異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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第七章

盗掘者

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「…こりゃまた暗いトコに出たわね」

 カンテラで辺りを照らしながらビオラは呟いた。さっきまでとは違い、通路は整備されておらず、灯りもない。
「この辺りはまだ発掘の途中でな。整備こそ進んでいないが魔物もいないし、最近は皆ここで発掘しているんだ」
 壁に手際よく松明をつけながらドワーフは説明した。彼は遺跡のルートを熟知しており、その案内のおかげでリエル達は道中魔物に全く遭遇することはなかった。

「さて…いつもならここらで発掘しているはずだが……ん?」

 奥へ進もうとしたドワーフは何かを感じ取り、足を止めた。

「…何か…誰かの話し声が聞こえる…一人じゃない…?」
「ええ…何人かの魔力を感じるわね…」

 リエルは奥から届いたわずかな音を拾うことで、ビオラは空気に漂う魔力の流れを感じ取ることで同じように足を止め、周囲を警戒した。
「ブヒッ。わかるのか?」
「そりゃあね。冒険者こういうことやってると自然と身につくモンなのよ。と言っても、あまり遠くまではキャッチできないけどね」
「いつ魔物に襲われるかわからないからね。常に五感を働かせろってメイリスさんに教わったの」
 トニーののんきな問いかけにビオラとリエルは答えた。
「何人か?あいつは今日一人で作業しているはずだが…?」
 首を傾げながらドワーフは奥へ進んだ。すると曲がり角の奥から灯りが見え、作業をしているかのような音が響いてきた。リエルの言った通り、何者かがいるのだ。ドワーフはその正体を確かめるべく、歩く速度を上げた。

「ダチ公。そこにいるのか?」
「うおわっ!」

 奥にいた人物はドワーフからの声掛けに驚きの声を上げた。その声の主は彼が探していたドワーフではなく、さらにその奥には明らかに村の住人ではない集団が違法な作業を続けていた。彼らは一斉に作業を中断し、思わぬ訪問者に目を向けた。

「だ、誰だ貴様は?見張りは何をしていた?」

 最奥部でふんぞり返っていた男が動揺しながらドワーフに声をかけた。華奢な体つきに丸眼鏡をかけ、右手に怪しげな壺を持ったその男こそがこの集団のリーダーであるとリエルは判断した。

「そういうあなた達こそ誰なの?こんなところで大がかりな作業をするなんて!」
「ああ!明らかに俺達に断りを入れてねぇよな?」
 ドワーフの少年は眉をしかめながらリーダー格の男に食ってかかった。
「ということは…盗掘者ってヤツね?」
 ビオラは杖を向けながら尋ねた。
「盗掘者とは無礼な!名乗るなら貴様らから名乗れ!」
 リーダー格の男はふてぶてしく聞き返した。
「私達は通りすがりの――」
「クリーニング屋さんよ」
 リエルが名乗ろうとしたところでトニーがしょうもない口を挟んだ。
「だから違うっちゅー…の?」
 空気を読まない黒豚にツッコミを入れようとビオラは思いきり杖を振り下ろした。しかし、その手ごたえはなく、そこにいるはずのトニーはいつの間にか姿を消していた。

「プギャアアアァァーー!」

  ビオラが正面に顔を向けるとトニーは間抜けな悲鳴を上げながらリーダー格の男が持つ怪しげな壺の中に吸い込まれていた。

「な、何よアレ?」
 身体よりも小さな壺に吸い込まれたトニーの様子を見てビオラは戦慄した。
「わからん。見たところあの壺も発掘品のようだな」
 戸惑いながらドワーフは推測した。

『おーい!そこにいるのはハガーか~?』
「え?」

 壺の中から何者かの声が飛び出した。

「そうだ!その声は…まさかオーカワ?オーカワなのか?」
 ハガーと呼ばれたドワーフは声の主に返事した。

『気をつけろ!この壺は『フキホラの壺』!嘘をついた奴をかたっぱしから吸い込むやべぇアイテムだ!』
『プギャア~!』

 オーカワの声に続くようにトニーの鳴き声が壺から飛び出した。
「…らしいぜ。気をつけろよ姉ちゃん達」
「あ…うん…ていうか…それより…」
 警戒するハガーの声かけにリエルは困惑しながら答えた。
「どうした?あの壺にびっくりしたんか?この遺跡にはああいうのがたくさん埋まっているんだぜ」
「あ、そこじゃなくて…その…ハガーってあなたなの?」
「ん?そうだが?」
 きょとんとした表情でハガーは答えた。
「マジで?てっきりベテランのおっさんかと思ったわよ!」
「失礼な!鍛冶屋業界にその人ありと言われたハガーさんだぜ?そういう威厳がプンプンするだろうが!」
 ビオラからの言葉にハガーは自身を親指で指しながら反論した。 
「何が威厳よ!だったら拾い食いなんかしてんじゃないわよこのちんちくりんが!」
「ちんちくりんだぁ?おめぇには言われたかねぇな!」
 背丈がほぼ一緒のビオラとハガーはにらみ合った。

「あ、あの…今はそれどころじゃ…」
 言い合いするビオラとハガーにアズキが気まずそうに声をかけた。
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