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第四章
魔王に説教される
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「それはそうと魔勇者よ。なぜあのような無茶をしたのだ?」
腕を組みながら魔王は当然の疑問を私にぶつけた。私は何も答えなかった。
「…異世界召喚か…」
いきなり核心をつかれた。でも私は何も答えない。
「ゾート王国は余とほぼ同じ異世界召喚の術を持っていた…自分のような犠牲者を出すまいとそれを根こそぎ滅ぼしに向かった…そんなところか…」
「……心でも読めるの?」
また核心をつかれたよ。
「…おぬしの顔に書いてあったのでな」
「な…!」
「ふ…存外わかりやすいのだな。おぬしは…」
なんか笑われた。
「うっさいわね…!」
私は毒づいた。今の私にできる精一杯の抵抗だ。
「…で、それがどうしたのよ?まさか国一つを勝手に潰したことに文句を言いに来たとか?」
私は魔王を睨みながら尋ねた。
「いや…ゾート王国は元々我々の標的であった。あの国は以前から我ら魔族に対して強い敵意を持っており、魔大陸への侵攻の機会を以前からうかがっていた。これまでに奴らの手にかかった魔族も少なくない。その仇をとってくれたことには感謝している」
思わぬ返答だった。
「…異世界召喚を扱う関係者を全て抹殺し、資料も全て焼き尽くした。さらに領土を我々が制圧したことであの国から異世界召喚は根絶やしにすることができたであろう」
魔王は淡々と解説した。
「だが、それで本当に解決すると思うのか?」
「…どういう意味よ?」
「…確かにあの国からは異世界召喚の存在は消え去った。だが、あの国以外にも異世界召喚の技術を有する国があると考えはしなかったのか?」
「……」
「おぬしの行いは正直に言えば短絡的…いわゆる『行き当たりばったり』というものだ」
わざわざ言い直したよ。
「…だったらなんで止めなかったのよ?」
「言ったであろう。あの国は我々の標的であったと。本当に好ましくなければ最初からおぬしを止めている。このようにな」
そう言いながら魔王は自分の右手を軽く握った。
「がっ…!」
私の心臓が一瞬だけ締め付けられるような激痛が走った。私の中の『力』に魔王が干渉したのだ。
「おまっ…仮にも寝込んでいた奴に…!」
息も絶え絶えに私は文句をつけた。
「おっと、そうだったな」
魔王は悪びれる様子も見せなかった。この野郎。
「そもそも、異世界召喚を滅ぼしたいならばまず余を狙うのが定石だと思わぬのか?」
「できるものならとっくにやってるわよ!それに…仮にあなたを殺したところで元の世界に帰れる保証なんてないでしょうが…」
「…それもそうだな」
魔王はわざとらしくうなずいた。
「ともあれおぬしは感情の赴くままに戦い、多くの生命を喰らった結果、おぬしの身体は魔人と化した。そういうことだ」
そう言いながら魔王はゆっくりと立ち上がった。
「…私に罰は下さないの?」
なんだかんだで勝手な真似をしたのだ。それなりに責任を取らねばならないはず。
「必要ない。その分の罰はすでに受けているはずだ。今のおぬしの姿を見ればよくわかる」
私は自分の胸に手を当てた。
「…それだけでいいの?」
「感情的な行動にはそれ相応の代償がある。それさえわかれば十分だ。もっとも、ゾート王国侵攻のために準備した戦力を無駄にし、スケジュールを狂わせた分は働いてもらわなければならぬがな」
「…そう…」
確かにその代償は身をもって思い知った。体調が良くなったらまた体を張ることになるだろう。
「…でもどうするの?また魔人とやらにならないとは限らないんでしょ?」
働くということはこれから先まだまだ戦わなければならない。その過程で私はさらに多くの生命を喰らうだろう。そのたびに魔人になって見境なく暴れるようになっては正直たまらない。
「心配には及ばん。おぬしが喰らった余分な生命は余が預かることにする。そうすればよほどのことがない限り魔人と化することはあるまい」
「…そんなこともできるの?」
「おぬしの中の『力』を通じておぬしを殺すこともできるのだ。そのくらい造作もない」
理屈がよくわからないが、まぁ、なんとかできるのだろう。そっちの心配はいらないようだ。
「…さて、今日はもう休むがよい。栄養をつけてゆっくりと静養するのだ」
マントを翻しながら魔王は医務室を後にした。私はその背中を静かに見送り、ウーナが交換した氷枕に頭を乗せた。
「…どうしてあんなことを聞いたのかしら…」
私はゾート王国で白いローブの魔導士と対面した時のことを思い出していた。魔王の言う通り私は異世界召喚を根絶やしにするためにあの王国に乗り込んだ。当然、あの魔導士の少女も殺すつもりではあった。さっさと殺せばよかったはずなのに、思わず私はあんな質問を投げかけた。
「…何を期待していたのよ…私は…」
異世界召喚を知っているならば、逆に元の世界に還す方法がある。それを知ればさっさと元の世界に帰ることができる。あの魔王の手から逃れることができる。そんな期待が心のどこかに生まれたのだろう。
しかし、横になって文字通り頭を冷やしながら考えてみればそれは無駄な期待だったことがよくわかる。あれだけ暴れまわって『元の世界に帰る方法を教えろ』だなんておこがましいにもほどがある。すでに焼き尽くしてしまった可能性もあったはずだ。
それに、方法を聞き出し、元の世界に帰ったところであの魔王から逃れられるとは限らない。私の中に宿っている奴の『力』を使えばどこに行っても私を殺すことができるはず。結局、魔王の願いをかなえて『力』から解放されなければ意味がないのだ。
「…くそっ!」
考えれば考えるほどやるせなくなる。そんないらだちが私を魔人に変えたのだろう。
いずれにせよ、異世界召喚なんてものはあるべきではない。こんな目にあうのは私だけでいい。そう思いながら私は瞼を閉じた。
腕を組みながら魔王は当然の疑問を私にぶつけた。私は何も答えなかった。
「…異世界召喚か…」
いきなり核心をつかれた。でも私は何も答えない。
「ゾート王国は余とほぼ同じ異世界召喚の術を持っていた…自分のような犠牲者を出すまいとそれを根こそぎ滅ぼしに向かった…そんなところか…」
「……心でも読めるの?」
また核心をつかれたよ。
「…おぬしの顔に書いてあったのでな」
「な…!」
「ふ…存外わかりやすいのだな。おぬしは…」
なんか笑われた。
「うっさいわね…!」
私は毒づいた。今の私にできる精一杯の抵抗だ。
「…で、それがどうしたのよ?まさか国一つを勝手に潰したことに文句を言いに来たとか?」
私は魔王を睨みながら尋ねた。
「いや…ゾート王国は元々我々の標的であった。あの国は以前から我ら魔族に対して強い敵意を持っており、魔大陸への侵攻の機会を以前からうかがっていた。これまでに奴らの手にかかった魔族も少なくない。その仇をとってくれたことには感謝している」
思わぬ返答だった。
「…異世界召喚を扱う関係者を全て抹殺し、資料も全て焼き尽くした。さらに領土を我々が制圧したことであの国から異世界召喚は根絶やしにすることができたであろう」
魔王は淡々と解説した。
「だが、それで本当に解決すると思うのか?」
「…どういう意味よ?」
「…確かにあの国からは異世界召喚の存在は消え去った。だが、あの国以外にも異世界召喚の技術を有する国があると考えはしなかったのか?」
「……」
「おぬしの行いは正直に言えば短絡的…いわゆる『行き当たりばったり』というものだ」
わざわざ言い直したよ。
「…だったらなんで止めなかったのよ?」
「言ったであろう。あの国は我々の標的であったと。本当に好ましくなければ最初からおぬしを止めている。このようにな」
そう言いながら魔王は自分の右手を軽く握った。
「がっ…!」
私の心臓が一瞬だけ締め付けられるような激痛が走った。私の中の『力』に魔王が干渉したのだ。
「おまっ…仮にも寝込んでいた奴に…!」
息も絶え絶えに私は文句をつけた。
「おっと、そうだったな」
魔王は悪びれる様子も見せなかった。この野郎。
「そもそも、異世界召喚を滅ぼしたいならばまず余を狙うのが定石だと思わぬのか?」
「できるものならとっくにやってるわよ!それに…仮にあなたを殺したところで元の世界に帰れる保証なんてないでしょうが…」
「…それもそうだな」
魔王はわざとらしくうなずいた。
「ともあれおぬしは感情の赴くままに戦い、多くの生命を喰らった結果、おぬしの身体は魔人と化した。そういうことだ」
そう言いながら魔王はゆっくりと立ち上がった。
「…私に罰は下さないの?」
なんだかんだで勝手な真似をしたのだ。それなりに責任を取らねばならないはず。
「必要ない。その分の罰はすでに受けているはずだ。今のおぬしの姿を見ればよくわかる」
私は自分の胸に手を当てた。
「…それだけでいいの?」
「感情的な行動にはそれ相応の代償がある。それさえわかれば十分だ。もっとも、ゾート王国侵攻のために準備した戦力を無駄にし、スケジュールを狂わせた分は働いてもらわなければならぬがな」
「…そう…」
確かにその代償は身をもって思い知った。体調が良くなったらまた体を張ることになるだろう。
「…でもどうするの?また魔人とやらにならないとは限らないんでしょ?」
働くということはこれから先まだまだ戦わなければならない。その過程で私はさらに多くの生命を喰らうだろう。そのたびに魔人になって見境なく暴れるようになっては正直たまらない。
「心配には及ばん。おぬしが喰らった余分な生命は余が預かることにする。そうすればよほどのことがない限り魔人と化することはあるまい」
「…そんなこともできるの?」
「おぬしの中の『力』を通じておぬしを殺すこともできるのだ。そのくらい造作もない」
理屈がよくわからないが、まぁ、なんとかできるのだろう。そっちの心配はいらないようだ。
「…さて、今日はもう休むがよい。栄養をつけてゆっくりと静養するのだ」
マントを翻しながら魔王は医務室を後にした。私はその背中を静かに見送り、ウーナが交換した氷枕に頭を乗せた。
「…どうしてあんなことを聞いたのかしら…」
私はゾート王国で白いローブの魔導士と対面した時のことを思い出していた。魔王の言う通り私は異世界召喚を根絶やしにするためにあの王国に乗り込んだ。当然、あの魔導士の少女も殺すつもりではあった。さっさと殺せばよかったはずなのに、思わず私はあんな質問を投げかけた。
「…何を期待していたのよ…私は…」
異世界召喚を知っているならば、逆に元の世界に還す方法がある。それを知ればさっさと元の世界に帰ることができる。あの魔王の手から逃れることができる。そんな期待が心のどこかに生まれたのだろう。
しかし、横になって文字通り頭を冷やしながら考えてみればそれは無駄な期待だったことがよくわかる。あれだけ暴れまわって『元の世界に帰る方法を教えろ』だなんておこがましいにもほどがある。すでに焼き尽くしてしまった可能性もあったはずだ。
それに、方法を聞き出し、元の世界に帰ったところであの魔王から逃れられるとは限らない。私の中に宿っている奴の『力』を使えばどこに行っても私を殺すことができるはず。結局、魔王の願いをかなえて『力』から解放されなければ意味がないのだ。
「…くそっ!」
考えれば考えるほどやるせなくなる。そんないらだちが私を魔人に変えたのだろう。
いずれにせよ、異世界召喚なんてものはあるべきではない。こんな目にあうのは私だけでいい。そう思いながら私は瞼を閉じた。
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