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第六章

禁断魔法

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「『ヘルフレイム』と『カーズアクア』か。どうやら禁断魔法が発動したようだな」
「うおっ?」

 背後の声に驚き振り向くとそこには黒い大きな影――魔王がいた。

「ま…魔王?」
「調子はどうだ?魔勇者よ」
「調子も何も…気配を消して背後に立つんじゃないわよ!」
 めっちゃ驚いたわ!

「ま…魔王…さま?」

 何気なく現れた魔大陸の支配者にして人間の敵の首領である魔王を何の心構えもなく目にしたマイカは彼をどう呼べばよいか戸惑っていた。
「苦しゅうない。楽にしてかまわん」
 その様子を察した魔王はマイカに声をかけた。
「あ…はい…」
「ところで魔王。なんでこんなところにいんのよ?」
「暇だったから来た」
「はぁ?」
「と、いうのは冗談だ」
「冗談かよ!」
 私はコント番組のようにずっこけた。
「この時間は雑務ばかりだからな。それらはゴードンに任せて余はおぬしの視察に赴いたということだ」
「視察って…体の良いサボりじゃないの?」
 ゴードンも苦労しているのね。
「まぁ、否定はせん」
「否定しろよ!」
 ここにハリセンがあったら今すぐにでもどつきたい気分だわ。

「と…ところで魔王…様…?今、『禁断魔法』って言った…ましたよね…?」
 マイカはたどたどしく尋ねた。まだ魔王に敬語で話すのに慣れていないようだ。まあ、無理もない。先日までは敵だった人物だ。

「おお、そうだったな。すっかり話が逸れてしまったな」
 ようやく本題に入るようだ。やれやれ。
「なんなの?その…禁断魔法って?」
「うむ。禁断魔法とはな…本来、魔力を用いる通常の魔法に術者の生命力を上乗せして発動させる特殊な魔法である」
「生命力を…?」
 私は首を傾げた。
「そうだ。その威力は通常の魔法の比ではないが、生命力を消費するゆえ、使用するごとに術者に大きな負担がかかることになる。いわば諸刃の剣だ」
「そのため、冒険者ギルドでは使用を全面的に禁止しているのよ」
 魔王の説明にマイカが補足を入れた。
「他にも即死させる魔法とか、逆に死者を操る魔法もあるらしいのよ。私はよく知らないけど」
「へぇ。この世界にはそんなやばい魔法があるのね」
 そりゃ禁断なんて言われるわね。

「で、魔王もその禁断魔法とやらを使えるの?」
「無論だ…『ディープフリーズ』」
 そう唱えながら魔王は的に手を向けた。すると的の周囲が一瞬にして白く包まれ、的は巨大な氷塊に閉じ込められた。離れているにも関わらず肌を突き刺すような冷気がここまで伝わってくる。

「すごい…!実際に見るのは初めてだけどこれほどなんて…!」
 マイカは感銘を受けた。禁断といえども魔法使いとしてこういうものには少なからず関心があったようだ。
「そ、そんなにすごいの?」
「もちろん!上級魔法の『メガフリーズ』なんか足元にも及ばない威力だわ!」
「マジか…」
 そう呟く頃に氷塊にひびが走り、中の的ごと粉々に砕け散った。確かに相当なもののようだ。

「でも、どうして禁断魔法が発動したの?私、普通の魔法を使ったはずなのに…」
「そういえばそうね。普通の魔法が自動で禁断魔法に変化するなんて話は聞いたことないわ」 
 私の疑問にマイカもうなずいた。
「ふむ…それはおそらく余の力が関与しているのであろう」
「力…?それって魔王の力これのこと?」
 私は手のひらに黒い炎を出した。
「うむ。知っての通りおぬしは余の力を用いて他者の生命力を吸収することができる。それと同時に余の力を円滑に作用させるためにおぬしの中の魔力もほんの少し使用しているのだ」
 ええ?さんざん使っといてなんだけどそういう仕組みだったの?
「え?てことは魔王様の力の影響でシズハの生命力と魔力は繋がっているってこと?」
「その通り。ちなみに使用した魔力は『力』を通じて余が少しずつ回復させているので尽きることはほぼないといってよい。安心せよ」
 そんなバフ効果があったとはね。道理でいくらでも使えるわけだ。
「でも、繋がっているってことは…」
「うむ。これらの点を考えると、おぬしが魔法を使用する際に余の力を通じておぬしの生命力が魔力と同時に放出されることとなる。つまり、おぬしの魔法は自動的に禁断魔法と化することになるということだ」
「えぇ~?何よそのバグ…」
「心配するな。おぬしはいつも敵の生命力を喰らっているであろう。気にせず禁断魔法を使えるはずだ」
 た、確かにそうだけど。

「案外、大変なのね。魔勇者って」

 はたから聞いていたマイカは肩をすくめた。
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