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第五章
新たな修行
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サンユー地方にある黒竜の洞窟。黒竜ズワースの指導の下、静葉は今日も修行に明け暮れていた。
ゾート王国の一件以来、しばらく静養していたこともあり、初めのうちは筋トレやストレッチなどのリハビリテーションを中心に静葉は感覚を取り戻していった。
そして、今日の修行は――
「…本当にこれが修行になるの?」
背筋を伸ばし、直立不動で両手を合わせ、目を閉じながら静葉は黒竜に質問した。
「もちろんじゃ!動き回るばかりが修行ではない。集中し、心を研ぎ澄ますためにも大事な修行なのじゃぞ」
静葉の真正面の位置からズワースが答えた。ちなみに、エイルは本日の食料採取のために外出している。
「座禅の立ちバージョンってところね。でも…」
静葉は片目を開き、足元をチラ見した。直立する彼女の周囲、半径1メートルは溶岩に囲まれており、熱気が立ち込めていた。
この溶岩はズワースが建築担当のスティーブに依頼して増設した修行用の設備の一つである。もし落下すればいくら魔勇者といえどもひとたまりもない。
「…こんな場所で集中しろだなんてちょっと鬼畜すぎない?」
「こんな場所だからこそじゃ。『嵐の中でこそ茶を点てろ』ということわざがあってな。極限の環境でも己を保つ。その精神が今のお前さんには必要なのじゃ」
「はぁ…」
目を閉じ直した静葉は生返事をした。
「呼吸を整え、暗闇の中にある一本の手綱。それを握り続けるようイメージするのじゃ」
「手綱を…握る…」
静葉はズワースの言葉を聞き、ゆっくりと深呼吸をした。腹の底まで貯めるように息を吸い、その息の全てを体外から出し尽くすように吐き出した。
「そうじゃ。外界の雑音を断ち、己の中の手綱を握るのじゃ。さすれば――」
話の途中、静葉は突如目を開き、真上に飛び上がった。彼女がいた場所目掛けて矢が飛んできたのだ。静葉の背中を射貫くはずだった矢は空を切り、黒竜の手につままれた。
空中で後転し、部屋の出入り口で弓矢を構えていた侵入者を捉えた静葉は大粒の黒い火球を投げつけた。
「あばぁ!」
黒い炎を浴びた侵入者は短い悲鳴をあげて黒い炭と化した。
「…このように目に見えぬものもわかるようになるわけじゃ」
つまんだ矢をつまようじのようにして歯の隙間を掃除しながらズワースは話を続けた。
「…ホント鬼畜な修行ね」
着地した静葉は一歩間違えれば命を落とす修行に文句をつけた。
「修行とは元来そういうものじゃ。そもそも実戦は常に命を落とす危険があって当然。ゆえにいつしか迷いや焦り、恐れが生まれ、心が乱れる。心が乱れれば剣は鈍り、その結果命を落とすことになるのじゃ」
矢を投げ捨てたズワースは己の考えを説いた。
「今日の修行はその心の乱れを克服するためのものじゃ。お前さんはいずれ、何よりも大きな嵐に心を包まれることになる。だが、その中でも決して手綱を手放すな。さすればその嵐はお前さんにとって大いなる力になるじゃろう」
「大いなる力…?それって、どういう意味よ?」
「おっと。それ以上知りたければ修行を続けることじゃな」
話をはぐらかすようにズワースは静葉目掛けて火球を放った。静葉は飛び上がって火球をかわし、溶岩の中の足場に着地した。意外と律儀である。
「まったく…ホント食えないトカゲね…」
文句をつけながら静葉は両手を合わせ、目を閉じた。
ゾート王国の一件以来、しばらく静養していたこともあり、初めのうちは筋トレやストレッチなどのリハビリテーションを中心に静葉は感覚を取り戻していった。
そして、今日の修行は――
「…本当にこれが修行になるの?」
背筋を伸ばし、直立不動で両手を合わせ、目を閉じながら静葉は黒竜に質問した。
「もちろんじゃ!動き回るばかりが修行ではない。集中し、心を研ぎ澄ますためにも大事な修行なのじゃぞ」
静葉の真正面の位置からズワースが答えた。ちなみに、エイルは本日の食料採取のために外出している。
「座禅の立ちバージョンってところね。でも…」
静葉は片目を開き、足元をチラ見した。直立する彼女の周囲、半径1メートルは溶岩に囲まれており、熱気が立ち込めていた。
この溶岩はズワースが建築担当のスティーブに依頼して増設した修行用の設備の一つである。もし落下すればいくら魔勇者といえどもひとたまりもない。
「…こんな場所で集中しろだなんてちょっと鬼畜すぎない?」
「こんな場所だからこそじゃ。『嵐の中でこそ茶を点てろ』ということわざがあってな。極限の環境でも己を保つ。その精神が今のお前さんには必要なのじゃ」
「はぁ…」
目を閉じ直した静葉は生返事をした。
「呼吸を整え、暗闇の中にある一本の手綱。それを握り続けるようイメージするのじゃ」
「手綱を…握る…」
静葉はズワースの言葉を聞き、ゆっくりと深呼吸をした。腹の底まで貯めるように息を吸い、その息の全てを体外から出し尽くすように吐き出した。
「そうじゃ。外界の雑音を断ち、己の中の手綱を握るのじゃ。さすれば――」
話の途中、静葉は突如目を開き、真上に飛び上がった。彼女がいた場所目掛けて矢が飛んできたのだ。静葉の背中を射貫くはずだった矢は空を切り、黒竜の手につままれた。
空中で後転し、部屋の出入り口で弓矢を構えていた侵入者を捉えた静葉は大粒の黒い火球を投げつけた。
「あばぁ!」
黒い炎を浴びた侵入者は短い悲鳴をあげて黒い炭と化した。
「…このように目に見えぬものもわかるようになるわけじゃ」
つまんだ矢をつまようじのようにして歯の隙間を掃除しながらズワースは話を続けた。
「…ホント鬼畜な修行ね」
着地した静葉は一歩間違えれば命を落とす修行に文句をつけた。
「修行とは元来そういうものじゃ。そもそも実戦は常に命を落とす危険があって当然。ゆえにいつしか迷いや焦り、恐れが生まれ、心が乱れる。心が乱れれば剣は鈍り、その結果命を落とすことになるのじゃ」
矢を投げ捨てたズワースは己の考えを説いた。
「今日の修行はその心の乱れを克服するためのものじゃ。お前さんはいずれ、何よりも大きな嵐に心を包まれることになる。だが、その中でも決して手綱を手放すな。さすればその嵐はお前さんにとって大いなる力になるじゃろう」
「大いなる力…?それって、どういう意味よ?」
「おっと。それ以上知りたければ修行を続けることじゃな」
話をはぐらかすようにズワースは静葉目掛けて火球を放った。静葉は飛び上がって火球をかわし、溶岩の中の足場に着地した。意外と律儀である。
「まったく…ホント食えないトカゲね…」
文句をつけながら静葉は両手を合わせ、目を閉じた。
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