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第八章
山賊と遊ぶ
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「うおおおおおお!思ったよりも怖えぇぇぇ!」
迫りくる木々を双剣で切り裂き、足元に迫る岩石を両足の黒い炎で砕きながら静葉は正直に叫んだ。
両足と赤いマフラーに持たせた赤い剣――獄炎剣で雪に覆われた地面を削りつつフォルダ山を下る最中、静葉はコノハの無茶ぶりと自らの乗せられやすさを呪った。
両足に履いたホバーブーツ改に纏わせた黒い炎と両手に持った双剣を用いることで道中の障害物を排除できるため転倒や激突の心配はまずない。しかし、元の世界で言うところのジェットコースターのような速度と視点はかなり怖いものであった。
一直線に猛スピードで山を下ること数分。ようやくふもとが見えてきたところで静葉は双剣を地面に突き刺し、思いきり減速した。終点に到着したジェットコースターのようにゆっくりとスピードを落とし、ひらけたふもとに出て数メートルほど進んだところで尻もちをつき、停止した。
「ふう…とんだ地獄スキーだったわ…」
長く危険な山下りが終わったことを確認した静葉は両足の黒い炎を収め、ゆっくりと立ち上がった。
「…せめてストックぐらい持たせなさいよ…」
毒づきながらお尻についた泥や雪をパンパンと手で払い、周囲を見渡すと、野蛮で胡乱な視線が多数、静葉自身に集中していることを感じた。
「…先客がいるとは聞いていたけど…」
静葉を囲んでいるのはいかにも悪人な形相と服装の男達――いわゆる山賊だ。その数はおよそ四十人前後。剣や斧など各々の武器を構えて彼らは突如現れた不審な少女を警戒していた。
「…めっちゃいるわね…」
静葉は頭をポリポリとかいた。
「おうおうなんだテメェは!この遺跡は我らマイッツァー商会が調査してんだぞコラ!邪魔者は帰れオラ!」
山賊の一人が剣を向けながら威圧的な声をかけた。
「マイッツァー?」
静葉は眉一つ動かさず首を傾げた。山賊の素性や目的には全く興味はないが、とりあえず話を聞くことにした。
「おいおい。俺らのこともジェレミィ様のことも知らねぇ田舎娘かぁ?ウケるぜ!」
山賊達は一斉に下品な笑い声をあげた。そんな彼らの様子を静葉は冷めた目で観察した。山賊達の顔は皆赤く染まっており、酒とたばこの混じった匂いが鼻を刺激する。足元には酒瓶やつまみの食べカスが散乱していた。
どうやら彼らは遺跡の入り口の見張りの最中に酒盛りをしていたのだろう。敵の襲撃などないものと判断し、長い暇を酒で潰していたところに乱入者が現れた。そんなところだろうと静葉は推測した。
(…こういう奴らも久しぶりね…)
最近は各地で魔勇者の顔が知れ渡ったこともあり、遭遇した冒険者の大抵が逃げ出すようになっていた。進んで襲ってくる連中と言えば、今赤いマフラーに持たせている獄炎剣を得るきっかけとなった前回の任務で相手した冒険者の団体のように多額の賞金目当ての連中ぐらいだ。
しかし、この山賊達は間違いなく魔勇者のことを知らない。でなければこんなふうに無謀に喧嘩をふっかけてくることはない。静葉は内心、この無知な山賊達の末路にほんの少しんだけ同情した。
(…また無双か…めんどくさいわね…)
「オイ聞いてんのか?帰る気がなけりゃ俺ら全員と遊びな!」
「遊ぶ?それだけでいいの?」
「ああ。ただし、この数を相手にお前の身体がもつかなんぞ知らねぇがな!ははは!」
山賊は舌なめずりしながら答えた。その様子からしてどうやら下世話な意味のようだ。
「…わかったわ」
そう言い終えると同時に静葉は目の前の山賊の両腕を一瞬で切り落とした。当の本人は地面に落ちた自分の両腕を見るまで何が起きたか理解することが出来なかった。
「ぎゃ…ああああああ!」
山賊の叫びと同時に両腕の付け根から血があふれ出した。
「あああああアガっ!」
その叫びは口に突っ込まれた赤い刀身の剣によって阻まれた。首を貫通し、うなじからはみ出した刃は血によってさらに赤く染まっていった。静葉の首に巻かれた赤いマフラーが獄炎剣を引っこ抜くと、山賊の身体は糸が切れた操り人形のように膝から崩れ落ちた。
「な…なぁあっ!」
静葉の背後にいた山賊は目の前の事態を飲み込むことができなかった。双剣を持った少女の首元に巻かれた赤いマフラーが赤い剣を持ち、まるで意思があるかのように 仲間の喉を貫いたのだ。恐怖にかられながら山賊が少女に対して剣を振るおうとした途端、何かが自分の首の横を通り過ぎた。ほどなくして、山賊の首から大量の血が横向きに噴出した。
「…これで二人…」
背後の山賊の頸動脈を斬った赤いマフラーは持ち主を守るようにうごめいていた。
「…久々とはいえ、こんなくだりはうんざりしているからね。さっさと終わらせてあげるわ」
持ち主の意思に応えるように赤いマフラーは赤い剣を振り回した。
迫りくる木々を双剣で切り裂き、足元に迫る岩石を両足の黒い炎で砕きながら静葉は正直に叫んだ。
両足と赤いマフラーに持たせた赤い剣――獄炎剣で雪に覆われた地面を削りつつフォルダ山を下る最中、静葉はコノハの無茶ぶりと自らの乗せられやすさを呪った。
両足に履いたホバーブーツ改に纏わせた黒い炎と両手に持った双剣を用いることで道中の障害物を排除できるため転倒や激突の心配はまずない。しかし、元の世界で言うところのジェットコースターのような速度と視点はかなり怖いものであった。
一直線に猛スピードで山を下ること数分。ようやくふもとが見えてきたところで静葉は双剣を地面に突き刺し、思いきり減速した。終点に到着したジェットコースターのようにゆっくりとスピードを落とし、ひらけたふもとに出て数メートルほど進んだところで尻もちをつき、停止した。
「ふう…とんだ地獄スキーだったわ…」
長く危険な山下りが終わったことを確認した静葉は両足の黒い炎を収め、ゆっくりと立ち上がった。
「…せめてストックぐらい持たせなさいよ…」
毒づきながらお尻についた泥や雪をパンパンと手で払い、周囲を見渡すと、野蛮で胡乱な視線が多数、静葉自身に集中していることを感じた。
「…先客がいるとは聞いていたけど…」
静葉を囲んでいるのはいかにも悪人な形相と服装の男達――いわゆる山賊だ。その数はおよそ四十人前後。剣や斧など各々の武器を構えて彼らは突如現れた不審な少女を警戒していた。
「…めっちゃいるわね…」
静葉は頭をポリポリとかいた。
「おうおうなんだテメェは!この遺跡は我らマイッツァー商会が調査してんだぞコラ!邪魔者は帰れオラ!」
山賊の一人が剣を向けながら威圧的な声をかけた。
「マイッツァー?」
静葉は眉一つ動かさず首を傾げた。山賊の素性や目的には全く興味はないが、とりあえず話を聞くことにした。
「おいおい。俺らのこともジェレミィ様のことも知らねぇ田舎娘かぁ?ウケるぜ!」
山賊達は一斉に下品な笑い声をあげた。そんな彼らの様子を静葉は冷めた目で観察した。山賊達の顔は皆赤く染まっており、酒とたばこの混じった匂いが鼻を刺激する。足元には酒瓶やつまみの食べカスが散乱していた。
どうやら彼らは遺跡の入り口の見張りの最中に酒盛りをしていたのだろう。敵の襲撃などないものと判断し、長い暇を酒で潰していたところに乱入者が現れた。そんなところだろうと静葉は推測した。
(…こういう奴らも久しぶりね…)
最近は各地で魔勇者の顔が知れ渡ったこともあり、遭遇した冒険者の大抵が逃げ出すようになっていた。進んで襲ってくる連中と言えば、今赤いマフラーに持たせている獄炎剣を得るきっかけとなった前回の任務で相手した冒険者の団体のように多額の賞金目当ての連中ぐらいだ。
しかし、この山賊達は間違いなく魔勇者のことを知らない。でなければこんなふうに無謀に喧嘩をふっかけてくることはない。静葉は内心、この無知な山賊達の末路にほんの少しんだけ同情した。
(…また無双か…めんどくさいわね…)
「オイ聞いてんのか?帰る気がなけりゃ俺ら全員と遊びな!」
「遊ぶ?それだけでいいの?」
「ああ。ただし、この数を相手にお前の身体がもつかなんぞ知らねぇがな!ははは!」
山賊は舌なめずりしながら答えた。その様子からしてどうやら下世話な意味のようだ。
「…わかったわ」
そう言い終えると同時に静葉は目の前の山賊の両腕を一瞬で切り落とした。当の本人は地面に落ちた自分の両腕を見るまで何が起きたか理解することが出来なかった。
「ぎゃ…ああああああ!」
山賊の叫びと同時に両腕の付け根から血があふれ出した。
「あああああアガっ!」
その叫びは口に突っ込まれた赤い刀身の剣によって阻まれた。首を貫通し、うなじからはみ出した刃は血によってさらに赤く染まっていった。静葉の首に巻かれた赤いマフラーが獄炎剣を引っこ抜くと、山賊の身体は糸が切れた操り人形のように膝から崩れ落ちた。
「な…なぁあっ!」
静葉の背後にいた山賊は目の前の事態を飲み込むことができなかった。双剣を持った少女の首元に巻かれた赤いマフラーが赤い剣を持ち、まるで意思があるかのように 仲間の喉を貫いたのだ。恐怖にかられながら山賊が少女に対して剣を振るおうとした途端、何かが自分の首の横を通り過ぎた。ほどなくして、山賊の首から大量の血が横向きに噴出した。
「…これで二人…」
背後の山賊の頸動脈を斬った赤いマフラーは持ち主を守るようにうごめいていた。
「…久々とはいえ、こんなくだりはうんざりしているからね。さっさと終わらせてあげるわ」
持ち主の意思に応えるように赤いマフラーは赤い剣を振り回した。
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