異世界に召喚されて「魔王の」勇者になりました――断れば命はないけど好待遇です――

羽りんご

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番外編

早朝の魔王城

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「あ~くそ…おかげで早く目が覚めてしまったわよ…」

 早朝、頭をかきながら静葉は誰も歩いていない魔王城の廊下を歩いていた。

「勝手に入るなって何度言えばわかるのよあの鳥メイドは…」

 そうぼやいた直後、大きなあくびが出た。数分前、ベッドの中で寝返りをうった時、もぐりこんでいたアウルと目があったのだ。侵入者をすぐさま蹴り飛ばし、窓から放り投げるというダイナミックな朝の運動を強要された静葉はすっかり眠気を失ってしまった。
 時計を見ればまだ朝の五時。二度寝するにもそんな気も失せてしまった静葉は早々に洗顔を済ませ、自販機で飲み物を買うために緑色のジャージ姿のままで廊下に出たのだ。ちなみにこのジャージはこの世界に来た時に持っていたバッグの中に入っていた物の一つであり、彼女の部屋着兼寝間着である。一応寝間着は用意された物があったが、静葉は元の世界から馴染んでいるジャージを好んで使用していた。

 自販機で静葉は濃いめのお茶を購入し、手にしたまま廊下を歩いた。ふと窓に目をやると、広大な訓練場が目に映った。そこでは何人かの魔族がこんな時間から活動していた。

「…ちょっと運動していこうかな…」

 お茶を一口飲んだ静葉は目的地を訓練場に定めた。


 ――――


「おお。朝から張り切っているのが結構いるわね」

 扉を開け、訓練場に出ると何人かの魔族が朝早い時間から訓練に励んでいた。外側のトラックでランニングをするホースヘッド。器具を用いて筋トレをするミノタウロス。サンドバッグに向かって技の練習をするウェアウルフ。各々が張り切ってトレーニングに取り組んでいた。

「来てみたのはいいけど…何をしようかな…?」

 きょろきょろと周囲を見渡しながら訓練場の中心に向かって歩いていると、静葉は中心で体操のような動きをしている大きな黒い影を見た。その姿に静葉は見覚えがあった。 

「…魔王?」

「おはよう魔勇者よ。珍しい時間に来たものだな」
 魔王は静葉に気が付くと動きを止めずに挨拶した。
「それはこっちのセリフよ。魔王軍の首領ドン様が朝っぱらからこんな所にいるとはね」
「見ての通りだ。魔王の間あんなところにずっといると身体がなまるのでな」
 そう答えながら魔王は両手を腰に当て、上体を反らした。

「その動き…ラジオ体操によく似ているわね」
 静葉にとって魔王の動きはよく見覚えがあった。
「らじお…?」
「元の世界で似たような体操があったのよ。そのくらいなら私でも出来そうね」
 静葉は魔王の動きを見ながら後に続くように身体を動かした。
「ほう。こうも簡単についてこれるとはな」
「これでも夏休みは毎朝体操してたのよ。あとはあんたとズワースのおかげね」
 得意げな表情で静葉は答えた。

「…ふう。ついつい張り切っちゃったわね」

 一通り体操を終えた静葉は持ち込んできたお茶を飲み干した。

「…さて、魔勇者よ。ここで一つ頼みがある」
「へ?ここで?」
 まさかのタイミングに静葉は警戒心で身体をこわばらせた。
「まさか朝っぱらから人間しばいてこいとか言うんじゃないんでしょうね?」
「いや…そうではない」
 そう言いながら魔王は懐に手を入れ、小銭を取り出した。

「…そこの自販機でドリンクを買ってきてくれ。スポーツドリンクだ」

「…おつかいかい!」
 
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