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第六章
撃退
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「…!」
メイリスは通路の奥から二本の矢が自分目掛けて飛んでくるのを目視し、右腕を前に出した。その直後、彼女の右前腕に二本の矢が突き刺さった。
「今よ!」
メイリスは同じ空間に狙撃手がいることを確信した。痛覚のない彼女は腕に刺さった矢を意に介することなく静葉達に合図を送った。
「オッケー!」
静葉の後ろで待機していたマイカは自分を包み隠していたステルスコートをはぎ取り、敵の方角へ杖を構えた。
「『ハイウィンド』!」
杖の先から強烈な突風が巻き起こり、グレイブ達に襲い掛かった。無論、メイリスもその突風にさらされていたが、彼女はすぐさまマイカ達のいる方向、風の発生源に向かって頭から飛び込んだ。これによって風の刃に刻まれる面積を最小限に抑えることができた。
「…『カーズアクア』!」
メイリスが風魔法を突破したタイミングを見計らって静葉は水の禁断魔法を唱えた。突風をこらえていたグレイブの足元から発生した黒い水は突風に乗り、それらはやがて黒い激流と化した。
「な、なにぃ!?」
「ぐわあぁぁぁーーーー!」
水柱をまともに喰らったグレイブはおろか、補助魔法によって素早さが低下したフェイもその激流を逃れる術を持っていなかった。黒い激流は二人を飲み込み、通路の奥まで一気に突き進んでいった。ほどなくしてエントランスへの扉の方角から四人の悲鳴と壁が崩れる音が響いた。
「…やったの?」
「…どうやら撤退したようね」
メイリスは周囲から四つの気配が遠ざかる動きを探知した。風の刃のダメージによって彼女の衣服はところどころが破れ、包帯はいくらかほつれて、白い肌が露出していた。
静葉は追撃しようと足を前に出したが、それを阻むように右腕をメイリスに掴まれた。
「だめよ。敵は引き際をよくわかっている。彼らは強いわ」
逸る静葉を諭すようにメイリスは言った。
「それに…」
グウゥゥ~…
通路中に大きな腹の音が響いた。
「…そんな状態だもの。これ以上無理するべきではないわ」
静葉は顔を赤くしながら自分の腹をおさえた。今回の戦いでは敵の生命力を全く吸収しておらず、慣れない禁断魔法で生命力を一気に消耗していたからだ。
「…まさか生命力が減るとお腹がすくとはね…」
自嘲するように静葉は呟いた。
「ある意味じゃ私と同類ね」
クスクスと笑いながらメイリスは懐から取り出したジャーキーを静葉に差し出した。
「でもすごいわよ!魔法をあんな風に掛け合わせるなんて!」
フォローするようにマイカが口をはさんだ。
「漫画で似たようなヤツを見たことがあったからね。まさかうまくいくとは思わなかったけど…」
頬を指でかきながら静葉は答えた。
「そうね。でも敵の特徴も私達のこともよく理解しているし、地の利もステルスコートもうまく活かしている。なかなかいい作戦だったわよ」
「そ…そうかしら…?」
やたらとメイリスに褒めちぎられて静葉は困惑した。メイリスから半ば無茶ぶりを受けてどうにか考えた作戦であった。敵のパーティーを通路に誘い込み、攻撃の方向を絞り込む。そして、狙撃手を捕捉してから広範囲攻撃でまとめて葬る。単独でもできないことはない作戦ではあったが、マイカ達の協力は作戦を強力かつ円滑にせしめた。
「あ…あの…僕も役に立ったでしょうか?」
まごまごしながらエイルは静葉に尋ねた。
「え?え…えぇ…いい動きだったと思うわよ…」
その言葉を受けたエイルはぱぁっと表情を明るくした。
「…その…借りができたわね…」
そう答える静葉に対し、メイリスは彼女の頬をむにーっとつねった。
「ふがっ?」
「だから、貸し借りとかそういうのはなし!私達は見返りが欲しくてあなたを助けているんじゃないのよ」
静葉の頬をムニムニしながらメイリスは優しく諭した。
「でも…」
「そうよ。私達はあなたの忠実な部下でもあり、仲間でもあるのよ。言ってくれればいつだって力になってあげるんだからね」
ウィンクしながらマイカもメイリスに同意した。その後ろでエイルも力強くうなずいている。
「ほら。二人もこう言っているんだし、あなたが望むなら私達は何でもしてあげる。なんなら、エッチなことだって承るわよ?」
「…最後のいる?」
メイリスの冗談交じりの言葉に静葉は思わず苦笑した。
「わかったわよ…その…えっと…ありがとう…」
「ふふ。どういたしまして」
どうにか絞り出した礼の言葉にメイリスは笑顔で答えた。
「あ。蜂」
「ひぃっ!?」
メイリスが指さした方向に静葉は青ざめながら振り向いた。そこには何もなかった。正面を向き直すと三人が笑いをこらえていた。
「あ…あんたら~…!」
顔を赤くしながら静葉は右手に黒い炎を宿した。
「あはは…冗談だってば!」
腹を抱えながらメイリスは通路を駆けだし、静葉は右腕を振り回しながらその後を追いかけた。マイカとエイルは微笑んで二人の後を追った。
メイリスは通路の奥から二本の矢が自分目掛けて飛んでくるのを目視し、右腕を前に出した。その直後、彼女の右前腕に二本の矢が突き刺さった。
「今よ!」
メイリスは同じ空間に狙撃手がいることを確信した。痛覚のない彼女は腕に刺さった矢を意に介することなく静葉達に合図を送った。
「オッケー!」
静葉の後ろで待機していたマイカは自分を包み隠していたステルスコートをはぎ取り、敵の方角へ杖を構えた。
「『ハイウィンド』!」
杖の先から強烈な突風が巻き起こり、グレイブ達に襲い掛かった。無論、メイリスもその突風にさらされていたが、彼女はすぐさまマイカ達のいる方向、風の発生源に向かって頭から飛び込んだ。これによって風の刃に刻まれる面積を最小限に抑えることができた。
「…『カーズアクア』!」
メイリスが風魔法を突破したタイミングを見計らって静葉は水の禁断魔法を唱えた。突風をこらえていたグレイブの足元から発生した黒い水は突風に乗り、それらはやがて黒い激流と化した。
「な、なにぃ!?」
「ぐわあぁぁぁーーーー!」
水柱をまともに喰らったグレイブはおろか、補助魔法によって素早さが低下したフェイもその激流を逃れる術を持っていなかった。黒い激流は二人を飲み込み、通路の奥まで一気に突き進んでいった。ほどなくしてエントランスへの扉の方角から四人の悲鳴と壁が崩れる音が響いた。
「…やったの?」
「…どうやら撤退したようね」
メイリスは周囲から四つの気配が遠ざかる動きを探知した。風の刃のダメージによって彼女の衣服はところどころが破れ、包帯はいくらかほつれて、白い肌が露出していた。
静葉は追撃しようと足を前に出したが、それを阻むように右腕をメイリスに掴まれた。
「だめよ。敵は引き際をよくわかっている。彼らは強いわ」
逸る静葉を諭すようにメイリスは言った。
「それに…」
グウゥゥ~…
通路中に大きな腹の音が響いた。
「…そんな状態だもの。これ以上無理するべきではないわ」
静葉は顔を赤くしながら自分の腹をおさえた。今回の戦いでは敵の生命力を全く吸収しておらず、慣れない禁断魔法で生命力を一気に消耗していたからだ。
「…まさか生命力が減るとお腹がすくとはね…」
自嘲するように静葉は呟いた。
「ある意味じゃ私と同類ね」
クスクスと笑いながらメイリスは懐から取り出したジャーキーを静葉に差し出した。
「でもすごいわよ!魔法をあんな風に掛け合わせるなんて!」
フォローするようにマイカが口をはさんだ。
「漫画で似たようなヤツを見たことがあったからね。まさかうまくいくとは思わなかったけど…」
頬を指でかきながら静葉は答えた。
「そうね。でも敵の特徴も私達のこともよく理解しているし、地の利もステルスコートもうまく活かしている。なかなかいい作戦だったわよ」
「そ…そうかしら…?」
やたらとメイリスに褒めちぎられて静葉は困惑した。メイリスから半ば無茶ぶりを受けてどうにか考えた作戦であった。敵のパーティーを通路に誘い込み、攻撃の方向を絞り込む。そして、狙撃手を捕捉してから広範囲攻撃でまとめて葬る。単独でもできないことはない作戦ではあったが、マイカ達の協力は作戦を強力かつ円滑にせしめた。
「あ…あの…僕も役に立ったでしょうか?」
まごまごしながらエイルは静葉に尋ねた。
「え?え…えぇ…いい動きだったと思うわよ…」
その言葉を受けたエイルはぱぁっと表情を明るくした。
「…その…借りができたわね…」
そう答える静葉に対し、メイリスは彼女の頬をむにーっとつねった。
「ふがっ?」
「だから、貸し借りとかそういうのはなし!私達は見返りが欲しくてあなたを助けているんじゃないのよ」
静葉の頬をムニムニしながらメイリスは優しく諭した。
「でも…」
「そうよ。私達はあなたの忠実な部下でもあり、仲間でもあるのよ。言ってくれればいつだって力になってあげるんだからね」
ウィンクしながらマイカもメイリスに同意した。その後ろでエイルも力強くうなずいている。
「ほら。二人もこう言っているんだし、あなたが望むなら私達は何でもしてあげる。なんなら、エッチなことだって承るわよ?」
「…最後のいる?」
メイリスの冗談交じりの言葉に静葉は思わず苦笑した。
「わかったわよ…その…えっと…ありがとう…」
「ふふ。どういたしまして」
どうにか絞り出した礼の言葉にメイリスは笑顔で答えた。
「あ。蜂」
「ひぃっ!?」
メイリスが指さした方向に静葉は青ざめながら振り向いた。そこには何もなかった。正面を向き直すと三人が笑いをこらえていた。
「あ…あんたら~…!」
顔を赤くしながら静葉は右手に黒い炎を宿した。
「あはは…冗談だってば!」
腹を抱えながらメイリスは通路を駆けだし、静葉は右腕を振り回しながらその後を追いかけた。マイカとエイルは微笑んで二人の後を追った。
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