
「さぁね…でも、ロクに仕事もせず、酒を外で飲み散らかす山賊よりははるかにマシだと私は思うわ」
『そう考えるかぁ』
そうこう話をしているうちにふもとまでの距離はあっという間に縮んでいた。
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