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第七章

ひとっとび

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「…南南西、方位よし!」

 手元の方位磁石を確認したオーカワは顔を上げ、屋根の上にある風見鶏に目を向けた。

「…風速、風向き、よし!」

 風の確認を済ませたオーカワは目の前にそびえる巨大な黒い円筒の底についている蓋を開いた。

「…火薬、よし!」

 オーカワは蓋を閉じ、松明を手に取った。

「…ねぇ、これって何なの?」

 黒い円筒の中でビオラは呟いた。

 ゴロンダ鉱山の一件の翌日。ハガーの家でリエル一行は彼特製の朝食をがっつりと味わった。その後、彼女達はこの村からソティ王国まで一日もかからずに移動できる手段があると豪語するオーカワの言葉に従い、彼の家に向かったのだ。

「…さぁ…でも、これって…」

 同じく黒い円筒の中。ビオラの隣にいるリエルは不安そうに答えた。
 オーカワの家の裏にある広大な庭。そこの中央には成人男性が四人ほどすっぽり入る程度の大きさの巨大な黒い円筒が佇んでいた。

「…まさかとは思いますけど…」

 黒い円筒の中。リエルの上に位置するアズキはある不安が頭をよぎった。
 オーカワから変わったリュックサックを渡され、言われるがままに背負い、三人と一匹は黒い円筒の中に入っていた。円筒の中からはよく晴れたきれいな青空が見えている。

「…アレだよな。絶対」

 ビオラの上に乗ったトニーが呟いた。
 リエル達の足元からほのかに火薬の匂いが漂っている。黒い円筒の下ではハガーがのんきにリエル達の顔を見上げていた。

「…あの…これってもしかして…」
 円筒から顔を出したリエルは恐る恐るオーカワに尋ねた。
「ああ。こいつは最近作った瞬間長距離移動装置の『ブットビーくん』だ!こいつを使えばレイニィ諸島まであっという間だぜ!砲身で絞った爆風の勢いで人や物を超高速で移動させることができる画期的な発明だ!」
「ただの大砲じゃん!どう考えても私達を弾にしてぶっ飛ばす大砲じゃん!」
 自信満々に語るオーカワに対してビオラは皆が思っていたことを代弁した。
「ほ、本当に大丈夫なの?実験とかした?」
「もちろん!何回もテストはしたぜ!人形でな!」
「おい!生身の人間ではやってないのかよ!」
「目的地上空に着いたらリュックについている紐を引っ張ってくれ!中に入っているパラシュートが開かれて落下のダメージを軽減できるからな」
「いやいや!質問に答えなさいよ!」
「では、点火!」
「うおぉい!」
 ビオラのツッコミに耳を貸すことなくオーカワは火薬につながった太い縄――導火線に松明の火を灯した。点けられた火は音をたてながら導火線を伝い、大砲の底部に仕込まれた火薬に向かっていった。

「まぁ、その…なんだ…この方が手っ取り早いしな…アルテニウムよろしくな!」

 ほとんどあきらめたかのような表情でそう言いながらハガーはサムズアップした。その瞬間火薬に火が到着した。


 ドオォン!


「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
「わああああぁぁぁぁぁ!」
「てめえぇぇぇ戻ったら覚えてろよおおおぉぉぉぉ!」
「プギャアアアァァァァァァァ!」

 大きな爆音が少女達の叫びと共に周囲に響き渡り、三人と一匹は砲弾のように空高く打ち上げられた。地上から見た少女達の姿はやがて豆粒のように小さくなり、いつしか見えなくなった。

「おー飛んだ飛んだ」

 目の上に手をかざし、上空を見上げながらハガーはつぶやいた。

「でも、本当にあるのか?アルテニウムなんてアレ以外に見たことないぜ?」
 松明の燃えカスをゴミ箱に放り投げながらオーカワはハガーに尋ねた。

「あるとしたらあそこしかねぇ。欲を言うなら、もう一つ欲しい物があるんだが…」
「ん?なんだ?」
「いや。何でもない」

 ハガーは背伸びしながら自分の家に戻っていった。
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