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第七章

行き倒れと解毒

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「…なんか、草木が生い茂っていますね」

 長い通路の先にあった扉を開けるとそこには大きな空間が広がっていた。その中には大小様々な箱が散在しており、箱の隙間から多種多様な植物が顔を出していた。

「さしずめ、元々は食糧庫だったのかもしれないわね。箱の中にあった果実類が長い時間を経て発芽、成長したみたい」
 リエルは植物に実った果実の一つを手に取った。
「これは…チャーカボの実ね。けっこう繁殖力強いのよねこれ」
 リエルが採った果実を見た後ビオラは足元に視線を下げた。床のほとんどはハーブ類と思われる植物がまんべんなく生い茂っていた。視線を上げると天井に大きな穴が開いており、日の光が部屋全体を照らしていた。
「わ、すごい!ブルーベの実まである!これは強力な目薬の材料になるんですよねー」
 驚きの声をあげながらアズキは手際よくあらゆる果実を鞄に詰め込んでいった。
「お、こっちはアスパ草が生えてるじゃん。これに肉を巻いて焼くと美味いのよねぇ」
 一方、ビオラも食材として使えそうな野草をかたっぱしから回収していた。
「おいおい。あいつら目の色変えて漁っているけどいいのか?」
「ま、まぁいいんじゃない?あれはあくまで自然発生した植物なんだし…」  
 生き生きと採取を続ける二人を見てリエルは思わず苦笑した。
「それより、次はどっちに――」
「ぐはっ」
 先に進もうとしたリエルは何かを踏んづけたことに気づき、視線を下げた。そこには作業着を着た小柄な少年がうつぶせに倒れていた。

「ご、ごめんなさい!大丈夫?」
 謝りながらリエルは少年の背中から足をどけた。
「き…気にすん…うぐぐ…」
 少年は顔をリエルに向け、身体をゆっくりと起こした。顔つきはリエル達と同い年と思えるぐらいに若く、背丈こそ低いがそのガタイのいい体格から少年がドワーフであることが見てとれた。しかし、その顔色は悪く、足元はおぼつかない。さらに右手で腹をおさえているその様子はただ事ではなかった。
「ど、どうしたの?」
「な、なぁに…ちょっと悪いもん食っちまったみたいでな…うぷ…」
 ドワーフの少年は壁に寄りかかり、そのまま尻もちをついた。その額からは汗がとめどなく流れている。
「ちょ、ちょっと!ねぇ、アズキ!」
 声をかけられたアズキは採取を中断し、急いでリエルの元へ駆け寄った。そして、呼吸が荒い少年を見るや否やすぐに診断を開始した。
「どうやら何か食べたらしいんだけど…」
「何かって…一体何を食べたんですか?」
「あぁ…小腹が減ったんで近くに生えてたこのラニーニ草を食ったんだがよ…」
 少年は左手に持った食べかけの野草をアズキに見せた。
「これは…セスイ草じゃないですか!」
「セスイ草?」
「はい。葉っぱの形は食用のラニーニ草によく似ていますが、食べると発汗、嘔吐などを及ぼし、最悪、死に至る危険な毒草なんです!アカフク地方では毎年どこかで誤食事故が起こることで有名なんですよ!」
 解説しながらアズキは鞄から粉薬と水の入った瓶を取り出した。
「とにかく急いでこれを飲んでください!」
「わ、わかった…」
「でも大丈夫なの?解毒魔法ならともかく、薬だと治るのに時間がかかるんじゃない?」
 ドワーフの少年が薬を飲む様子を見ながらビオラは訝しんだ。
「大丈夫です。それなら――」
「あ、治った」
 薬を飲み終えた少年の顔色があっという間に良くなり、何事もなかったかのように立ち上がった。
「はや!」
「解毒効果のあるユルヤナ草にこの前デワフ山で採取したアカユカリ草を調合したんです。アカユカリ草の効果で解毒効果が強化されて即効性が付与されたんです」
 アズキが解説している間に少年は自らの首や肩を鳴らし、身体の調子を確かめた。
「いや~死ぬかと思ったよ。ありがとな!」
「どういたしまして。一応これも飲んでください。タウリ草を煎じた栄養剤です」
「おお」
 少年は飲み薬の入った小瓶を受け取り、一気に飲み干した。
「わりぃな。何から何まで。あんたらにはなんか礼をしなくちゃな!」
「礼だなんて…それよりどうしてここに?」
「ああ。実はダチ公に貸しっぱなしのものがあるって思い出してな。返してもらおうとそいつん家に行ったんだが留守だったんでな。ここにいると思って探しに入ってこのザマってわけよ。ハハハ!」
 のんきに笑うドワーフの話を聞き、リエルは彼が探している人物こそ自分達が探している『ハガー』ではないかと推測した。
「そんなわけで先を急いでいるんだ。この礼は帰ってからするからよ。じゃな!」
「あ、あの!」
 さっさと行こうとしたドワーフをリエルはとっさに呼び止めた。
「もしかしてその人…私達が探している人と同じかも。良ければ一緒に行かせてくれない?」
「何?あんたらもアイツを探しているのか?」
「ええ。私達もその人に用があってここに来たの。どうしても見てもらいたい物があって…」
「ふーむ…まぁ、いいぜ。俺の方がこの辺の構造にくわしいしな。ついでに案内してやるよ」
 快諾したドワーフは自前のカンテラを照らし、リエル達の先頭に立った。突然の願い出を了承してもらったことと道案内を得られたことの安心感でリエルは思わず胸をなでおろした。

「でも大丈夫なの?あの子なんか心配なんだけど…」
 怪訝そうにビオラは尋ねた。
「大丈夫じゃない?あの足取りからして慣れているようだし」
「そうかしら…」
 楽観的なリエルの言葉に溜息をつきながらビオラはドワーフの少年の背中を追った。

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