異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

文字の大きさ
上 下
121 / 261
第七章

盗掘者

しおりを挟む
「…こりゃまた暗いトコに出たわね」

 カンテラで辺りを照らしながらビオラは呟いた。さっきまでとは違い、通路は整備されておらず、灯りもない。
「この辺りはまだ発掘の途中でな。整備こそ進んでいないが魔物もいないし、最近は皆ここで発掘しているんだ」
 壁に手際よく松明をつけながらドワーフは説明した。彼は遺跡のルートを熟知しており、その案内のおかげでリエル達は道中魔物に全く遭遇することはなかった。

「さて…いつもならここらで発掘しているはずだが……ん?」

 奥へ進もうとしたドワーフは何かを感じ取り、足を止めた。

「…何か…誰かの話し声が聞こえる…一人じゃない…?」
「ええ…何人かの魔力を感じるわね…」

 リエルは奥から届いたわずかな音を拾うことで、ビオラは空気に漂う魔力の流れを感じ取ることで同じように足を止め、周囲を警戒した。
「ブヒッ。わかるのか?」
「そりゃあね。冒険者こういうことやってると自然と身につくモンなのよ。と言っても、あまり遠くまではキャッチできないけどね」
「いつ魔物に襲われるかわからないからね。常に五感を働かせろってメイリスさんに教わったの」
 トニーののんきな問いかけにビオラとリエルは答えた。
「何人か?あいつは今日一人で作業しているはずだが…?」
 首を傾げながらドワーフは奥へ進んだ。すると曲がり角の奥から灯りが見え、作業をしているかのような音が響いてきた。リエルの言った通り、何者かがいるのだ。ドワーフはその正体を確かめるべく、歩く速度を上げた。

「ダチ公。そこにいるのか?」
「うおわっ!」

 奥にいた人物はドワーフからの声掛けに驚きの声を上げた。その声の主は彼が探していたドワーフではなく、さらにその奥には明らかに村の住人ではない集団が違法な作業を続けていた。彼らは一斉に作業を中断し、思わぬ訪問者に目を向けた。

「だ、誰だ貴様は?見張りは何をしていた?」

 最奥部でふんぞり返っていた男が動揺しながらドワーフに声をかけた。華奢な体つきに丸眼鏡をかけ、右手に怪しげな壺を持ったその男こそがこの集団のリーダーであるとリエルは判断した。

「そういうあなた達こそ誰なの?こんなところで大がかりな作業をするなんて!」
「ああ!明らかに俺達に断りを入れてねぇよな?」
 ドワーフの少年は眉をしかめながらリーダー格の男に食ってかかった。
「ということは…盗掘者ってヤツね?」
 ビオラは杖を向けながら尋ねた。
「盗掘者とは無礼な!名乗るなら貴様らから名乗れ!」
 リーダー格の男はふてぶてしく聞き返した。
「私達は通りすがりの――」
「クリーニング屋さんよ」
 リエルが名乗ろうとしたところでトニーがしょうもない口を挟んだ。
「だから違うっちゅー…の?」
 空気を読まない黒豚にツッコミを入れようとビオラは思いきり杖を振り下ろした。しかし、その手ごたえはなく、そこにいるはずのトニーはいつの間にか姿を消していた。

「プギャアアアァァーー!」

  ビオラが正面に顔を向けるとトニーは間抜けな悲鳴を上げながらリーダー格の男が持つ怪しげな壺の中に吸い込まれていた。

「な、何よアレ?」
 身体よりも小さな壺に吸い込まれたトニーの様子を見てビオラは戦慄した。
「わからん。見たところあの壺も発掘品のようだな」
 戸惑いながらドワーフは推測した。

『おーい!そこにいるのはハガーか~?』
「え?」

 壺の中から何者かの声が飛び出した。

「そうだ!その声は…まさかオーカワ?オーカワなのか?」
 ハガーと呼ばれたドワーフは声の主に返事した。

『気をつけろ!この壺は『フキホラの壺』!嘘をついた奴をかたっぱしから吸い込むやべぇアイテムだ!』
『プギャア~!』

 オーカワの声に続くようにトニーの鳴き声が壺から飛び出した。
「…らしいぜ。気をつけろよ姉ちゃん達」
「あ…うん…ていうか…それより…」
 警戒するハガーの声かけにリエルは困惑しながら答えた。
「どうした?あの壺にびっくりしたんか?この遺跡にはああいうのがたくさん埋まっているんだぜ」
「あ、そこじゃなくて…その…ハガーってあなたなの?」
「ん?そうだが?」
 きょとんとした表情でハガーは答えた。
「マジで?てっきりベテランのおっさんかと思ったわよ!」
「失礼な!鍛冶屋業界にその人ありと言われたハガーさんだぜ?そういう威厳がプンプンするだろうが!」
 ビオラからの言葉にハガーは自身を親指で指しながら反論した。 
「何が威厳よ!だったら拾い食いなんかしてんじゃないわよこのちんちくりんが!」
「ちんちくりんだぁ?おめぇには言われたかねぇな!」
 背丈がほぼ一緒のビオラとハガーはにらみ合った。

「あ、あの…今はそれどころじゃ…」
 言い合いするビオラとハガーにアズキが気まずそうに声をかけた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

暇つぶし転生~お使いしながらぶらり旅~

暇人太一
ファンタジー
 仲良し3人組の高校生とともに勇者召喚に巻き込まれた、30歳の病人。  ラノベの召喚もののテンプレのごとく、おっさんで病人はお呼びでない。  結局雑魚スキルを渡され、3人組のパシリとして扱われ、最後は儀式の生贄として3人組に殺されることに……。  そんなおっさんの前に厳ついおっさんが登場。果たして病人のおっさんはどうなる!?  この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

処理中です...