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第八章

マーク3RX

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「あなた…いつの間にそこにいたのよ?」
「書類整理がひと段落したのでな…気分転換を兼ねて訓練場の視察に来たのだ」
「気分転換って…魔王の間もちばにいなくていいの?」
 静葉は呆れ顔で魔王を見つめた。彼はのんきな様子で手に持ったジュースを一口飲んだ。
「玉座に座りっぱなしでは身体がなまるであろう。それに、少し歩くだけでも頭の中が整理できるものだ」
「まったく…変なところで魔王らしくないわね…」
「ふふ、いいじゃない。親しみがもてる魔王様で」
 静葉が溜息をついたところでメイリスが口をはさんだ。
「それはそうと魔勇者よ。おぬし達に次の任務を下す」
「え?このタイミングで?」
 呆気にとられる静葉をよそに魔王は懐から一枚の紙を取り出し、彼女に渡した。
「先月、ファイン大陸北部にあるドワーフの村ゴロンダにて古代の遺跡が存在しているという情報が入り、その調査をデワフ支部長のコリンズに命じていた。しかし、ここ最近、彼らが何者かの襲撃にあい、行方がわからなくなってしまったのだ」
「襲撃?」
 魔王から受け取った紙はヌコからの報告書であった。
「そうだ。そこで彼の代わりにそのゴロンダ遺跡の調査をおぬしとメイリス、マイカとエイルの四人に命ずる」
「また遺跡かぁ…」
 頭をかきながら静葉は愚痴るように呟いた。
「ヌコには引き続きコリンズの捜索と襲撃者の追跡を命じている。さらに、おぬし達には『彼』を同行させる」
 そう言った魔王が指を鳴らすと天井から小さな紫水晶の玉が下りてきた。その玉には大きな一つ目が描かれており、悪魔のような翼とタヌキのような尻尾を生やしていた。
「あれ?この尻尾って…」
 その尻尾の形に静葉は見覚えがあった。
『そう!僕だよ魔勇者様!』
 水晶玉から聞き覚えのある若い男の声が響いた。
「その声は…コノハ?」
「あら、ペスタのタヌキ君じゃない。久しぶりね」
「こんにちはメイリスさん。隣の子は初めて会うけど…新入りかい?」
「あ、初めまして。マイカです」
 見たこともない物体から声をかけられ、マイカは困惑しながら挨拶した。
「な、何?この水晶玉…?なんかしゃべるんだけど?」
「ああ。こいつはペスタ支部長のコノハ。この玉っころを通じてペスタから通信してるのよ」
「通信…?そんなことできるアイテムなの?」
 ギルドでは見ることのなかったアイテムにマイカは驚きを隠せなかった。彼女は目の前で羽と尻尾をパタパタと動かしながら浮遊する水晶玉をまじまじと見つめた。
『あはは…!人間の仲間がまた増えたなんて、魔勇者様はもてるねぇ!』
「うっさいわよ。あなたこそ相変わらず出不精みたいね」
 コノハのいじりに対し、静葉は毒づいて返した。
『いやぁ、この前確保したタタリア遺跡の改修やら新アイテムの研究やらでこっちも忙しくてね。その上、ヌコからある物を調べてほしいって依頼もされているから研究室から出る暇がないのさ』
「ん?ある物?」
『うん。それは』
『ギャアアアァァァ!』
 話の途中で水晶玉からコノハとは別の人物の悲鳴が響き、その直後、血肉の潰れるような音が聞こえた。
「な、なんか聞こえたんだけど…」
『ああ、ごめんごめん。ちょっと実験をしていたものでね』
「そう…で、ある物って?」
 絶対ろくなものではない。そう確信した静葉はそれ以上の追求をやめ、話を戻した。
『ああ。じつはコリンズがデワフ支部の拠点としていたファナトスの教会が何者かに爆破されてね。そこの調査をしていたヌコが妙なアイテムを拾ったのさ。もしかしたらそこに一番近いゴロンダ遺跡にも似たような何かがあるかもしれない』
「ふーん」
 静葉はお茶を飲みながら話を聞いていた。
『そこで君達にはその遺跡に潜入してもらい、発見したアイテムをかたっぱしから回収してほしいんだ』
「つまりは盗掘してこいってことね…で、邪魔者がいたら?」
『もちろん。全て排除してもいいよ。ただし、遺跡はなるべく傷つけないようにしてね』
 静葉からの質問にコノハは明るく回答した。
「そういうことだ。任務は本日の午後三時のおやつを終えしだい正門前に集合。現場付近にはネリーが案内する。ではたのんだぞ。魔勇者よ」
 そう言いながら魔王はお湯から足を出し、持参したタオルで足を丁寧に拭いて靴を履いた。
『それじゃ。僕は魔王様と他の打ち合わせがあるから。今夜はこのフロートアイマーク3RXで僕も同行するからよろしくね』
 何事もなかったかのように休憩所を後にする魔王を追うようにフロートアイはゆっくりと飛んでいった。

「…魔王あいつのキャラがいまだにつかめないわ…」

 魔王の背中を見送りながら静葉は呟いた。
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