107 / 261
第六章
隻腕のシスター
しおりを挟む
「う~ん…思ったよりも遠いわね…」
歩くこと数分。静葉達魔勇者一行はいまだ暗い森林の中を進んでいた。毒沼や身体に絡まってくる蔦植物が彼女達の行く手を阻み、その道中は安易なものではなかった。
「もうちょっと近い所に連れてってくれればよかったのに…わざとやったんじゃないの?あの鳥メイドさん…」
杖をつきながらマイカはぼやいた。
「そうでもないみたいよ。あの『ワール』って移動魔法はどうやら自分が行ったことのない場所には移動できないらしいのよ」
「へぇ…でもそんな便利な魔法があるなんて初めて聞いたわ。人間にも普及すれば色々と楽になるのにね」
「魔法ってのはね、歴史的には人間に普及してまだまだ浅いものなのよ。魔族しか知らない魔法もかなりあるって聞いたことがあるわ」
マイカの疑問にメイリスが答えた。彼女の話によると、魔法は元々魔族が使っていたものであり、人間達は長い研究を重ねてようやく使えるようになったものらしい。
「あ、あれを見てください!」
「ん?どうしたの?」
エイルが指さした方向に静葉は目を向けた。
「…あれは…?」
鬱蒼とした森林の中に開けた小さな盆地。そこには多数の十字架が雑多に立ち並んでいた。静葉達は坂を慎重に下ってそこに近づいてみた。
「…ここは、墓地…?」
「それにしては、ずいぶん乱雑ね」
「そうね…その場にあった物で急ごしらえに造った感じだわ」
四人はあちこちの墓を確かめた。墓の素材はどれも正式な墓石ではなく、家屋の材木や折れた武器を紐で結び、地面に突き立てた即席のものであった。どの墓にも名前は刻まれていない。周囲の木々の隙間をよく見ると倒壊した家屋がいくつか隠れている。
「昔は町があったのかしら?この地にあったガルディア王国は魔族の攻撃で滅びたらしいけど…」
「この感じは…戦場跡みたいですね…」
「そうね。さしずめ、この墓は戦死した兵士達を戦時中に弔ったってところかしら?」
薄暗い森林とはまた別の重苦しい空気が墓地一面を包んでいた。
「あれ?誰かいるわよ?」
静葉は墓地の奥を見た。そこには墓の一つに熱心に祈りを捧げている女性がいた。
「あの格好は…シスターですかね?」
「こんな所に一人で…?」
話を聞いてみようと静葉はシスターの元に歩いていった。
「あの…ちょっといいかしら?」
「はっ!ど、どちらさまですか?」
よほど祈りに夢中になっていたのかシスターは静葉の声にぎょっとした。
「あ、ごめん。驚かせちゃった?」
「い、いえ…その…大丈夫です…」
シスターは弱弱しい愛想笑いを見せた。青色の頭髪に色白の肌、青い瞳の美しくもどこか影のある女性であった。
「こんな所に一人で墓参り?」
静葉は周りを見渡しながらシスターに尋ねた。静葉の後ろにはいつしか三人が追い付いていた。
「はい…旅の途中、ちょうど近くを通りましたので…」
シスターはか細く答えた。
「よく一人で来られたわね。けっこう魔物がいたはずだけど…」
「いえ。平気です。ここには昔住んでいたので…」
「そうなの…ってあれ?」
静葉はあることに気づいた。よく見るとシスターの右の肩から先がない。
「…その腕は…?」
「これですか…?当時、ちょっとなくしてしまいまして…」
そこまで語ってシスターは口を閉じた。その表情から見て彼女には何か後ろめたい事情がある。静葉は何となく察した。
「そう…で、この花はあなたが?」
周囲の墓を見渡すと、全ての墓に同じ花が供えられている。白い花びらが印象的なこの薄暗い森林には不似合いな美しい花だ。
「はい…今の私にはこのくらいしかできませんが…」
「ずいぶん献身的ね…ここの人達に恩でもあったの?」
「いえ…彼らが命を落としたのは…私のせいですから…」
そう言い終えたシスターはそっと立ち上がり、そのまま静かに歩きだした。
「あ…ちょっと…?」
呼び止める静葉の声を聞くことなくシスターは墓地をあとにした。
「…行っちゃったね…」
「なんだったんでしょうか?あの人…」
シスターの背中を見送りながらマイカとエイルは首を傾げた。
「さあね。魔勇者のことは知らないようだったけど…」
あのシスターが何者だったのか。この時の四人には知る由は何もなかった。
「考えても仕方ないわ。先を急ぎましょう」
気を取り直して四人は屋敷へ向かった。
歩くこと数分。静葉達魔勇者一行はいまだ暗い森林の中を進んでいた。毒沼や身体に絡まってくる蔦植物が彼女達の行く手を阻み、その道中は安易なものではなかった。
「もうちょっと近い所に連れてってくれればよかったのに…わざとやったんじゃないの?あの鳥メイドさん…」
杖をつきながらマイカはぼやいた。
「そうでもないみたいよ。あの『ワール』って移動魔法はどうやら自分が行ったことのない場所には移動できないらしいのよ」
「へぇ…でもそんな便利な魔法があるなんて初めて聞いたわ。人間にも普及すれば色々と楽になるのにね」
「魔法ってのはね、歴史的には人間に普及してまだまだ浅いものなのよ。魔族しか知らない魔法もかなりあるって聞いたことがあるわ」
マイカの疑問にメイリスが答えた。彼女の話によると、魔法は元々魔族が使っていたものであり、人間達は長い研究を重ねてようやく使えるようになったものらしい。
「あ、あれを見てください!」
「ん?どうしたの?」
エイルが指さした方向に静葉は目を向けた。
「…あれは…?」
鬱蒼とした森林の中に開けた小さな盆地。そこには多数の十字架が雑多に立ち並んでいた。静葉達は坂を慎重に下ってそこに近づいてみた。
「…ここは、墓地…?」
「それにしては、ずいぶん乱雑ね」
「そうね…その場にあった物で急ごしらえに造った感じだわ」
四人はあちこちの墓を確かめた。墓の素材はどれも正式な墓石ではなく、家屋の材木や折れた武器を紐で結び、地面に突き立てた即席のものであった。どの墓にも名前は刻まれていない。周囲の木々の隙間をよく見ると倒壊した家屋がいくつか隠れている。
「昔は町があったのかしら?この地にあったガルディア王国は魔族の攻撃で滅びたらしいけど…」
「この感じは…戦場跡みたいですね…」
「そうね。さしずめ、この墓は戦死した兵士達を戦時中に弔ったってところかしら?」
薄暗い森林とはまた別の重苦しい空気が墓地一面を包んでいた。
「あれ?誰かいるわよ?」
静葉は墓地の奥を見た。そこには墓の一つに熱心に祈りを捧げている女性がいた。
「あの格好は…シスターですかね?」
「こんな所に一人で…?」
話を聞いてみようと静葉はシスターの元に歩いていった。
「あの…ちょっといいかしら?」
「はっ!ど、どちらさまですか?」
よほど祈りに夢中になっていたのかシスターは静葉の声にぎょっとした。
「あ、ごめん。驚かせちゃった?」
「い、いえ…その…大丈夫です…」
シスターは弱弱しい愛想笑いを見せた。青色の頭髪に色白の肌、青い瞳の美しくもどこか影のある女性であった。
「こんな所に一人で墓参り?」
静葉は周りを見渡しながらシスターに尋ねた。静葉の後ろにはいつしか三人が追い付いていた。
「はい…旅の途中、ちょうど近くを通りましたので…」
シスターはか細く答えた。
「よく一人で来られたわね。けっこう魔物がいたはずだけど…」
「いえ。平気です。ここには昔住んでいたので…」
「そうなの…ってあれ?」
静葉はあることに気づいた。よく見るとシスターの右の肩から先がない。
「…その腕は…?」
「これですか…?当時、ちょっとなくしてしまいまして…」
そこまで語ってシスターは口を閉じた。その表情から見て彼女には何か後ろめたい事情がある。静葉は何となく察した。
「そう…で、この花はあなたが?」
周囲の墓を見渡すと、全ての墓に同じ花が供えられている。白い花びらが印象的なこの薄暗い森林には不似合いな美しい花だ。
「はい…今の私にはこのくらいしかできませんが…」
「ずいぶん献身的ね…ここの人達に恩でもあったの?」
「いえ…彼らが命を落としたのは…私のせいですから…」
そう言い終えたシスターはそっと立ち上がり、そのまま静かに歩きだした。
「あ…ちょっと…?」
呼び止める静葉の声を聞くことなくシスターは墓地をあとにした。
「…行っちゃったね…」
「なんだったんでしょうか?あの人…」
シスターの背中を見送りながらマイカとエイルは首を傾げた。
「さあね。魔勇者のことは知らないようだったけど…」
あのシスターが何者だったのか。この時の四人には知る由は何もなかった。
「考えても仕方ないわ。先を急ぎましょう」
気を取り直して四人は屋敷へ向かった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
一家処刑?!まっぴら御免ですわ! ~悪役令嬢(予定)の娘と意地悪(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。
この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。
最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!!
悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる