103 / 261
第六章
冒険の記録
しおりを挟む
デワフ山を下山したリエル達は川沿いに進み、ドワーフの里を目指していた。途中、日も暮れてきたこともあり、手頃な地点にテントを張って野営することとなった。
「ブヒ?何を書いているんだ?」
見張りの交代のために早めに睡眠をとるビオラに枕にされたままトニーはリエルに尋ねた。彼女はスケッチボードにのせた白紙の書物に何かを書き込んでいる。ちなみにビオラは大きな寝息をたてて熟睡し、アズキは少し離れた場所で見張りをしている。
「これ?これはね、『冒険の記録』よ」
ペンを動かしながらリエルは答えた。
「冒険の記録?」
「ええ。私達冒険者がいつ、どんな場所を訪れたか、そこで何を拾ったか、どんな魔物と戦ったか、その魔物には何が効いたか、その他色々と記録している書物よ」
「へぇ。で、そいつをどうするんだ?」
「ギルドを訪れた時にこれを提出するとね、その内容に応じて報酬と冒険者ランクを決めるスコアがもらえるの。で、ギルドは受け取った記録を整理して他の冒険者にその情報を提供しているのよ」
「ふーん。冒険者ってのはけっこうめんどくせぇ仕事なんだな」
トニーは正直な感想をもらした。
「…トニーは…冒険者を知らなかったの?」
冒険者の責務を知らなかった様子からリエルは彼が冒険者と関わりがない存在であることを察した。
「さぁな。そもそも俺は人間じゃないかもしれないし、だったとしても冒険者とは縁があった気はしねぇな」
トニーは溜息をついた。
「そうなんだ…」
リエルはこの記憶喪失の黒豚の身を案じた。グロハの町のギルドでも彼に関する情報は得られず、これまでの道中でも彼に似たような存在は確認できなかった。デワフ山で遭遇した魔族も彼の存在を知る様子はなかった。
「ただ、あの教会に足を踏み入れた時、どこか懐かしい空気を感じた。あんたらの言う通り、俺はあの教会と何か関わりがあるかもしれねぇな」
「教会って…ファナトスの?」
「あぁ。あんたらにとってはファナトスは邪神らしいが、そう聞かされてどこかいい気分がしなかった。もしかしたら…」
トニーは途中で口をつぐんだ。彼が何を言おうとしたのかリエルは何となく理解した。確かに人間のほとんどはファナトスを魔族が崇める邪神として忌み嫌っている。そして、それ以上知ることもしようとしない。
リエルは彼にかける言葉を見つけることができなかった。トニーの素性がはっきりとわからない以上、安易な慰めはかえって彼を傷つけるような気がしたからだ。彼女はビオラのように歯に衣を着せない言葉をかける気質ではない。焚火の音がパチパチと響いた。
「まあ、俺のことはついででいいからよ。そんな気にすんな」
「え?」
リエルの心情を察したかのようにトニーが先に声をかけた。
「確かに俺の正体は俺にもわからない。最悪、あんたらの敵かもしれねぇ。でも、仮にそうだとしてもあんたらには手を出さないよう善処するさ」
「でも…」
「大丈夫だ。なんとかできるんだろ?自信持ちな。お嬢ちゃん」
トニーは自信ありげに鼻を鳴らした。
「…そうね。ありがとう…」
気持ちを少し楽にしたリエルは再びペンを動かした。
「ブヒ?何を書いているんだ?」
見張りの交代のために早めに睡眠をとるビオラに枕にされたままトニーはリエルに尋ねた。彼女はスケッチボードにのせた白紙の書物に何かを書き込んでいる。ちなみにビオラは大きな寝息をたてて熟睡し、アズキは少し離れた場所で見張りをしている。
「これ?これはね、『冒険の記録』よ」
ペンを動かしながらリエルは答えた。
「冒険の記録?」
「ええ。私達冒険者がいつ、どんな場所を訪れたか、そこで何を拾ったか、どんな魔物と戦ったか、その魔物には何が効いたか、その他色々と記録している書物よ」
「へぇ。で、そいつをどうするんだ?」
「ギルドを訪れた時にこれを提出するとね、その内容に応じて報酬と冒険者ランクを決めるスコアがもらえるの。で、ギルドは受け取った記録を整理して他の冒険者にその情報を提供しているのよ」
「ふーん。冒険者ってのはけっこうめんどくせぇ仕事なんだな」
トニーは正直な感想をもらした。
「…トニーは…冒険者を知らなかったの?」
冒険者の責務を知らなかった様子からリエルは彼が冒険者と関わりがない存在であることを察した。
「さぁな。そもそも俺は人間じゃないかもしれないし、だったとしても冒険者とは縁があった気はしねぇな」
トニーは溜息をついた。
「そうなんだ…」
リエルはこの記憶喪失の黒豚の身を案じた。グロハの町のギルドでも彼に関する情報は得られず、これまでの道中でも彼に似たような存在は確認できなかった。デワフ山で遭遇した魔族も彼の存在を知る様子はなかった。
「ただ、あの教会に足を踏み入れた時、どこか懐かしい空気を感じた。あんたらの言う通り、俺はあの教会と何か関わりがあるかもしれねぇな」
「教会って…ファナトスの?」
「あぁ。あんたらにとってはファナトスは邪神らしいが、そう聞かされてどこかいい気分がしなかった。もしかしたら…」
トニーは途中で口をつぐんだ。彼が何を言おうとしたのかリエルは何となく理解した。確かに人間のほとんどはファナトスを魔族が崇める邪神として忌み嫌っている。そして、それ以上知ることもしようとしない。
リエルは彼にかける言葉を見つけることができなかった。トニーの素性がはっきりとわからない以上、安易な慰めはかえって彼を傷つけるような気がしたからだ。彼女はビオラのように歯に衣を着せない言葉をかける気質ではない。焚火の音がパチパチと響いた。
「まあ、俺のことはついででいいからよ。そんな気にすんな」
「え?」
リエルの心情を察したかのようにトニーが先に声をかけた。
「確かに俺の正体は俺にもわからない。最悪、あんたらの敵かもしれねぇ。でも、仮にそうだとしてもあんたらには手を出さないよう善処するさ」
「でも…」
「大丈夫だ。なんとかできるんだろ?自信持ちな。お嬢ちゃん」
トニーは自信ありげに鼻を鳴らした。
「…そうね。ありがとう…」
気持ちを少し楽にしたリエルは再びペンを動かした。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
朝チュン転生 ~地味に異世界を楽しみたいのに女神サマが邪魔をします~
なる
ファンタジー
いつのまにか異世界に転生する事になっていた"オレ"。
「仲良く」し過ぎたせいか、目立たない転生をしたいオレに、無理矢理チートを授けようとしてくる女神サマ。
なんとかチートを拒否し、転生したものの、後々に発覚していく女神サマのやらかし…
破天荒にはなりきれない、おっさん思考のリアル冒険譚!
悪役令嬢と弟が相思相愛だったのでお邪魔虫は退場します!どうか末永くお幸せに!
ユウ
ファンタジー
乙女ゲームの王子に転生してしまったが断罪イベント三秒前。
婚約者を蔑ろにして酷い仕打ちをした最低王子に転生したと気づいたのですべての罪を被る事を決意したフィルベルトは公の前で。
「本日を持って私は廃嫡する!王座は弟に譲り、婚約者のマリアンナとは婚約解消とする!」
「「「は?」」」
「これまでの不始末の全ては私にある。責任を取って罪を償う…全て悪いのはこの私だ」
前代未聞の出来事。
王太子殿下自ら廃嫡を宣言し婚約者への謝罪をした後にフィルベルトは廃嫡となった。
これでハッピーエンド。
一代限りの辺境伯爵の地位を許され、二人の幸福を願ったのだった。
その潔さにフィルベルトはたちまち平民の心を掴んでしまった。
対する悪役令嬢と第二王子には不測の事態が起きてしまい、外交問題を起こしてしまうのだったが…。
タイトル変更しました。
追い出された万能職に新しい人生が始まりました
東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」
その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。
『万能職』は冒険者の最底辺職だ。
冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。
『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。
口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。
要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。
その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。
異世界に来たからといってヒロインとは限らない
あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理!
ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※
ファンタジー小説大賞結果発表!!!
\9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/
(嬉しかったので自慢します)
書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン)
変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします!
(誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願
※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。
* * *
やってきました、異世界。
学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。
いえ、今でも懐かしく読んでます。
好きですよ?異世界転移&転生モノ。
だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね?
『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。
実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。
でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。
モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ?
帰る方法を探して四苦八苦?
はてさて帰る事ができるかな…
アラフォー女のドタバタ劇…?かな…?
***********************
基本、ノリと勢いで書いてます。
どこかで見たような展開かも知れません。
暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。
クーヤちゃん ~Legend of Shota~ このかわいい召喚士は、地球からアイテムを召喚してしまったみたいです
ほむらさん
ファンタジー
どうやら、人は死ぬと【転生ルーレット】で来世を決めるらしい。
知ったのはもちろん自分が死んで最後の大勝負を挑むことになったからだ。
虫や動物で埋め尽くされた非常に危険なルーレット。
その一発勝負で、幸運にも『ショタ召喚士』を的中させることに成功する。
―――しかし問題はその後だった。
あの野郎、5歳児を原っぱにポイ捨てしやがった!
召喚士うんぬんの前に、まずは一人で異世界を生き抜かねばならなくなったのです。
異世界言語翻訳?そんなもん無い!!
召喚魔法?誰も使い方を教えてくれないからさっぱりわからん!
でも絶体絶命な状況の中、召喚魔法を使うことに成功する。
・・・うん。この召喚魔法の使い方って、たぶん普通と違うよね?
※この物語は基本的にほのぼのしていますが、いきなり激しい戦闘が始まったりもします。
※主人公は自分のことを『慎重な男』と思ってるみたいですが、かなり無茶するタイプです。
※なぜか異世界で家庭用ゲーム機『ファミファミ』で遊んだりもします。
※誤字・脱字、あとルビをミスっていたら、報告してもらえるとすごく助かります。
※登場人物紹介は別ページにあります。『ほむらさん』をクリック!
※毎日が明るくて楽しくてほっこりしたい方向けです。是非読んでみてください!
クーヤ「かわいい召喚獣をいっぱい集めるよ!」
@カクヨム・なろう・ノベルアップ+にも投稿してます。
☆祝・100万文字(400話)達成! 皆様に心よりの感謝を!
錬金術師カレンはもう妥協しません
山梨ネコ
ファンタジー
「おまえとの婚約は破棄させてもらう」
前は病弱だったものの今は現在エリート街道を驀進中の婚約者に捨てられた、Fランク錬金術師のカレン。
病弱な頃、支えてあげたのは誰だと思っているのか。
自棄酒に溺れたカレンは、弾みでとんでもない条件を付けてとある依頼を受けてしまう。
それは『血筋の祝福』という、受け継いだ膨大な魔力によって苦しむ呪いにかかった甥っ子を救ってほしいという貴族からの依頼だった。
依頼内容はともかくとして問題は、報酬は思いのままというその依頼に、達成報酬としてカレンが依頼人との結婚を望んでしまったことだった。
王都で今一番結婚したい男、ユリウス・エーレルト。
前世も今世も妥協して付き合ったはずの男に振られたカレンは、もう妥協はするまいと、美しく強く家柄がいいという、三国一の男を所望してしまったのだった。
ともかくは依頼達成のため、錬金術師としてカレンはポーションを作り出す。
仕事を通じて様々な人々と関わりながら、カレンの心境に変化が訪れていく。
錬金術師カレンの新しい人生が幕を開ける。
※小説家になろうにも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる