88 / 261
第五章
見つめる者
しおりを挟む
昼下がりのエキョウ平原。広大な平原のあちこちに生えている大小様々な樹木。その一本の上に黒装束の男がいた。黒い頭巾を被り、大きな一つ目を象った仮面で顔面を覆っており、その表情は見えない。
彼は樹木の葉に己の身を隠し、遠くで大蛇と交戦する三人の少女を見ていた。
「…こちら『ゲイザー』。対象が魔物を撃退しました」
ゲイザーと名乗った男は右手の平に収まる四角い石板を口元に寄せて話し出した。魔王軍が使用している通信石とよく似ている石板だ。
『…対象は聖剣を使用したか?』
「…はい。対象の聖剣の使用を確認しました」
『…そうか』
石板から別の男の声が聞こえた。ゲイザーは少女達の姿を確認しながら石板に向かって報告した。
「…以前の報告の通り、聖剣はあのような状態でも力を発揮するようです」
『驚いたな…まさか光の刃を纏うことができるなど…ありえぬ…』
応答者は正直な感想を漏らした。
「そうですね。あの大蛇を一太刀で屠るとは…」
ゲイザーは頷いた。
「情報によるとあの少女の冒険者ランクはBに上がったばかり。大した実力はないはずなのですが…」
『聖剣が彼女に力を付与している…ということか…』
「…おそらく。過去の所有者もその恩恵を受けていたのでしょう」
ゲイザーは自分の推測を述べた。
『…しかし、あの国王陛下は何を考えている…』
「…ええ、同感です。あのような冒険者風情に聖剣を託すなど…」
ゲイザーは仮面の下の顔をしかめながら答えた。おそらく応答者も同じ表情をしているのだろう。
「…いっそ、殺して奪い取りますか?今ならば…」
ゲイザーはクナイを取り出した。彼の視線には黒い豚のような生物と無防備に会話している少女の様子が映っていた。
『やめておけ。返り討ちに遭う可能性は否定できない』
応答者は制止した。
『それに、あの聖剣は完全な姿ではない。その時が来るまで奴らを泳がせる方が賢明だ』
「ふむ…それもそうですね」
ゲイザーはクナイを懐にしまった。
『いいか。あの聖剣は由緒正しき王族が振るうにふさわしい剣なのだ。来るべき魔族との戦のためにもあの聖剣を蘇らせ、本来の持ち手に返るべきなのだよ』
「由緒正しき王族…ですか…」
ゲイザーはその言葉を反芻した。応答者の言葉に妙な執念を感じたが今はそれを聞く時ではない。彼はそう思った。
「…では、これまで通りに…」
『そうだ。そのまま監視を続けよ』
応答者は淡泊に指示を送った。
「…了解しました。引き続き監視を続行します…」
『よろしく頼むぞ…全ては我らが神のために…!』
ゲイザーは石板を懐にしまい、つむじ風に包まれてその姿を消した。
彼は樹木の葉に己の身を隠し、遠くで大蛇と交戦する三人の少女を見ていた。
「…こちら『ゲイザー』。対象が魔物を撃退しました」
ゲイザーと名乗った男は右手の平に収まる四角い石板を口元に寄せて話し出した。魔王軍が使用している通信石とよく似ている石板だ。
『…対象は聖剣を使用したか?』
「…はい。対象の聖剣の使用を確認しました」
『…そうか』
石板から別の男の声が聞こえた。ゲイザーは少女達の姿を確認しながら石板に向かって報告した。
「…以前の報告の通り、聖剣はあのような状態でも力を発揮するようです」
『驚いたな…まさか光の刃を纏うことができるなど…ありえぬ…』
応答者は正直な感想を漏らした。
「そうですね。あの大蛇を一太刀で屠るとは…」
ゲイザーは頷いた。
「情報によるとあの少女の冒険者ランクはBに上がったばかり。大した実力はないはずなのですが…」
『聖剣が彼女に力を付与している…ということか…』
「…おそらく。過去の所有者もその恩恵を受けていたのでしょう」
ゲイザーは自分の推測を述べた。
『…しかし、あの国王陛下は何を考えている…』
「…ええ、同感です。あのような冒険者風情に聖剣を託すなど…」
ゲイザーは仮面の下の顔をしかめながら答えた。おそらく応答者も同じ表情をしているのだろう。
「…いっそ、殺して奪い取りますか?今ならば…」
ゲイザーはクナイを取り出した。彼の視線には黒い豚のような生物と無防備に会話している少女の様子が映っていた。
『やめておけ。返り討ちに遭う可能性は否定できない』
応答者は制止した。
『それに、あの聖剣は完全な姿ではない。その時が来るまで奴らを泳がせる方が賢明だ』
「ふむ…それもそうですね」
ゲイザーはクナイを懐にしまった。
『いいか。あの聖剣は由緒正しき王族が振るうにふさわしい剣なのだ。来るべき魔族との戦のためにもあの聖剣を蘇らせ、本来の持ち手に返るべきなのだよ』
「由緒正しき王族…ですか…」
ゲイザーはその言葉を反芻した。応答者の言葉に妙な執念を感じたが今はそれを聞く時ではない。彼はそう思った。
「…では、これまで通りに…」
『そうだ。そのまま監視を続けよ』
応答者は淡泊に指示を送った。
「…了解しました。引き続き監視を続行します…」
『よろしく頼むぞ…全ては我らが神のために…!』
ゲイザーは石板を懐にしまい、つむじ風に包まれてその姿を消した。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】
永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。
転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。
こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり
授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。
◇ ◇ ◇
本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。
序盤は1話あたりの文字数が少なめですが
全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。
アイテムボックスで異世界蹂躙~ただし、それ以外のチートはない~
PENGUIN
ファンタジー
気付いたら異世界だった。そして俺はアイテムボックスが使えることに気付き、アイテムボックスが何ができて何ができないのかを研究していたら腹が減ってしまった。
何故アイテムボックスが使えるのかわからない。何故異世界に来て最初にした俺の行動がアイテムボックスの研究だったのかわからない。
第1章
『ただ、腹が減ってしまったため、食い物を探すために戦争をアイテムボックスで蹂躙する。』
え?話が飛んだって?本編を10話まで読めばわかります。
第2章
15話から開始
この章からギャグ・コメディーよりに
処女作です。よろしくね。
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。
異世界でスローライフを満喫する為に
美鈴
ファンタジー
ホットランキング一位本当にありがとうございます!
【※毎日18時更新中】
タイトル通り異世界に行った主人公が異世界でスローライフを満喫…。出来たらいいなというお話です!
※カクヨム様にも投稿しております
※イラストはAIアートイラストを使用
異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。
桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。
だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。
そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる