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第四章
隣国にて
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レイニィ諸島の東側を治めるソティ王国。その領内は多くの喧騒でにぎわっていた。しかし、その様子は決して平和的なものではなかった。
友好な関係とはいえない隣国のゾート王国から突如多数の船が押し寄せてきたのだ。そのいくつかは軍船ということもあってソティ王国は警戒の色を見せたがそれは徒労に終わった。彼らはゾート王国から一斉に避難してきたのだ。ただでさえ広くはない国土に多くの人々が上陸したことによりソティ王国はその対応に苦慮することになった。今も市街地はゾート王国の人々が行く当てを求めて右往左往している。
「なんか騒々しいな」
街の一角で紺色のコートを羽織った粗暴な男がその様子を眺めていた。
「どっかの貴族が育休を利用して不倫でもしていたんじゃね?」
男の隣にいた金髪の少女がエクレアをかじりながら応答した。少女は背中にその小柄な体格には不似合いな大剣を携えている。
「どうやら隣国が魔王軍の襲撃に遭ったようであります」
彼らのもとに目深く深緑色の帽子をかぶった男が話しかけてきた。
「隣国…ゾート王国が?」
「そうであります」
「おっおっ?儲け話の匂いがするじゃん?」
少女は楽しそうな声をあげた。
「残念ながら、すぐには無理なようだ」
少女をたしなめるように長髪の男が声をかけた。
「フェイか…そりゃどういう意味だ?」
「あぁ、情報によると魔王軍が城に直接攻撃を仕掛け、城は焼き討ちされたらしい」
フェイと呼ばれた男は説明した。
「おそらく国王をはじめとする中枢の人間はほとんど殺されたのだろう。ここにいるゾート王国の人々は着の身着のまま逃げてきたようだ。たとえ貴族でも大した金は持っておるまい。少なくとも彼らからの依頼は期待できないな」
「ソティ王国の人々も避難してきた彼らの対応に追われているようであります。しばらくは我々に依頼を出す余裕はないようであります」
帽子の男が補足した。
「なるほど…いまやゾート王国の領土は魔族が牛耳っているということか」
納得した粗暴な男は頷いた。彼の目にはぶかぶかの白いローブを羽織る少女が泣きじゃくる様子が映っていた。
「ああ。いくつかの島では残存勢力が抵抗を続けているだろうが、それも時間の問題だろう」
「彼らが依頼を出すかもしれないでしょうが、負け組からの報酬などたかが知れているであります。お人よしの冒険者ならまだしも、我々猟兵には割に合わない依頼であります」
フェイの言葉に続くように帽子の男は辛辣にコメントした。
「だとすれば…しばらくは様子見ということかよ。残念だったな、ショコラ」
「なんでぇ、つまんねぇじゃんよ」
ショコラと呼ばれた金髪の少女は不満げな声をあげた。
「そう不貞腐れるな。『吉報は寝てればおとずれる』ということわざがある」
フェイは煙管をふかせながら言った。
「まあ、ちと退屈だがな…それで、飯はどうする?バジルよ」
粗暴な男は頭を掻きながら帽子の男に尋ねた。
「この先の丘の方に『ヒャクバ』という穴場の飯屋を発見したであります。グレイブ団長の好みのメニューもあるようであります」
頭にかぶった帽子を整えながらバジルは答えた。
「うし、ちょうど腹減ったからそこに行くぞ」
「情報によるとチャーハンがおすすめらしいであります」
「美味いスイーツが食べたいじぇ」
「今エクレア食ったばかりだろうが」
グレイブは丘の方へ歩きだした。他の三人はその後に続いた。四人の右肩には赤い獣の意匠のワッペンが貼られている。
猟兵団『赤い牙』は昼食を取りながら今後の方針を話し合うのであった。
友好な関係とはいえない隣国のゾート王国から突如多数の船が押し寄せてきたのだ。そのいくつかは軍船ということもあってソティ王国は警戒の色を見せたがそれは徒労に終わった。彼らはゾート王国から一斉に避難してきたのだ。ただでさえ広くはない国土に多くの人々が上陸したことによりソティ王国はその対応に苦慮することになった。今も市街地はゾート王国の人々が行く当てを求めて右往左往している。
「なんか騒々しいな」
街の一角で紺色のコートを羽織った粗暴な男がその様子を眺めていた。
「どっかの貴族が育休を利用して不倫でもしていたんじゃね?」
男の隣にいた金髪の少女がエクレアをかじりながら応答した。少女は背中にその小柄な体格には不似合いな大剣を携えている。
「どうやら隣国が魔王軍の襲撃に遭ったようであります」
彼らのもとに目深く深緑色の帽子をかぶった男が話しかけてきた。
「隣国…ゾート王国が?」
「そうであります」
「おっおっ?儲け話の匂いがするじゃん?」
少女は楽しそうな声をあげた。
「残念ながら、すぐには無理なようだ」
少女をたしなめるように長髪の男が声をかけた。
「フェイか…そりゃどういう意味だ?」
「あぁ、情報によると魔王軍が城に直接攻撃を仕掛け、城は焼き討ちされたらしい」
フェイと呼ばれた男は説明した。
「おそらく国王をはじめとする中枢の人間はほとんど殺されたのだろう。ここにいるゾート王国の人々は着の身着のまま逃げてきたようだ。たとえ貴族でも大した金は持っておるまい。少なくとも彼らからの依頼は期待できないな」
「ソティ王国の人々も避難してきた彼らの対応に追われているようであります。しばらくは我々に依頼を出す余裕はないようであります」
帽子の男が補足した。
「なるほど…いまやゾート王国の領土は魔族が牛耳っているということか」
納得した粗暴な男は頷いた。彼の目にはぶかぶかの白いローブを羽織る少女が泣きじゃくる様子が映っていた。
「ああ。いくつかの島では残存勢力が抵抗を続けているだろうが、それも時間の問題だろう」
「彼らが依頼を出すかもしれないでしょうが、負け組からの報酬などたかが知れているであります。お人よしの冒険者ならまだしも、我々猟兵には割に合わない依頼であります」
フェイの言葉に続くように帽子の男は辛辣にコメントした。
「だとすれば…しばらくは様子見ということかよ。残念だったな、ショコラ」
「なんでぇ、つまんねぇじゃんよ」
ショコラと呼ばれた金髪の少女は不満げな声をあげた。
「そう不貞腐れるな。『吉報は寝てればおとずれる』ということわざがある」
フェイは煙管をふかせながら言った。
「まあ、ちと退屈だがな…それで、飯はどうする?バジルよ」
粗暴な男は頭を掻きながら帽子の男に尋ねた。
「この先の丘の方に『ヒャクバ』という穴場の飯屋を発見したであります。グレイブ団長の好みのメニューもあるようであります」
頭にかぶった帽子を整えながらバジルは答えた。
「うし、ちょうど腹減ったからそこに行くぞ」
「情報によるとチャーハンがおすすめらしいであります」
「美味いスイーツが食べたいじぇ」
「今エクレア食ったばかりだろうが」
グレイブは丘の方へ歩きだした。他の三人はその後に続いた。四人の右肩には赤い獣の意匠のワッペンが貼られている。
猟兵団『赤い牙』は昼食を取りながら今後の方針を話し合うのであった。
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